第78話 対蚊対策

「では、自己紹介も終わったことなので、本格的に会議を始めたいと思います。まずは議題1、蚊の殲滅に関して何かいい作戦のある方は挙手をお願いします」


 自己紹介の終わったみんなに、何かいい案がないかと聞くと、ハロルド先生とあの男ことバーナード隊長がちょっとびっくりしたような、呆れたような、そんな不思議な顔をした。いったいどうしたんだろう?


「おいおいさくらさん。お前さん、何かいいアイデアがあるからロジャー将軍に話をしたんじゃないのか?」

「何のこと? 私はただ、ロジャー将軍に最近蚊が多いから早急に対策を立てるべきですって言っただけだよ?」


 なんでそんなことになってるんだろう? 私は策があるなんてロジャー将軍に一言も言ってないよね?


「まじでか? お前さん何してんだよ。ロジャー将軍に蚊が多いから駆除しろって苦情入れるとか、常識ってもんが無いのか!?」


 あ、あれ? そう言うことになるの? ううう~ん、よくよく考えたらそう言うことになのるかも? でも、怒ってたわけじゃないし、大丈夫だよね?


 私は助けてほしくてデスモンドさんに視線を送ると、デスモンドさんが大きくうなずいてくれた。


「ハロルド君、そこについてはフォローさせてもらいます。確かにさくら様がロジャー将軍に言った内容は、いまさくら様の申した通りです。ですが、例年私達が行ってきた害虫駆除の成果がいまいちなのも事実ですので、面白そうだしやらせてみるか、というのがロジャー将軍の考えです。そして、軍からのフォロー役として、私とバーナードが参加しております」


 なるほど、そういう背景があったんだね。


「そう言う事なので安心してください! デスモンドさん、念のためお聞きしますが、私が言ったことって苦情になりますか?」


 たぶん平気だと思うけど、不安なので一応聞いてみる。


「そうですね。なるかならないかといえばなりますが、ロジャー将軍はさくら様には格別甘いので、気にする必要はありませんよ」


 良かった、セーフみたいだ。


「ふ~、それなら良かったです」

「はあ、まあいいか。さくらさんも問題児とはいえ、俺の仕事はあくまでも正規の学生問題児3人の監視だからな」


 どうやらハロルド先生も納得してくれたみたいだね。それじゃあ気を取り直して、本題に入りましょう。


「それでは本題に入りましょう。例年はどうしていたんですか?」

「デスモンド先生、ここは私が説明しますね」

「ええ、お願いします」


 そう言ってあの男が立ち上がる。


「例年、蚊の対策は主に3種類の方法で行っていました。一つ目は毒煙玉ですね。部屋の中で蚊によく効く毒煙玉を使用することで、蚊を殺します」


 えええ? 毒って、いきなり一つ目から超ハードな方法だよそれ?


「ああ、誤解しないでください。毒煙玉といっても毒性はそんなに強くありません。人間が長時間吸っても特に害はありませんのでご安心を」


 あ、もしかして蚊取り線香みたいなやつなのかな? よく考えるとあれも蚊を倒せるんだし、きっと毒の一種だよね?


「二つ目は蚊の生息地の破壊です。この城はどうしても開けっ放しになっている箇所が多いため、部屋を閉め切って毒煙玉で部屋内の蚊を一掃するという手段が取りにくい箇所も多いです。そこで、蚊の好む水のたまり場を潰したり、低木の植え込みを刈ったりしていますね」


 なるほど、これも日本でも有効って言われてた方法だよね。私も日本人時代は、お部屋の観葉植物の水受け皿なんかは、念入りにチェックしてた。


「三つ目になるのですが、蚊を捕らえる罠を城の各所に設置しています」


 へ~、そんなのもあるんだ。


「バーナード君、ありがとう。よくわかりました」

「いえいえ、隊長のためになったのでしたら何よりです」


 私が隊長風を全力でふかせたんだけど、くそう、あの男め、ぜんぜん効いてないな。


「ちなみに今回、我が対蚊対G殲滅部隊は、このお城だけでなく、この街全体から蚊とGを殲滅する予定なのですが、一般家庭でも同じような対策でしょうか?」


 私はジョン君達学生陣に向かって質問する。


「そうだな、俺の家でも煙玉をよく使うぜ。罠は使ったことないから、どんなのか教えてほしいな」

「僕の家もジョンの家と一緒ですね」

「私の家は罠も使っています」


 なるほど、お城も街の家も対策方法は同じなんだね。


「ゼニアさんとユッカさんも同じ感じですか?」

「そうね。ほぼ同じだと思うわ。ただ、多少違う点があるとすれば、私の止まっている宿では、蚊を捕まえる魔道具を使っていることかしら」

「そんな便利なものがあるんですか?」

「ええ。でも、魔道具はちょっと値段が高いから、街全体の対策に使うには、不向きかもしれないわ」


 なるほどね~、でもいい情報だよね。きっと素材さえあれば、猫ボディで魔道具はいろいろ作れると思うし、何か考えてみようかな。


「おおとりは僕だね! 妖精の国のギルドでは、対虫用の結界を張ってシャットアウトしてるよ! どう? 凄いでしょ?」

「流石は妖精族ですな」

「たかが虫対策に結界かよ、普通はそんなことのために結界まで使わねえだろ」

「そお? 今度使ってみてよ。結構快適になるよ」

「いや、そもそも結界を張るのが難しいって話なんだが」


 なんか、若干話が噛み合ってない気がするけど、ユッカさんは対虫用の結界がいかに素晴らしいかをアピールし始めた。


「そういえば、さくらさんは虫対策どうしてるんだ?」

「お部屋には対昆虫用結界を常時張って、お城の通路とかで出会ったらハロルドスレイヤーで叩き落してるよ」

「な~んだ、一緒ってことか」

「うん、お揃いだよね。でも、結界張るのが一番確実だし一番楽だよね」

「やっぱそう思うよな! この城なんてけち臭いこと言わず、この街ごと結界で覆っちゃえばいいのにって思うよね?」

「うんうん!」


 私とユッカさんは、蚊対策で同じことをしていた同士とわかり意気投合したんだけど、なんか、他の人からは呆れたような、何とも言えない目で見られた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る