第49話 妖精の国ハンターギルドの秘密会議その3

 私の名前はガーベラ、妖精の国ハンターギルドの職員よ。


 今日も恒例の秘密会議の日、出席者はいつもと一緒で、私、ギルドマスターのユッカ、解体係兼倉庫番のボヌール、料理人のゼボン、それから所属ハンターのアオイとペルちゃんね。今日はお菓子は無しで真面目に全員参加よ。


「では、始めましょうか。今日の議題は二つあります。一つ目は昨夜の、7mのミノタウロスのお肉いつの間にか全部食べられちゃった事件に関してです」

「うげ!」


 ギルマスのユッカがあからさまに嫌そうな顔をして声も出す。どうやら昨夜起きた、7mのミノタウロスのお肉いつの間にか食べられちゃった事件の重要参考人は、このユッカのようなのよね。


「二つ目はアオイ、ペルちゃん、さくらちゃんによる、ミノタウロス達の拠点襲撃に関してです」

「な、なあ。ミノタウロスのお肉の件はよ。ガーベラとボヌールも反省してるみたいだし、こうあんまり掘り下げなくてもいいんじゃないのか? 代わりを取ってきて、さくらさんも機嫌直したみたいだしさ」


 私とボヌールが反省しているのは当然だしいいのよ。問題は重要参考人というか、犯人であるあなたが反省してる様子じゃないことなのよ。


「ユッカ、黙ってなさい」

「あ、はい」

「ん? おいおいギルマスさん、なんでそんな動揺してるんだ? お前は関係ないんじゃなかったのか?」

「そういえば、ギルマスは結構遅くまで宴会に出ていましたよね?」


 ユッカのあからさまな動揺に、ボヌールとゼボンも何か怪しいと思い始めたようだ。アオイとペルちゃんも、無言のプレッシャーを放ってるわね。


「自分で言えないのなら私から言いましょうか?」

「あ、う、ああう」

「では、私の調査結果を発表しますね。私もいくらロジャー将軍達が大食いとはいえ、自分達の戦果でない7mのミノタウロスのお肉をそんなに大量に食べるとは思わなかったので、直接聞いてきました」

「いや、待って、そんな大人げない」

「私も少し大人げないとは思いましたけど、さくらちゃん、アオイ、ペルちゃんのために恥を忍んで聞いてきたわ。そうしたら、確かにボヌールから食べていいと言われていたし、部下の慰労も兼ねて、少し貰うことにしたそうよ。ただし、遠慮して一口づつくらいね。軍人やハンター達の数が数だから、それでも結構な量だったそうなんだけど、それでもかなりの量のお肉が余っていたってロジャー将軍は言うのよ」

「じゃあ何でないんだ? 話が合わないじゃねえか」

「それがね、同時にこんな話も聞いたの。ロジャー将軍がお肉を一口づつ分けた後、お肉が余っているからって言いながら配り歩いていた妖精がいたってね。どこの誰とは言わないけど」


 みんなの無言のプレッシャーがユッカに突き刺さるわ。当然よね。この街にいる妖精族は私とユッカの二人だけ。私じゃないなら、ユッカしか考えられないもの。


「う、うう、ううう~、そんな寄ってたかっていじめなくてもいいじゃん!? 僕だって気付かなかったんだよ。てっきりあのお肉は宴会用に用意されたお肉だと思ったんだよ!」


 いじめるって、はあ。せめて2度としませんくらい言えないのかしら? それさえ言ってくれれば、さくらちゃんへの謝罪は私がやるっていうのに。


「いやいや、あんな特上の肉が、宴会でバカスカ食う用の肉じゃないってことくらい気が付くだろうが!」

「わかんないよ! 僕肉食べないし!」


 そうなのよね、困ったことにユッカは美味しいものイコールお菓子っていう、かなり偏った食生活なのよね。でも、ギルマスなんだから肉の価値くらいわかるようになってほしいわ。っと、少し脱線しちゃったわね。


「私はどこの誰とは言わないって言ったでしょう。食べてしまったものはしょうがないもの。問題は責任の所在がこのギルドにあるということよ」

「責任?」

「ギルマス、今回のお肉、誰の物かしら?」

「だれって、そりゃあ倒したボヌールとさくらさんだろ?」

「ええ。つまり、ボヌールの指示でロジャー将軍達に食べさせたぶんはまあいいとして、ユッカが配り歩いた分は、さくらちゃんに返しましょうね」

「いや、もう食べちゃったからない、ってまさか。ロジャー将軍達の胃袋から回収する気じゃないよね?」

「そんなわけないでしょう!? ギルドとしてさくらちゃんに、さくらちゃんの取り分のお肉の代金を保証しないわけにはいかないでしょう? って言う事よ!」

「え? 待って、7mのミノタウロスのお肉って言ったら」

「そうよ、ものすごく高いのよ」

「ちょっと待ってくれ、そもそもあの肉の半分が俺の物と言う気もない」


 すると、ボヌールがそう言いだす。それはそうよね、ボヌールが勝てたのはさくらちゃんの強化魔法のおかげ。ボヌールとさくらちゃんの貢献割合は普通にいってさくらちゃんの方が上だもの。


「そうね、7対3くらい?」

「いやいや、9対1で十分だ」

「ねえ、それってどっちが7とか9なの?」

「もちろんさくらちゃんよ」

「さくらに決まってるだろ。さくらの強化魔法無しの純粋な俺だけの力じゃあ、最初の1合で剣ごと真っ二つにされて、殺されてただろうしな」

「ええ~、そんな~!」

「あなたはそこで少し反省していなさい」

「ううう」


 はあ。まあ、次の話題にいきましょうか。


「さて、それじゃあ、次の議題に移りましょうか。次の議題は、アオイ、ペルちゃん、さくらちゃんによる、ミノタウロス達の拠点襲撃に関してです。こちらは映像記録魔道具による映像があるので、そちらを見ましょうか。一応ざっくり報告させてもらうと、8mのミノタウロス1匹、7mのミノタウロス2匹を含めた、1000を超えるミノタウロスを殲滅してきたそうよ」

「えええ!? 僕聞いてないよ!」

「言ったでしょう。あなたが配ってしまったお肉の代わりになるお肉を狩りに、3人が出かけたって」

「そんな説明で東の山の奥にあるっていう、ミノタウロス達の大規模な拠点を襲撃しに行くなんて思わないよ!」

「ユッカ、あなたが誰の許可も無くお肉を配っていなければ、行かなくて済んだことなのよ?」

「そ、それはそうだけど」

「まあ、いまは映像を見ましょう。当事者だったアオイとペルちゃんはともかく、ボヌールもゼボンもまだ見ていないでしょう?」

「ああ」

「そうだね」

「わかったよ」


 私は映像を流す。そこに映っていたのは、まさに狩りの映像だ。誰にも気づかれることなく、一方的にミノタウロス達を狩っていくアオイとペルちゃんが、ずっと映っている。さくらちゃんは撮影役だったみたいで映っていない。


「おいおい、なんで敵が一切気付いてないっぽいんだ? 正面から襲い掛かってるだろ?」

「これは凄まじいね」

「なにこれ、アオイとペルってこんなに強かったの? 僕に内緒にすることないじゃん! っていうか、7mどころか8mのミノタウロスまで狩ってきたなら、昨日の夜の肉の件なんてどうでもよくない!?」


 流石に3人も驚いたようね。私も初めて見た時は驚いたわ。まさかここまで一方的な狩りになっているとは思わなかったもの。


『ユッカ、俺とペルがここまで強いわけないだろ? 全部さくらのおかげだよ』

『ええ、さくらさんの隠蔽魔法は8mのミノタウロスにすら見つからず、強化魔法は私達の攻撃で8mのミノタウロスを一撃で仕留めることが出来るようになったほどよ。昨日のあのビームといい、本当にさくらさんは何者なのかしらね』

『俺は伝説のキジトラの生まれ変わりって言われても信じるぜ』

『私もです』

「ただ、さくらちゃん本猫は、自分の力のことをあんまりよく分かって無さそうなのよね」

『まあな~。ま、いざって時は今回みたいに強化魔法や隠蔽魔法で手伝ってもらうくらいに考えときゃいいんじゃね? 幸い俺達やロジャー達でやばそうなモンスターって、全部高ランクだから美味いしな』

『ええ』

「そうね」

「だな。あの食い意地のはり方は尋常じゃねえし、むしろ声掛けねえほうが文句言いそうだよな」

「そうかもしれないけど、さくらちゃんの前でそう言う事いわないでよ?」

「ああ、わかってるって」

「それじゃあユッカ、はい」


 そう言って私は映像記録魔道具をユッカに渡す。


「は?」

「は? って、ミノタウロス達の東の山の拠点を襲ってきたって、ロジャー将軍に話さないわけにはいかないでしょう? お願いね」

「ええ~! 何で僕が!?」

「ギルマスの仕事でしょう。さっさと行ってらっしゃい。それから、昨日のお肉の件は、2度としないって約束するなら、私からさくらちゃんに謝っておいてもいいわよ。もちろん、保証の件も何とかしてもらえるよう頼むつもりよ」

「え? ほんと?」

「ええ」


 な~んてね。本当はもうとっくにさくらちゃんから許してもらってるんだけどね。


「わかった! 行ってくる! ガーベラ、忘れないでよね!」

「ええ、分かってるわよ。行ってらっしゃい」


 もう夜もそこそこいい時間だけど、重要な情報だし、構わないわよね。


「さ、それじゃあ夜食の準備でもしましょうか。きっとロジャー将軍も、詳しい話を聞きたいって、すぐにやってくるでしょうしね」

「夜食には、8mのミノタウロスのお肉を使っても?」

「ええ、もちろんよ」

「かしこまりました」

「俺も食っていいんだよな?」

「ええ、ここにいるメンバーみんなで食べるわよ」

「おっしゃあ!」

「「にゃ~!」」


 ふふふ、今夜は楽しい夜になりそうね。



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