第28話 お城と将軍と私の剣
翌日のお昼前、私は昨日の約束通りこの街の南に位置するお城へと向かう。宿屋のオーナーのジュディさんには馬車を出しますと言われたけど、今回は断固拒否した。お付きの人もね。この世界、言い方はともかく、イエスノーははっきりさせないといけない文化みたいなんだよね!
なので、私は徒歩で街を見学しながらまったりとお城へ向かう。流石は町の反対側の北の門からでも大きく見えるお城だ、近くから見ると凄く大きい。ついついポカーンって見上げちゃってたけど、気を引き締めて入り口へと向かう。
するとお城の入口には、昨日から私の宿敵となったあの男ことバーナードと、もう1人、品の良さそうな老人が立っていた。
そして、あの男が1人私の方へ歩いてくる。
「ようこそお越し下さいました、さくら様」
あの男がにこやかに挨拶してくる。だけど、今日の私はガツンと言う練習までして戦闘準備万全だ、そう簡単にはほだされない!
「なんのようですか? 私はロジャー将軍に会いに来たのですが」
私は思いっきりとげとげしく対応する。
「おや? 嫌われてしまったようですね。ですが、街への無断の出入り等の問題行動を、あの程度のお説教で不問にして差し上げたのは私の温情なのですよ?」
「証拠はあるんですか?」
「証拠?」
「私が無断で街に出入りした証拠はどこにあるんですか?」
「あなたはご自身で街の外に出たとおっしゃっていたでは無いですか」
「私は外に行っていたと言っただけです。宿の外に出るのの何が問題なのですか? ジュディさんならまだしも、宿屋と無関係の貴方に咎められる理由がございません。そもそも仮にですよ。仮に私が街へ無断での出入りをしていたとして、どうして門番さんの達の隊長であるあなたが知らないのですか? そんなのは不可能なはずですよね?」
ふっふ〜ん! どうだ参ったか!
「屁理屈を、ではあのポーションはどう説明なさるのですか?」
「仕事上の秘密です」
ふっふっふ、今日こそは完璧な返しのはずだ。ゼニアさんにも手伝ってもらって、この戦いのシミュレーションは完璧なのだよ!
すると、私とバーナードこと、あの男との戦いを見かねたのか、あの男の横に立っていた老人もこちらに歩いてくる。
敵の増援か? だが、私は負けないよ!
「ほっほっほ、これはバーナードの負けですな。私はデスモンド、この城で雑用をしております」
「デスモンド様!?」
「さくら様のおっしゃる通り、さくら様が街の外へ出た証拠はないのでしょう?」
「それは」
おお~、凄い。あの男をこうもあっさり黙らせるなんて! どうやらこの人は敵じゃないみたいだね。なら、普通に接しよう。
「さくらと申します」
「ロジャー将軍よりお話は伺っております。どうぞこちらに」
「はい」
デスモンドさんも軍人さんなのかな? 腰に剣を差してる。でも、体つきは細いし、あんまり兵士っぽくないね。雰囲気も穏やかだし、執事さんと言われても違和感ないね。
私はデスモンドさんの後に続いてお城の中を歩いていく。ロジャー将軍からの手紙にあったように、お城の中は華やかさとは無縁の無骨な雰囲気だ。絵画や花といった飾りが一切ない。その代わりなのか、あちこちに剣とか盾、槍が飾られている。
「ん~、本物っぽいし、飾りなのかなこれ?」
「ほっほっほ、この武器は飾りでもございますが、いざという時に使用するための武器でもあります。危険ですので、迂闊に触らないようご注意ください」
心の声が漏れていたみたいだ。デスモンドさんに聞かれていた。
「はい。わかりました。でも、なんかかっこいいですね」
「そう言っていただけると将軍も喜びます」
武器の飾りは将軍の趣味なのかな? でも、武器の飾りに加えて、剣や槍、斧に弓とかを持って武装した軍人さんがその辺を歩いていることも、無骨な雰囲気に拍車をかけているね。
ちなみに、あの男はしつこいことに今も一緒に歩いてる。しかも、私の背後にいる。振り返って、どっか行けって目で睨みつけても今となってな不気味にすら思える作り物のような笑みを浮かべて付いてくる。
「さくら様、到着致しました」
私が後ろを思いっきり睨んでいると、どうやら到着みたいだ。結局あの男を威嚇して追い払うことには失敗した。残念。
デスモンドさんに連れられやってきたのは、一際大きな扉の前だった。やっぱりここも豪華というよりも無骨なデザインだ。
ゴンゴンゴンッ。
「ロジャー将軍、さくら様をお連れしました」
「おう! 待ってたぜ! 入ってくれ!」
「どうぞお入り下さい」
デスモンドさんがドアを開けて、私を迎え入れてくれる。
「失礼します」
私がぺこりとお辞儀をしながら部屋に入ると、奥の机から一人の大男がニコニコ顔でこちらに向かってきた。
「よう! 俺がロジャーだ。よろしくな!」
「さくらと申します。こちらこそよろしくお願いします」
ロジャー将軍は、なんていうか、ボヌールさん並みにでっかい人だ。縦にも横にもすっごく大きい。年齢は、白髪が結構多いみたいだから、結構いいお年なのかもしれないけど、ムッキムキのせいか若くも見えるね。ただ、いまはニコニコ顔だからいいけど、凄んだりしたら怖そうだね。顔に傷もあるし、完全に強面系だ。
「俺のことは気軽にロジャーと呼んでくれればいい。お前さんのことはなんて呼べばいい?」
「私のこともさくらとお呼び下さい」
「わかったぜさくら! ま、座ってくれや」
「はい」
ロジャー将軍の部屋はこれぞ偉い人の部屋って感じの部屋だった。正面には大きな机があり、その手前には応接セットがある。私は遠慮なく応接セットのソファーに座る。場所はロジャー将軍の対面だ。
「うぐっ」
不覚! またしても剣を背負ってるのを忘れてた。おまけに剣に引っ掛かった拍子に変な声まで出ちゃった。しかも、ロジャー将軍と、その後ろに控えるように立っていたデスモンドさんとあの男にその姿を見られた。デスモンドさんは見ないふりをしているというのに、あの男は笑ってる。むき~!
私は一度立ち上がると、剣を肩から下ろして、え〜っとどうしよう。その辺に立てかけて置けばいいのかな?
その辺のマナーすら分かんない、どうしよう? 前回はジェームズさんと話してた時は椅子に立てかけてたんだよね。それで、あの男と話してた時はジェームズさんに荷物と一緒に預けてたんだっけ。
まあいいや、背もたれに立てかけとこ。そんな風に思ってると、ロジャーが話しかけてくる。
「なあさくら、部屋に入って来た時から思ってたんだが、その剣、お前には長すぎないか? おまけに鞘を見た感じ、横に開くわけでもなさそうだけどよ、どうやって抜くんだ? それ」
え? どうやってもなにも、普通に抜くだけだよね?
「えっと、普通に抜きます?」
「どうやってだよ。ちょっとやって見せろよ」
「はい」
私は剣を背負いなおして、普通に抜こうとする。
「あ、あれ? 抜けない? な、なんで?」
「普通抜けねえよな?」
「え? 大きい剣って、背負うものじゃないんですか?」
「いや、背負うのはいいんだよ、お前の背丈でその刃渡りじゃ、腰に差したら地面を擦りそうだしな。ただ、身長に対してそこまで長い剣を背負うともなると、普通鞘に何かしらの細工をして、簡単に抜けるようにするんだよ」
そんな馬鹿な、だって前回素振りした時は普通に抜いたし、鞘にしまうことだって出来た。腰に差すと地面にずりずり当たるから、背中で背負う持ち方しかしたことはなかったはず。
前回のことを思い出せ、私。どうやって抜いて素振りして閉まったんだっけ? え〜っと、え〜っと。思い出した! そうだ、そもそも私、この剣を抜いたことない気がしてきた。前回素振りした時は鞘が無かったし、鞘にしまうのも猫ボディのサイコキネシスを使った気がする。
衝撃の事実に私は愕然とする。
「さくら、お前気付いていなかったのかよ。よくそんなんで1人旅が出来たな。デスモンド、さくらの動きはどんな感じだった?」
「一言で申し上げれば、素人のそれですね。歩き方、目線の配り方、どこを取っても戦闘経験があるものには思えませんでした」
え? デスモンドさん、そんなことをチェックしながら歩いていたの?
「ん〜、さくら、剣抜いてやるからさ、ちょっと素振りしてみ?」
素振り? こんなところで? 天井は高いから大丈夫そうだけど、床に敷かれた絨毯にキズが付いちゃうよね? 大丈夫なのかな?
「あの、床の絨毯がキズついてしまうので」
「なんで素振りすると絨毯が傷になるんだよ?」
「素振りしたら、床にどかって剣があたりますよね?」
「当たんねえよ! はあ、じゃあ鞘付けたままでいいから振ってみ?」
「はい」
私は鞘に入ったままの剣を振るう。
「や!」
そして、どかって床を叩く。ううう、何だろう、3人の様子がおかしい。
「さくら、そんなことしたら剣なんざすぐ壊れるぞ?」
「大丈夫です! 物凄く頑丈な剣なので! 床を切ったくらいで壊れるような安物じゃありませんよ!」
なにせ猫ボディ印の名剣だからね! 品質には自信があるよ。
「う〜む、さくら、ちぃっと剣貸してみ」
「はい」
私が剣を渡すと、ロジャー将軍が剣を抜く。うう~ん、真剣に剣を見るその顔が、凄く怖い。どこぞの悪役のようだ。
「ほう、なにで出来てるのかは分からんが、いい剣だな」
「はい! 自慢の一品です」
「魔力を流してもいいか?」
「どうぞ」
私には何をしてるのかよくわからないけど、ロジャー将軍は私の剣を持ってなにか試した後。ほほうって顔をした。その後おもむろに部屋の隅にあった剣を手に取ると、私の剣を左手に、部屋にあった剣を右手に持つ。そして、すっごく凶悪な笑みを浮かべる。
「おい、数打ちの剣を適当に持ってこい」
「はっ」
ロジャー将軍はあの男に剣を持って来させると、私の剣を左手に新しい剣を右手に持って、コツンと二つの剣をぶつけた。すると、あの男に持って来させた分厚い剣が、いとも容易く真っ二つになった。
え? 何これ凄い。あの男が持ってきた剣は、私の剣よりはるかに分厚かったのに、こんな簡単に切れちゃうなんて!
「お前、こんな剣どこで手に入れた?」
「え〜っと、貰い物です」
「そうか、お前さんが助けた相手からもらったってことか」
う〜ん、猫ボディを他人と仮定した場合、薬を作って捻挫を治してくれたのも、剣を作ってくれたのも猫ボディだから、助けた相手に貰ったんじゃなくて、助けてもらった相手に貰ったことになるね。
「えっと助けた相手じゃなくて、助けてもらった相手に、剣ももらいました」
「何だその太っ腹なやつは。ところでさくら、お前、ミノタウロスどもとこの剣で戦うつもりだったりするのか?」
「いえ、旅の薬師をするにあたって、武器が無いと格好良くないから作ってもらっただけですので、使う予定はないです」
「そんな理由でこんな名剣をくれたやつがいるのか? すげえな」
そう言うと、ロジャー将軍は真剣な顔をして黙ってしまう。そして。
「ちっと言いにくいことだし、図々しい頼みだってのはわかってるんだが、今度のミノタウルス戦の間だけでも、この剣を貸してくれないか?」
「はい、どうぞ」
私がそういうと、ロジャー将軍はぽかんって顔をする。
「いや、頼んどいてなんだがよ。いいのか? 相当な業物だぞ?」
「いいですよ。私にはかっこよくてちょっと大きいアクセサリーくらいの価値しかないものですし」
「そ、そうか、すまんな。借りるぜ」
「はい」
ロジャー将軍はこんな名剣がアクセサリー? いや、確かにさくらに使えそうな気はしないけどよ。などとブツブツ言ってる。小言の独り言のつもりだと思うんだけど、バッチリ聞こえちゃった。
でも、別に貸すくらいいいよね。拠点に戻ればいくらでも作れるし。
そして、ロジャー将軍は私の剣を、わたしのけんを、ワタシノケンヲ、あの男に、あのおとこに、アノオトコニ、渡した。わたした。ワタシタ。
ちょっとまって~! ロジャー将軍! 将軍が使うのはいいよ。デスモンドさんが使うのもいいよ。ジェームズさんが使ってもいいし、名前も知らない軍人さんが使うのもいいよ。でも、その男が使うのだけはダメ! 私の宿敵だよ!?
「さくら様、ありがとうございます。しばしの間お借りしますね」
バーナードはすっごくいい笑顔で私にお礼を言う。うぐぐ! ロジャー将軍に貸すって言った手前、この男に貸すなら返せっていうのは、流石に言いにくい。
ううう、ううう。ううう~!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます