第59話 裏切りもの? の剣
戦士みたいな男の先生の授業が始まる。
「まず、今日午前中に行う3つの座学は、すべて午後の実技のためにあると思ってくれ。君たちが今日扱うのは本物の武器ではないが、いくら木で出来た偽物とはいえ、人くらい簡単に殺せる凶器だということを十分に理解した上でこの授業に取り組んでほしいと思う。わかったな?」
「「「「「はい!」」」」」
その通りだね。木刀とか超痛そうだったもん。
「もうすでに両親から教わったり、学校外の場所、例えば道場なんかで教わっている奴らも多いと思うが、まずは武器の種類、それから各武器の長所短所などを話していくぞ。まずは剣からだ」
先生は剣について語りだす。
剣といわれて思い出すことといえば、もちろんあの剣だ。私が猫ボディで素材から探し作り上げた、とっても強い剣!
私としては、我が子同然に可愛がっていた剣だったんだけど。やつは裏切った。そう、あの時のことは、今でもまるで昨日のことのように思い出せる。
あれは、ミノタウロス達との戦いが終わった3日後くらいだったかな? 私が人間ボディでお城の第2拠点から出て、お城の食堂に向かっていた時に、ひとりの軍人さんに呼び止められたんだよね。なんでも、あの男からのメッセージで、剣を返したいので、時間がある時にお会いしたい、というものだった。
もちろん私は許可した。すると、丁度いいことにあの男はロジャー将軍のところに来ていたみたいだったから、こっちからわざわざ会いに行くことにした。
ああ、本当に昨日のことに思い出せる。
「ロジャー将軍、さくら様がバーナード隊長の剣の件で、バーナード隊長にお会いしたいと申しているのですが、お通ししてもいいでしょうか?」
私をロジャー将軍の部屋まで案内してくれた軍人さんが、ノックの後要件を伝えてくれる。
「おう、かまわんぜ!」
「ではさくら様、お入りください」
「ありがとうございます」
私は部屋に入る。部屋の中にはロジャー将軍、デスモンドさん、あの男だけじゃなく、他にも何人かいた。これってもしかして、会議とかしてたのかな? それとも報告? なんにせよ仕事中だったみたいだね。これはちょっと申し訳ない。
「ようさくら! よく来たな!」
「すみません、お仕事のお邪魔をしてしまいまして」
「かまわんよ。そもそもさくらの剣は、正式には俺が借りてバーナードにまた貸ししたもんだからな。本来なら俺から返すのがすじだったしな」
「いえ、気にしておりませんので」
「そう言うと思ったぜ」
「では、ロジャー将軍」
「ああ、こっちの要件は後でいい、まずは剣を返してやりな」
「はい、では」
あの男ことバーナード隊長は、部屋の隅に置いてあった細長い木箱の中から私の剣を取り出す。
現れた剣は、凄く見事にぴかぴかだ! ペルさんがボヌールさんに渡した時とは違って、どこにも汚れがない。
「すごいぴかぴかですね!」
「ええ、城の鍛冶師に丁寧に磨かせましたので」
「ほう。どれ、汚れが本当にないか、俺が確かめてもいいか?」
「はい、お願いします」
うん、私だけが確認するより、ロジャー将軍に確認してもらった方が確実だよね。
ロジャー将軍は剣を鞘から抜き、目線の高さまで持ち上げると鋭い目つきで刃を中心に剣を見る。
何を見ているのかはわかんないけど、真剣な顔つきのロジャー将軍の迫力はすごいね。なんか、私が緊張しちゃう!
光にかざしたりしながらたっぷりと剣を見つめた後、ロジャー将軍は剣を鞘に納める。
「すげえな。刃こぼれも曲がりも一切ない」
「ええ、あの7mのミノタウロスを切断した後の剣とは思えませんね」
ん? 意味がよくわからない。
「それは、どういう事なのですか?」
「例えば俺の愛剣なんだがな、6mのミノタウロスとやり合ってる最中に、かなりぼろぼろにされちまったんだよ。だからいま修復中だ。それは他の連中の武器もかわらん。だが、バーナードの話によると、この剣は7mのミノタウロスを切ったにもかかわらず、刃こぼれも無きゃあ曲がりも無かったんだろ?」
「はい、鍛冶師に確認してもらえればわかりますが、直すところが特になかったため、念入りに磨いただけだそうです」
ますます意味がわからないよね。ボヌールさんは確かにこの剣で7mのミノタウロスを倒したけど、あの斧とキンキンぶつけ合ったわけじゃないし、一回切りつけたくらいで剣は壊れないと思うんだけど。
「その顔、よくわかってないって顔だな。いいか、よく聞け。6mや7mのミノタウロスともなりゃあ、連中の防御力も桁違いに高くなるんだよ。どのくらい硬いかっていったら、皮膚に傷をつけるのでさえ名剣がいるっていうレベルだ。実際俺の剣も名剣と呼んでも差しさわりないものだが、皮膚はともかく、筋肉にはなかなか刃が通らなくて苦労したぜ。だから、いくら使い手の差があるとはいえ、7mのミノタウロスを切って刃こぼれ一つ無しってのは、正直驚いている」
おお~、流石私の愛剣だね。私も鼻が高いよ!
「それじゃあ、ほれ、返すぜ。本当はこのまま貰いたいくらいなんだが、こればっかりはな」
「はい、私の相棒ですので」
ロジャー将軍が私に剣を差しだしてくれたので、私はそれを受取ろうと手を伸ばした。でも、その時だった。
ばっち~ん!
私の手は、剣に触れるなく弾き飛ばされた。
「え?」
「は?」
「将軍?」
「いやいや待て待て、流石にいくらなんでもこの剣を貰っちゃおうとして何かしたりしねえよ!」
私もロジャー将軍がそんなことをする人じゃないと信じてる。でも、何が起きたんだろ?
私はもう一度剣に手を伸ばす。
ばっち~ん!
「えええ!?」
「なんだこれ? おいさくら、テーブルに置くから、お前テーブルから取れ」
「はい」
ロジャー将軍は私の剣をテーブルに置く。よし、今度こそ大丈夫かな? 私は意を決して剣へと手を伸ばす。
ばっち~ん!
「な、なんで!?」
「おいおい、こりゃあどういう事だ?」
「すみません、私が触ってもいいでしょうか?」
「はい」
「ああ、構わんぞ」
その後、この部屋にいる人がそれぞれ触ってみるも、みんな普通に持てた。
「そういえば、鍛冶場の親方が言っておりました。この剣は親方をはじめ熟練の職人達が念入りに磨いてくださったそうなのですが、親方が過去に見たことのない名剣だと絶賛していため、この剣を、親方の目を盗んで弟子のひとりが触ろうとしたそうなんです。ですが、その弟子は腕をはじかれ、結局触れなかったと。私は最初親方の冗談かと思ったのですが、これはもしかすると」
「なるほど、魔剣かもしれねえってことだな」
「はい」
「よし、ちょっと確かめてみるか。バーナード、お前ひとっ走りして鍛冶場の熟練職人を一人と、新米一人借りてこい。デスモンド、お前はこの城の中で弱そうなやつを適当に連れてこい」
「は!」
「はい」
その後、ロジャー将軍指揮のもとに私の剣に対して実験が行われた。
その結果、どうやら私の作った剣は、ある程度以上強い人だったり、腕のいい職人さん以外には一切触ることが出来ないようになっていた。
「なあさくら、お前この剣で一度でも戦ったことあるのか?」
「・・・・・・、一度も鞘から抜いたことがないです」
「だよな~、これ、もしかするとバーナードやボヌールに使われて、戦うことの楽しさに目覚めたんじゃないのか?」
いきなりそんなこと言われても困るよ。
「で、どうするよ? バーナードにお前の部屋に運び込ませるか?」
それなら確かに私の手元に剣はかえってくるけど、私の触れないオブジェが一つ増えるだけだ。そんなの余りにも悲しすぎる。よし決めた、強い人なら触れるっていうのなら、この剣に私が強者であることを認めさせよう。
「ちょっと、こいつと勝負します。骨は拾ってくださいね」
「お、おう、がんばれよ?」
私はこの生意気な剣に向かって飛び掛かる。何度弾き飛ばされても、しつこく何度も飛び掛かる。
「かくご~!」
ばっち~ん!
「はう!」
「まだまだ~!」
ばっち~ん!
「むぐ!」
「いい加減負けを認めろ~!」
ばっち~ん!
「みぎゃ!」
「お、おのれこしゃくな」
「あの、さくら様、お鼻が」
「え? 鼻?」
私はデスモンドさんに言われて、鼻に手を当てる。すると、赤くて、鉄っぽい匂いのする液体が鼻からダラダラと出ていた。ううう、ううううう、ううううううう~!
「もうお前なんて知らない! この裏切りもの! お前なんてロジャー将軍のとこでもどこでも、好きなところにいっちゃえ~!」
そして私は、我が子同然に可愛がっていた愛剣と、袂を分かつことになった。
「さくらちゃん、さくらちゃんってば」
「ふえ?」
「もう、さくらちゃん、授業中だよ」
そうだった。今は授業中だったね。剣の話をされてついつい思い出しちゃった。
「ごめんねロイスちゃん。ちょっと剣の話を聞いていたら、忘れられない思い出を思い出しちゃっててね」
「そうなの? でも、授業はちゃんと聞こうね?」
「はい、わかりました」
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