第29話 ロジャー将軍はいい将軍

「将軍、そろそろ本題に移られては?」

「そうだったな! 飯食いながら礼を言うために呼んだんだったな。わりい、ついつい脱線しちまったぜ」

「いえ、お構いなく」


 剣を見たりしてるときのロジャー将軍は、真剣で怖い顔もしてたけど、総じて楽しそうだった。きっと剣が好きなんだね。


「ってなわけでだ、最高級のポーションの提供、感謝するぜ!」


 そう言ってロジャー将軍はぺこりと頭を下げてくれる。


「いえいえ、お気になさらず。お代は頂いちゃってますし」

「いやいや、こういうのは値段云々の前に入手が難しいんだよ。金を出せば買えるもんじゃねえってやつだな。妖精の国が値段の一覧を出してくれてるから、一応相場はあるんだが、出すとこだしゃあ、相場よりはるかに高値で取引されることが当たり前だ。そんな薬をまとまった数相場で売ってくれるなんて、まじで感謝してる」


 そんなレアな薬だったんだね。拠点の桜の木も、最近は花が少なくなってきてるし、花びらが無くなっちゃったら作れなくなるかもしれないと考えると、確かに大事にしないとだね。


「さて、昼飯なんだが、ここに持ってこさせてもいいか?」

「はい」

「じゃあ、悪いが二人分頼むぜ」

「かしこまりました」


  そして、デスモンドさんとあの男が部屋から出ていく。はあ~、やっと出ていったよあの男。私の剣と一緒っていうのがちょっと気に入らないけどね。


 そして、少し待っていると、デスモンドさんがご飯を持って入ってくる。


 メニューはステーキセットっていう感じだね。何かのステーキとパン、スープにサラダ、それからドリンクが出てきた。この街ではステーキセットって、結構ありふれたメニューなのかな? どこに行ってもメニュー表にあるね。


「ん? おい、さくらの分が少なくねえか?」


 すると、ロジャー将軍が突然そんなことを言い出す。確かにロジャー将軍に出されたものと比べると、メニューは一緒だけど量はかなり少ない。私の前のご飯の量はロジャー将軍の5分の1くらいかな? でも、いくらでも食べようと思えば食べれる猫ボディならまだしも、人間ボディだと、この量でも十分すぎるほど多い。もしロジャー将軍と同じ量を出されたら、絶対に食べきれない。


「いえ、私はそんなに食べられませんので」

「ん? そうか? って、そうだったな。ここのところ部屋で一人で食うことが多くて、普通の奴が俺ほど食わねえってことを忘れてたぜ。んじゃ、食うか」

「はい!」


 私達はお昼ご飯を食べ始める。ロジャー将軍はすごい健啖家だね。ものすごいスピードでご飯が消えていく。そういえば、ロジャー将軍って大怪我してたんだよね? 手紙に私のことを恩人とか、起きてすぐは動けなかったとか書いてあったし、ガーベラさんもこの街の将軍が大怪我したって言ってたし。でも、これなら完全に治ってるのかな?


「ん? 俺の顔に何かついてるか?」

「あ、いえ、ロジャー将軍って大怪我をしていたのですよね? 大怪我をしていたなんて思えないほどの、すごい食べっぷりだなって思いまして」

「ああ、お前さんのポーションのおかげで見ての通り全快だぜ!」

「それは良かったです」

「んでさくら、そっちから俺達への要求は何かないか?」

「そうですね、この街への出入り含め自由に動きたいです。それと、監視するような真似を止めてほしいです」

「ん? 薬師なら街への出入りはもともと自由だろ? それに、監視?」

「私の行方不明騒動って知ってますか?」

「そりゃもちろん」

「あの騒動のきっかけは、宿のドアに、ドアを開けないでくださいの札をかけていたのですが、バーナードさんが勝手に開けたことがきっかけなんです。その時丁度私が出かけていたので」


 実際に開けたのは誰か知らないけど、あの男が来た時に開けたって言ってたから、当たらずとも遠からずっていうやつだよね。


「なるほどな、でも、ずいぶん長いことでかけてたよな?」

「それは、大事になってて帰りずらかったと思ってください」

「ふむ、わかったぜ。あの宿屋には俺も顔が利くし、あの札を出しているときは何があっても開けないように注意しとくぜ。だが、監視ってのは何のことだ? さくらのことは丁重に扱うようにって言い含めておいたんだが」

「監視の件はゼニアさんに教えてもらいました。宿の客や従業員にまぎれてこっちを監視してるって」

「ゼニアって、女ハンターのゼニアか? よくドレス着てる」

「はい、いつも奇麗なドレスを着ている奇麗な人です。そのゼニアさんが、あの男の、バーナード隊長の手の者だって言っていました」

「なるほど、分かった。監視の件はバーナードの野郎にきつく言っとくぜ」

「はい! 思いっきりガツンってお願いします!」

「お、おう」


 私がここぞとばかりに息巻いてそう言うと、ロジャー将軍は若干引いたような顔をしながらも、了承してくれた。


「一ついいか? さくらの言い分だと、行動を縛られたくないってだけじゃなくて、個人の空間に他人が立ち入ってほしくないってのもあるよな?」

「はい、仕事上秘密というか、一人の方が都合のいいことが多いので」


 流石に猫ボディと人間ボディの行き来を見られるのは、まずいよね?


「じゃあ、避難の時も個室を用意しとくか? そのほうが便利だろ」

「いいんですか?」

「ああ、構わねえよ。んで、もし避難するとしたらどのタイミングで避難する?」

「避難にタイミングがあるんですか?」

「ああ、ミノタウロスどもとの戦闘が本格化する前までなら船で脱出できるし、ギリギリまで粘るってんなら、この城の中に1室用意するぜ」

「それは、籠城するのですか?」

「そうか、この街の連中じゃないとあんまり知らないかもな。実はこの城には面白い機能があってな。いざとなったら城ごと湖に逃げれるんだよ」

「それって、このお城そのものが大きな船ってことですか?」

「そんな感じだ。なにせこの城の別名は、船城だからな!」

「すごいです! かっこいいです!」


 こんな大きなお城が丸ごと湖を移動するなんて、まさにファンタジーって感じだね!


「つっても、城がデカすぎて移動速度は遅いんだがな! んで、どうする? 船に1部屋用意するか? この城に1部屋用意するか?」

「えっと、ギリギリまでいたいのでお城に1部屋お願いします」

「いいのか? いくらやばくなったら逃げるとはいっても、リスクがないわけじゃないぜ?」

「覚悟の上です」


 そして、少しだけ私とロジャー将軍は睨み合う。実際にはロジャー将軍に睨まれたら、私はひとたまりもないと思うので、気合を入れて目力を全開にしてるのは私だけだけどね。


 睨み合うこと数秒、ロジャー将軍がふっって笑いながら話し出す。


「よし。じゃあ、さくらには南側の部屋を1部屋やるよ。もし防衛に成功したら、今後その部屋をずっと使っていいぜ。湖の貴婦人のような豪華な設備なんかはないが、そこそこ広くて窓もあるから、とりあえずの拠点として持ってても損はないと思うぜ」

「いいんですか? お城の設備ですよね?」

「俺がいいって言ってんだ。構わねえよ。お前だって街の中に、宿じゃないちゃんとした拠点があると便利だろ? じゃ、飯を食い終わったらデスモンドに案内させるから、食後の楽しみにしときな」

「はい、ありがとうございます!」


 ロジャー将軍はいい人だね。私の代わりにあの男にガツンってやってくれるって言うだけじゃなくって、街の中に安全な拠点まで用意してくれるなんて! これで街の中でも安心して猫ボディと人間ボディとをチェンジできるね!



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