第48話 もうない!?

 イーヅルーの街を守る防衛戦は終わった。7mのミノタウロスや6mのミノタウロスといった、リーダーミノタウロスを失ったミノタウロス達が逃げ出しちゃったからだ。私のイージーにゃんこライフボディも、これ以上美味しそうなミノタウロスは近くにはいないって告げてるから、もっと大きなミノタウロスが現れた! みたいなことはなく、本当に終わっちゃったみたいだ。


 ロジャー将軍達軍人さんや、ハンターさん達は、ミノタウロス達の数を少しでも減らすべく追撃をするみたい。アオイを始めとしたにゃんこ達もついて行くようなんだけど、私はもうよだれのダムが決壊してたこともあり、ボヌールさんと一緒に追撃には加わらず、仲良く3時のおやつに7mのミノタウロスのステーキを食べることにした。


 そして、私はギルドのいつも借りているお部屋で目を覚ます。


 あれ? なんかお腹いっぱいで食堂で寝ちゃったことは覚えてるんだけど、いつの間にお部屋に移動したんだろう? しかも、寝たのは3時過ぎくらいだったのに、この感じ、朝だよね?


 う〜ん、あんまり自覚してなかったけど、疲れてたのかな? でも、無理もないよね。日本人だった時も含めて、初めての戦争だもん。


 私はとりあえず身支度を整えて一階へと降りていく。猫がどんな身支度をするのかって? もちろん毛づくろいだよ!


 階段を降りて1階のホールに出ようとすると、何やら言い争う声がする。


「おいガーベラ、無いってどういうことだよ!」

「だから言葉の通りよ、全部食べちゃったみたいなのよ」

「そりゃマズいだろ。さくらのやつ、当分の間ミノタウロスのステーキ三昧するって言ってたんだぞ? それがないなんて知られたら」

「それはそうだけど、私だって寝てる間にこんな事になるなんて思わなかったわよ! そもそもカッコつけてロジャー将軍達に好きなだけ食えって言ったのはボヌールでしよう?」

「そりゃそうだけどよう、あいつらが全部食うとは思わなかったんだよ! ああ、くそっ! どうすりゃいいんだよ」


 なんか、すっごく嫌な予感がする。7mのミノタウロスのお肉が無い? そんな馬鹿な! 当分の間7mのミノタウロスステーキ三昧の予定だったのに! でも待って、もしかしてこれは、私の食いしん坊イメージを払拭するチャンスなのかも?


 そうだね、そうだよね。よし、ここは何も聞かなかったかのようにどうどうとフロアに入っていって、7mのミノタウロスのお肉が無いって言われたら、そんなの平気ですよ、私そこまで食いしん坊じゃないですし、って言う。うん、これだ、この作戦だね!


 私は自然体を装いフロアへと足を踏み入れる。


『さくらさん、おはようございます』


 すると、真っ先にペルさんが話しかけてきてくれた。


『おはようございます』


 私がペルさんに挨拶を返すと、ガーベラさんとボヌールさんも素早く会話を中断して私にあいさつしてくれる。


「あらさくらちゃんおはよう」

「おうさくら、起きたのか」

『ガーベラさん、ボヌールさん、おはようございます』

「あ〜、それでだなさくら、その沈み方、聞こてたんだよな?」

『え? 私沈んでなんていませんよ?』


 おかしい、私は平然とした顔をしていたはずだ。そして、7mのミノタウロスのお肉が無いって言われたら、そんなの平気ですよっていう予定だったのに、なんでわかったの!?


「さくらちゃん、気丈に振る舞おうとしてくれているのは分かるんだけど、無理しなくていいのよ?」

「すまん、俺のミスだ。7mのミノタウロスの肉を、軍とハンターの連中に食われちまった。いや、違うな、食わせちまった。申し訳ない」

「いえ、監視出来なかったこっちのせいでもあるわ」

『大丈夫です。ちょっとショックだったけど、そもそも仕留めたのはボヌールさんですし』

「いや、あれはほぼ100%さくらの強化魔法のおかげだぞ?」


 強化魔法のおかげって、強化魔法なんてただのサポート用の魔法なのに、何言ってるんだろう? 仕留めたのは誰の目にもボヌールさんだよね?


『それに、一緒に戦った軍人さんやハンターさん達に分けないわけにもいかなかったでしょうし』

「まあ、それはある。ただ、俺やガーベラが寝ちまったのが痛かったな。まさか全部食われちまうとは」


 後でペルさんから詳しく話を聞いたんだけど、追撃に出ていった軍人さん達とハンターさん達が帰ってきて宴会を始めたのは、夜になってからだったみたい。ガーベラさんもボヌールさんも最初は起きていたみたいなんだけど、昼間の疲労もあって途中で寝ちゃったんだって。それは仕方ないよね。ガーベラさんは回復魔法に忙しかったし、ボヌールさんなんて一番の大物を仕留めてたんだもん。


『仕方ないですよ。私は気にしていませんので』

「いや、そんな絶望した顔で言われてもな」

「本当にごめんなさいね、さくらちゃん」


 ううう、私本当にどんな顔してるんだろ? 鏡が欲しい。でも、心の中では、ちょっと残念だけど、まあしょうがないよねって思っているんだよ? 本当だよ?


 でも、私以外にも一人、愕然としているにゃんこがいた。


『おい、今の話マジか!?』

「あら、アオイ起きてきたのね。残念ながら本当の話よ」

『うそ、だろ?』


 なんか、アオイがすっごくがっかりしてる。どうしたんだろう?


「どうしたのアオイ? 7mのミノタウロスのお肉が無いことがそんなにショックだったの?」

『くそ、完全に失敗した。さくらの許可を取ってから食おうと思ってたから、昨日7mのは一口も食ってないんだよ。ううう』


 何それ!? まさかアオイが一口も食べてないなんて! それはダメだよ! 絶対ダメ! あんなに美味しいのを一口も食べてないなんて、絶対にありえない!


『ダメ! それはダメだよアオイ。あんなに美味しいのを食べてないなんて、ありえない!』

「ああ、さくらの言う通りだ。せめて一口食っとけよ。アオイの一口なんて、俺達からしたらマジでちょっとじゃねえか、何やってんだよ!」

『そりゃそうだけどよう。はあ』


 アオイ、流石に可哀想過ぎる。いくらなんでもこの仕打ちは酷い。そだ、人間の消化には結構時間が掛かるって言うし、いっそあの男あたりの胃袋の中からって、ダメだね、想像しただけで気分が悪くなってきた。


 でも、あんなに美味しいお肉を食べれないなんて、そんなのあんまりだ。


『ねえアオイ。ミノタウロス達って、東の山から来たんだよね?』

『ああ、そうだけど』

『探しに行こう!』

『はあ? 東の山は結構危険なんだぞ?』

「いや、さくらの強化魔法をアオイにかければ問題ないかもしれん。俺ですらさくらの強化魔法があれば7mのミノタウロスとやり合えたんだ。アオイがさくらの強化魔法を受ければ、それこそ東の山でも敵なしなんじゃねえのか?」

『なるほど、そういうことか! さくら、頼めるか?』

『もちろん! 私も正直食べたりないしね!』

『あら、でしたら私もご一緒してよろしいでしょうか? 実は私も食べ損ねてしまいまして』

『もちろん! ペルさんも一緒に行きましょう!』

『んじゃ、いつ行く?』

『今から?』

『私はそれでもかまいませんわ』

『俺もいいぜ!』

『じゃあ、行きましょう!』

「おい、即決は良いが、くれぐれも気を付けろよ!」

「危険だと思ったらすぐに帰ってくるのよ」

『はい!』

『おう!』

『ええ』


 私とアオイとペルさんは、美味しいミノタウロスを探しにギルドを飛び出す!


 さあ待っていろ美味しいミノタウロス! 私が美味しく食べてあげるからね! 思わずこぼれそうになるよだれに気を付けて、私達は空を駆けていく。



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