第60話 発病?

「さくらちゃん、訓練場はこっちだよ。いこ~」

「うん!」


 午前中の座学の授業を終え、お昼ご飯を食べた私達は、午後の実技の授業のために訓練場へと向かう。


 午前中の座学の授業はなかなか有意義な時間だった。


 剣についてとか、槍についてとか、斧についてとか、弓についてとか、いろいろ教えてもらったけど、一番有意義だった内容は、対剣使い相手への基本的な戦い方を教えてもらったことかな。


 ふっふっふ。もう私の脳内では、あの男をコテンパンにやっつけるイメージが完全に出来上がっている。今度模擬戦を挑んじゃおうかな。


 ただ、お昼ご飯はちょっとがっかりだった。味が悪いとかじゃないよ。味はとっても美味しいの。ただ、メニューがね、私が何度か利用している、お城の食堂と基本的に全く同じだったの。


 それはそうだよね。学校って言っても、同じお城の中だもん。メニューが一緒のほうが効率いいよね。違ったことといえば、量だけかな? 子供向けに量は少なめだったんだよね。


 私はロイスちゃん、ティリーちゃんと一緒に訓練場へと向かう。


「ティリーちゃんのその布でくるんである長いのってもしかして」

「うん、あたしの木槍だよ!」

「おお~、すご~い。やっぱり槍って長いんだね」

「3mちょっとあるよ!」


 3m以上もある槍か~、強そうだね。


 私達は訓練場へと到着する。訓練場は昨日魔法の授業をした場所だった。


「訓練場って、魔法の授業も武器の授業も一緒のところなの?」

「うん、そうだよ。それよりさくらちゃん、こっちこっち。備品置き場から、訓練用の武器と防具を取ってこよ~」

「うん!」


 備品置き場は訓練場のすぐ横にあった。そしてその中には、木で出来た多種多様な武器がずらりと並んでいる。


「ロイスちゃんはどれにするの?」

「ん~、私はこれとこれかな」


 そう言ってロイスちゃんが手に取ったのは、小ぶりの剣と小ぶりな盾だ。


「ロイスちゃんは、剣と盾を使うんだね」

「うん。お兄ちゃんがこの戦い方なの。私には教えてくれなかったんだけど、何度も見てたからイメージしやすいの」

「なるほど。私はどうしようかな~」


 午前中の授業でいろいろ教わったとはいっても、まだ決め切れていないんだよね。


「まだ決まってないなら、気になるのを全部もってっちゃえばいいと思うよ。それで一番しっくりくるのにすればいいんじゃないかな?」

「そうだね! そうするね!」


 私は剣と槍と短剣を手に取る。


「じゃあ次は防具だね」

「うん」


 私達は同じ倉庫の防具が置いてある方へと進む。


 そして、木で出来た防具をロイスちゃんとティリーちゃんに選んでもらって、それを装着する。防具の着方なんて知らないから、ロイスちゃんとティリーちゃんに全部つけてもらっちゃった。


 でも、防具を付けて武器を持つと、それだけで強くなったような気がするね!


 そして準備万端整った私達は、訓練場へと戻る。まだお昼休みの時間なのに、もうほとんどの子が訓練場に来ていた。


 生徒たちはみんな早く授業が始まらないかとそわそわしてるみたいだ。ある子は素振りをし、またある子は訓練場の隅にたたずむ人型の人形を叩いている。あの案山子みたいなの、昨日魔法を当てたやつだ。


「お~っし、ガキども、お待ちかねの実技の時間だ。とりあえず俺の前に集合だ!」

「「「「「は~い」」」」」


 戦士みたいな風貌の男性教師が訓練場に現れ、生徒たちを集める。うん、みんな結構な勢いで向かって行くね。私も遅れないようにしないと。


「んじゃ、これから授業が始まるわけだが、みんな装備は問題ないようだな」


 そう言いながら先生はみんなの装備をチェックする。


「よし、そんじゃあ、武器ごとに分かれて指導をしていく。あそこに別々の武器を持った4人の先生がいる。先生達がそれぞれ剣、槍、斧、弓を持っているのが見えるな? もうわかったと思うが、教わりたい武器を持っている先生のところにいきな。まだ武器が決まってない奴や、あの4人が持っていない武器を使いたい奴はここに残れ。んじゃ、移動しろ!」

「「「「「は~い」」」」」


 みんな勢いよく各先生の元へと走って行く。もちろんロイスちゃんは剣の先生、ティリーちゃんは槍の先生のところだ。そして私は、武器が決まっていないので不動の構えだ。


「ん~、今年は剣の人気が妙に高いな」


 走り去っていって生徒たちを見て先生がぽつりとしゃべる。


「はい、先生」


 私と一緒にこの場に残った生徒の一人が手を上げる。真面目そうな女の子だ。おしゃべりはしてないけど、午前中の授業の時に、私達と一緒に前の方に座っていた子だね。


「なんだ?」

「たぶんですが、英雄ボヌールの影響ではないでしょうか?」

「あ~、それがあったか。ただでさえロジャー将軍の影響で剣人気高いってのに。まあしゃあねえか、んで、俺のとこに残ったのはお前ら3人か。それぞれ何希望なんだ?」

「私はムチです」


 真面目そうな女の子はそう答える。ムチ使いとは、渋いね!


「ほう、ムチか、良い武器だが扱いは難しいぞ?」

「わかっています」

「次の奴は?」

「俺はこいつだ!」


 そう言って男の子はこぶしを見せる。


「ほう、武器なんていらねえってんだな、それも悪くないか」

「ああ、おのれの肉体で戦ってこそ男ってもんだぜ!」


 おお~、なんか熱い男だね! でもこの男の子、決してでっかいっていうわけじゃない。私よりは大きいけど、ロイスちゃんとほぼ一緒の大きさかな? ティリーちゃんより小さいかも。


「最後は、聞くまでもねえな。迷い中か?」

「はい。あの男、じゃなかった、警備部隊のバーナード隊長に一番楽に勝てる武器を知りたいです!」

「は?」

「いえ、だから、警備部隊のバーナード隊長に楽に勝てる武器を学びたいです」

「あ~、そういや薬師のさくらはバーナード隊長を嫌ってるって話だったが、まじだったのか」

「はい! なので一度コテンパンに倒したいのです」

「とりあえずお前さん、もともとは剣を背負ってたんだよな? 見てやるから振ってみ?」

「はい!」


 私は持ってきた武器の中から、剣を手に取って構える。


 そして。


「とりゃ~!」


 私は全力で剣を振って地面に思いっきり叩きつける。どう? 私の正真正銘手加減無しの本気の一撃は!


 周囲に沈黙が訪れる。


「あ~、お前ら、今の一撃どう見る?」


 先生が生徒二人に聞く。


「まるで斧を振るかのような一撃でした」

「同感だ。ただ、戦斧じゃなくて、薪割りのほうだな」

「だな」


 ん? 斧?


「それは、斧のほうが私にあってるってことですか?」

「何でそうなんだよ! 一言言わせてくれ、お前そんなんでどうやってバーナード隊長に勝つ気だ?」

「いえ、午前中の授業を聞く感じ、勝てそうな気がしたんです」

「あ~、あれか、俺の授業を聞いて、脳内シミュレーションで強者になったってくちか」


 脳内シミュレーションで強くなったって、あなたが教えたことですよ?


「時々いるよな。こういう夢見がちなやつ」


 失敬な! 夢見がちじゃなくて、リアルなシミュレーションのもとで導き出された答えなんだけど!


「私にもそういう時期はありましたので」


 へ~、この真面目そうな女の子にそんな時期があったなんて。


「うぐ。だが、俺はそいつほど夢見がちじゃねえ!」


 男の子のほうは現在進行形で心当たりがあるみたいだね。


「そりゃお前らはいいんだよ。ガキが将来の夢をでっかく見るってのは、良いことだ。俺もそうだったしな。でもよ、こいつは見た目はともかく、中身は大人だぞ? 全くのド素人、十中八九この学校の中でも最弱のやつが、俺の授業を聞いただけでバーナード隊長に勝てると思ったって、どう思うよ?」

「えっと、それは」

「お、おう」


 あれ? これはもしや、日本で言うところの中2病ってこと? 嘘でしょ。私中学校なんて、とっくの昔に卒業してるよ!?




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