第46話 食欲の化身
ちょっと早めのお昼ご飯を食べて城壁の上に行くと、ロジャー将軍達が、城壁の外に出ていた。私達がご飯を食べている間に、城壁の外のミノタウロス達を一掃していたみたいだ。
『ロジャー将軍達、外で迎え撃つんですか?』
「ああ、今まで防衛に徹していたのは、こっちの戦力を温存しつつミノタウロス達の戦力を効率よく削るためだ。だが、こちらの目的はあくまでもミノタウロス達の討伐だからな、本隊が攻めて来るってんなら、迎え撃つのみってことさ。それに、外に打って出たとはいえ、街のすぐそばってのはこっちの方が圧倒的に有利だ。城壁の大砲の射程内でもあるし、安全な場所に回復拠点を設置できるから、いつでも引いて回復できるからな」
『それなら安全ですね』
「だろ? お、さくら、ロジャーの肩のところ見てみな。アオイが飛び乗ったぜ」
私がもう一度ロジャー将軍を見ると、アオイがその肩に可愛く乗っている。いいな~、私が人間ボディの時にも、肩に来てくれないかな?
あれ? よく見るとロジャー将軍の側には、アオイだけじゃなくてペルさんとか、他のにゃんこ達もいるね。それに、デスモンドさんや、私の剣を持っているあの男こと、警備部隊のバーナード隊長もいる。
「さくら、ミノタウロスどもの本隊も現れたぜ」
ボヌールさんに言われてミノタウロス達のいる奥のほうを見ると、大きなミノタウロス達が現れる。なるほど、確かに大きいね。これが6mのミノタウロスなんだ。6mのミノタウロスの周辺には、側近なのかな? 美味しいミノタウロスが、じゃなかった、5mのミノタウロスが何匹かいる。なんだろう、危険な相手のはずなのに、涎が危ないことになりそうだ。
でも、そこは猫として、人間として、がんばって耐える。
『あれが、6mのミノタウロスなんですね』
「ああ、だが、不味いな」
『不味いんですか? 美味しそうですよ』
どこからどう見ても、絶品だった5mのミノタウロスよりも美味しそうだよ? 不味そうな要素なんて無いと思うんだけど。
「いや、さくら、お前マジで食欲の化身なんだな。見ろ、6mのミノタウロスが3匹も居やがるだろ? 前回1匹の6mと、その取り巻きの5m相手に大損害だったんだぞ。美味しそうかどうかの前に、倒せるのかが微妙だ」
食欲の化身って、流石にそんなあだ名は嫌だ! でも、確かによく考えるとそれはピンチだよね。あんな美味しそうなのに、食べれないかもなんて。
『それはダメです。絶対食べたいです』
「わかってる、俺も食いてえ。だが、防衛戦の優位を差し引いても3匹はちと多い。ロジャー達が1匹やるとして、後の2匹をどうするかだ。アオイやペルを始めとしたうちのメンバーなら、1匹はやれるだろうが、取り巻きがいることを考えると、ほぼ全戦力を投入する羽目になる。となると、最後の1匹の相手が出来る奴がいねえんだ。そこらの兵隊どもじゃあ、荷が勝ちすぎる!」
『じゃあ、私とボヌールさんで1匹貰っちゃえばいいんじゃないですか?』
「は? さくら、お前俺の話聞いてたか? 6mのミノタウロスとその取り巻きは、うちのメンバーですら全戦力を使わなきゃ勝てないような相手なんだぞ? そんな連中相手に、俺とさくらの二人でどうするってんだよ」
『ボヌールさん、私のサイコキネシスでなら、取り巻き関係なく6mのミノタウロスだけ釣れるので、きっと大丈夫ですよ! 私の猫としての本能が、あれは敵じゃなくてご飯だって言ってますもん。きっと、前回ロジャー将軍を苦しめた強い6mのミノタウロスは、まだ怪我から復帰してないんですよ』
「何だその超理論。いや、確かに6mのミノタウロスでも、個体によって強さに差があることは普通のことだが。ってか、まじでさくらはあれをサイコキネシスで釣れるのか?」
『大丈夫です! なので、止めをお願いしますね!』
「はあ、分かったぜ。俺達がもし6mのミノタウロスを1匹やれれば、一気に勝利に近づくからな。だがさくら、俺への強化はいつもより念入りにかけてくれよ。下手すると止めを刺せねえからな」
『はい! じゃあ行きますね』
「おう! お前ら、分かってると思うが、手出し無用だぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
私はボヌールさんに強化魔法をかけると、早速サイコキネシスを発動してミノタウロスの一本釣りを試みる。うん、やっぱり簡単に釣り上げられるね。私は午前中と同じように、釣り上げた6mのミノタウロスをボヌールさんの目の前に横にして置く。
『ボヌールさん、お願いします!』
「おう!」
そして、ボヌールさんは奇麗な太刀筋で6mのミノタウロスの首を切り落とす。
「「「「「うおおおおおお!」」」」」
すると突然、周辺の軍人さん達が大歓声を上げる。
『え? なに? これ』
「はあ。さくら、お前は食欲以外に興味ないから気付かなかったのかもしれねえが、さっきまでみんな、ミノタウロスとの戦いに勝てるのか、内心すげえ不安だったんだよ。ロジャーだって6mが3匹も出て、撤退準備の指示を出したくらいだ。だが、今の釣りで一転して勝機が見えてきたんだ。喜びもするさ」
そういうものなのかな? 1匹もらっただけだよ? しかも、やっぱり弱かったし。
「ボヌール! そんな切り札持ってんなら、さっさと言えってんだよ!」
「んったく、俺の力じゃねえっての。にしても、あいっかわらずデケえ声だな。なんであそこからここまで声が届くんだよ」
うん、確かにあんな遠くからここまで声が届くなんて、凄いよね。
「お前らあ! ボヌールばっかにいいかっこされてんじゃねえぞ! 全軍突撃だ~!」
「「「「「うおおおお~!」」」」」
そして、いままで睨み合っていたロジャー将軍の軍隊が、ロジャー将軍の掛け声とともに一斉にミノタウロス達に襲い掛かった。
「さくら、余裕があるなら、適当に釣ってくれ」
『それなら、あそこにいるミノタウロス、5mの魔法使いじゃないですか? あれを釣ってもいいですか?』
「ん? おおっ、マジで5mの魔法使いじゃねえか。おし、めったにいないレアものだろうし、ここは下手な殺され方をする前に、俺達でもらっとくか!」
『はい!』
よ~っし、じゃああのミノタウロスも、フィ~ッシュだ! そう思い魔法使いの5mのミノタウロスを釣ろうとした時、私のお口からよだれがたれそうになる。
「『ほう、まさかあのような方法で俺直属の部下がやられるとはな。すこし舐めすぎていたか?』」
『なに? この声』
美味しそうな、ううん違う、不気味な声だ。実際の音でありながら、念話っぽい気もする。しかも、張り上げた声でもなかったと思うし、実際耳に響くような大きな声じゃなかった。でも、不思議とこの戦場に響き渡った気がする。
「わからん。いや、待て、さくら奥だ。なんだあのデカいのは」
そして、その声の主が、ミノタウロス達のいる方から姿を現す。
『なにあのミノタウロス。超美味しそう、じゃなかった、超大きい』
「嘘だろ? なんで7mのミノタウロスがいるんだよ」
「『ふむ、やったのは城壁の上の熊男か? 面白い、部下の仇と言う気はないが、俺の相手をしてもらおうじゃないか』」
突如現れた7mのミノタウロスは、そう言うと空を駆けて、猛スピードで私とボヌールさん目掛けて襲い掛かってきた。あんなに大きいのに、空中歩行が出来るなんて! 美味しそう、じゃない、凄い強そう!
「ぬおおおおおお!」
そしてボヌールさんも打って出る。空を駆け、空中でその大きな剣を振るう。
がごん!
ボヌールさんの大きな剣と、7mのミノタウロスの持つでっかい斧がぶつかり合い、衝撃波が周囲を襲う。
うう、凄い風だ。でも、とっても美味しそうな匂いだ。
ピシ!
「ちい!」
どうやらボヌールさんの剣だけが、一方的に欠けたみたいだ。でも、今の私はそれどころじゃない。ううう、7mのミノタウロスめ! どうしてくれるのさ、このよだれ! どうやっても止まらないんだけど!
このイージーにゃんこライフボディ、いろいろ凄いのはわかるんだけど、ちょっと食欲に忠実過ぎない?
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