第47話 止まらないよだれ

 がっご~ん!


 ボヌールさんの大きな剣と、7mのミノタウロスの大きな斧がぶつかり合う。


 だばだば。


 私のお口からよだれが溢れる。


 がごがごがっご~ん!


 ボヌールさんの大きな剣と、7mのミノタウロスの大きな斧が連続でぶつかり合う。


 だばだばだばだば。


 私のお口からよだれが大量に溢れる。



 ん? 私の肉球が濡れてる? って、これはまずい。私のよだれで城壁の上の凹凸の一つの凸がびしょびしょだ。私は周囲を見回す。城壁の上のみんなはボヌールさんと7mのミノタウロスの戦いに注目していて、誰もこっちを見ていないようだ。


 よし、今の内に隣の凸に移動しよう。城壁の下には誰もいないみたいだから、お口を凸の外に出しておけば大丈夫だね。これで私がよだれで凸の一個をびしょびしょにした証拠はなくなる!


 それにしてもあの7mのミノタウロス、凄く美味しそうだよね。あ~、速くボヌールさん倒してくれないかな。


 そんな風によだれを垂らしながらボヌールさんと7mのミノタウロスの戦いを見ていると、ボヌールさんの剣がどんどんぼろぼろになっていく。


「ちい!」

「『ふはははは! まさか熊人間風情に、ここまでやれる奴がいるとはな! だが、所詮は人間風情か、まともな剣の一振り用意出来んとはな』」

「ああ!? そりゃこっちのセリフだ。まさか牛肉ごときに、ここまで手こずるとは思わなかったんでな! こりゃあ剣じゃなくて肉切り包丁だ!」


 肉切り包丁? あのでっかいの、剣じゃなくて包丁だったんだ! 私が驚愕の事実に驚いていると、軍人さん達もざわざわと騒ぎ出す。


「ボヌールさん、肉切り包丁って、ひでえ言い訳だな」

「だな、あの剣って、ボヌールさん自慢の一振りじゃないっけ?」

「そうだったはずだよな」

「こらお前ら! 無駄話してるな! ボヌールさんがやられたら、次は俺達が行くしかないんだぞ?」


 な~んだ、嘘だったんだ。危うく私まで騙されるところだった。


「『そこまで苦しい言い訳、聞いたことがないな!』」


 むう、7mのミノタウロスは騙されてなかっただとう?


 でも、これはちょっとだけピンチだね。ボヌールさんの剣はもうぼろぼろ過ぎて、いつ使えなくなってもおかしくない。


 すると、ボヌールさんに駆け寄る一人のにゃんこの影があった。あれは、ペルさん? そしてその口に咥えられているのは、血まみれの棒だった。


『ボヌールさん、この剣を使ってください! バーナード隊長が言うには、ボヌールさんの剣よりはるかに優れた逸品だそうです!』


 バーナード隊長って、あの男のことだよね。あの男が言う剣って、もしかしてペルさんが咥えてるのって、私の剣? 嘘でしょ、あんなに血まみれになっちゃってるなんて。私の剣が、汚されてる!


『ありがてえ! ひと当てするから、その隙に頼む』


 ボヌールさんが念話? 初めて聞いたかも。でもそっか、念話を聞けるってことは、使えてもおかしくないよね。それに今は、こっそり剣を受け取りたい場面だし。


『はい!』


 ボヌールさんは7mのミノタウロスに思いっきり切りかかる。その一撃はあっさり7mのミノタウロスの斧にガードされるけど、強引に7mのミノタウロスを押しきって、剣を受け取れる隙を作る。


 おお、ボヌールさん凄い!


『ペル、よこせ!』

『はい!』

「『させんよ!』」


 でも、7mのミノタウロスもペルさんの存在に気付いていたみたいだ。ものすごい量の魔力が7mのミノタウロスから噴出したかと思うと、急加速してペルさんに襲い掛かる。


「ペ~ル!」

「『お前はここで死ね!』」


 速い! あれ? なんだろうこの感じ、ボヌールさんが戦っている分には全然安心して見ていられたのに、ペルさんがこの一撃を食らったらって思うと、すっごく嫌な予感がする。もしかしてこれ、ペルさんのピンチ? 


 ダメ、ペルさんが怪我するなんて、そんなの絶対ダメ! ダメったら、ダメ! ダメったらダメったらダメなの!


「ふしゃ~!」


 私は思いっきり叫んだ。過去こんな大声出したことなんてないってほど思いっきり叫んだ。なんで叫べばいいと思ったのかもよくわかんないけど、なんでか思いっきり叫んだ。


 私の口から何かが飛び出したかと思ったら、7mのミノタウロスの持っていた大きな斧が、手元部分だけ残して消えていた。


 あれ? なんだろう? いまの? 何か口から出たよね・・・・・・? もしかして、私のよだれに当たってあの斧が消えた? ううん、私のよだれはそんな凶器じゃないはずだ。


 ふと視線を感じたのでボヌールさん、ペルさん、7mのミノタウロスを見ると、みんなこっちを見て固まっていた。そうだよね、戦闘中に突然よだれが横切ったら、びっくりって、ちがう、訳も分からず武器が消えたらびっくりするよね。


「ペル!」

『はい!』

「『しまった!』」


 そして、ボヌールさんが真っ先に再起動する。あ、そうだった、ボヌールさんと7mのミノタウロスの戦いは、まだ終わってなかったんだ。


 ボヌールさんはペルさんから剣を受け取ると、気合と共に7mのミノタウロスに切りかかる。


「がああ! 岩砕熊爪斬!」

「『ぶもおっ!』」


 ボヌールさんの一撃は、見事に肩のあたりから心臓のあたりを切り裂いた。


「ぜえ、ぜえ、終わったか、くそ、もう限界だ」

『ボヌールさん、よくやってくれました』

「お前もな、ペル。この剣助かったぜ」

「「「「「うおおおおおお!」」」」」

「すげえよボヌールさん、まじですげえよ!」

「うおおおおお! やた、やった~!」


 ボヌールさんが7mのミノタウロスを仕留めると同時に、私の後ろにいた軍人さん達が大歓声を上げる。


「見ろ! ロジャー将軍達もやったみたいだぞ!」

「「「「「うおおおお~!」」」」」


 あ、どうやらアオイ達やロジャー将軍達も6mのミノタウロスをそれぞれやっつけたみたいだね! あっちこっちからすごい歓声が上がる。


 ってこともしかして、私達の勝ちってことなのかな?


 あ、まずい。のんびりしてらんないんだった。7mのミノタウロスを速く氷魔法で冷やさないと! 私は大急ぎで7mのミノタウロスに駆け付け、氷魔法で7mのミノタウロスを確保する。


 ふあ~、間近で見るとすっごくよく分かる。すっごい美味しそう! これはよだれが止まらない!


 だばだばだばだばだばだば。


 あう、私としては本当によだれが止まらなくなるのは不本意なんだけど。ううう、ダメだ、ボヌールさんとペルさんも見てるのに、よだれが本気で止まらない!


「ふ、流石さくら、まさに食欲の化身だな」

『ボヌールさん、さくらさんに失礼ですよ』

「いや、このよだれの量はよ~。って、まあなんだ、さっき昼飯食ったばっかだが、さっさと戻って、3時のおやつにミノタウロスステーキでも食うか?」

『はい!』




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