第79話 対G作戦
「え~、では、蚊対策は今までの毒煙玉、水たまり等の排除、蚊を集めるトラップを軸に、結界は出来るだけ無しの方向でいくことに決まりました」
結局、結界は無しになって、当たり障りのない方法3個が採用になっちゃった。ユッカさんは結界の張り方くらい教えるよ? って言ってくれたんだけど、この街には魔法使いがそんなに多くないみたいで、妖精族みたいに魔力豊富な種族の真似は難しいらしいんだって。
「では次に、対G対策に関して意見のある方はいますか?」
「では私からいいですか?」
「はい、バーナード隊員どうぞ」
「軍の場合ですと、昨年まではGの対策に毒団子を使用しておりました」
「毒団子、ですか?」
「はい、Gの好むエサに毒を仕込み、それをGの通りそうな場所に置いておくという方法ですね」
なるほど、日本でも似たような商品はいっぱいあったよね。
「一般家庭でも同じですか?」
私はジョン君達学生陣に話を振る。
「ああ、俺の家も毒団子はよく使ってたぜ」
「僕の家でも同じです」
「私の家でも同じですね。ただ、毒団子にも種類が何種類かありますので、軍で使用している物と、私達が普段家で使っている市販品が同じものかはわかりません」
「それに関しちゃ物は一緒だぜ。パッケージの内容量なんかは違うがな」
ジルちゃんの意見にハロルド先生がすかさずフォローしてくれる。一般用も軍事用も同じなのか~って、G用の毒のエサにまで軍隊専用品があるわけないよね。
「なるほど、ありがとうございます。ゼニアさんの宿、湖の貴婦人でも同じですか?」
「わからないわ。たぶん同じような方法だと思うけど、私達お客に見えるようにはやっていなかったわね」
流石高級宿だね。宿泊客にGという闇を見せないなんて。
「はいは~い。妖精の国のギルドだと、Gも結界ではじいてるぜ!」
「やっぱり結界が一番だよね。私もお部屋に張ってるよ」
「流石さくらさん。分かってるじゃん」
「でしょでしょ。でも、つまりGの対策は実質毒のエサ一択になるってことですよね」
ただ、食べて倒す毒のエサだけだと、きっとGの殲滅という私達の悲願は達成できない気がする。やっぱりここは、日本にあったくん煙剤タイプの物を作ろうかな。でも、くん煙剤タイプの対G製品って、卵には効かなかったよね? う~ん、とりあえずくん煙剤は作れそうなら作るとして、まずは既存のものを見てみたい気がするね。こういう対策は、2重3重に用意するに越したことはないもんね。
「毒のエサや、毒煙玉の実物を見てみたいのですが、ありますか?」
「それなら一応用意してきましたよ」
おお~、バーナード隊員意外と気が利くね!
「まずこちらが対G用の毒餌ですね」
そう言って、あの男ことバーナード隊員が取り出したのは茶色い玉だ。
「毒が入っているので食べるわけにはいかないですが、たまらなくいい匂いがするそうですよ」
へ~、そうなんだ~。どんな匂いなんだろ? そう思って私はバーナード隊員から受け取ったG用の毒のエサを鼻に近づけ、思いっきり匂いを嗅ぐ。
「「「あ」」」
子供達があって言ってるけどどうしたんだろ? って。
「ふが~!」
臭い。なにこれ超臭い。鼻が曲がるって言うか。私の鼻があああ!
「ううう、なにこれ超臭い」
「ですから申し上げたじゃないですか、G達にとってたまらなくいい匂いがするそうですよって」
「G達にとってなんてさっき言ってなかったよね? だましたなバーナード隊員!」
「G達にとって、とは確かに言いませんでしたが、たまらなくいい匂いがするそうですと言ったでしょう? 人間にとっていい匂いのものなら、するそうですなんて言い回しはしませんよ」
この男、絶対に許さん! 私はこの男も同じ目に合わせてやろうと、G用の毒のエサを手に追いかける。むう、逃げ足の速い!
「さくら様、いいのですか? その毒餌は長時間手に持っていると匂いが手に移りますよ」
「え?」
あの男にそう言われて私は足を止めて周囲を見回す。すると、ユッカさん以外のみんなが首を縦に振っていた。
「ううう、これって、簡単に匂い落ちるかな?」
「石鹸で手を洗えば大丈夫よ。後でいい匂いの石鹸をあげるわね」
「ありがとう、ゼニアさん」
「それにしても、わざわざ一番匂いのキツイ種類を持ってくるなんて、ほんとう、あなたって性格悪いわね」
なにい? それは聞き捨てならないぞ!
「それは誤解です。確かに一番匂いのきついものですが、これが一番食いつきがいいと言われていることはご存じでしょう? 軍では匂いより効果を優先しているので、これを使うことが多いのですよ」
むぐぐ、そう言われちゃうと反論できない。話を先に進めようかな。
「ところでこの毒のエサの効果って、どんな効果になるのですか?」
「どんな効果とは?」
「毒の効果のことです。即死するタイプなんですか?」
「いえ、そこまで強い毒ではありません。この毒餌を食べると、1週間くらいして死に至るというものですね」
「そうなんですね」
なるほど、日本で言うところのホウ酸団子みたいな毒なのかな?
「それでは次はこちらをどうぞ」
「これは?」
「こちらは蚊対策の毒煙玉です。そこまで臭うものでもないのでご安心を」
私は今度のは臭くないんでしょうね? ってバーナード隊員を睨むが、反応が返ってこない。私はしょうがないから無言で受け取る。そして、視線で使い方を説明しろって訴えかける。
「使い方は簡単です。火の魔法で火をつけるだけです」
ふ~ん、ますます蚊取り線香だね。とりあえずゆわれた通りに火の魔法で軽くあぶると、もくもくと煙が出始めた。
「煙の臭いを嗅いでみてください。そんなに嫌な臭いじゃないはずです」
今度は慎重に匂いを嗅ぐ、直接鼻で嗅ぐのではなく、手をぱたぱたさせて煙を少しだけ吸う。うん? これ、そのまんま蚊取り線香の匂いだね。
「どうですか? 確かに匂いはありますが、そこまで嫌な臭いではないでしょう?」
「はい、そうですね。ところでこれ、熱いんですけど、どうしたらいいの?」
私の手の中では絶賛火が燃えている。蚊取り線香みたいな弱い火だけど、このままだと火傷するパターンだ。
「この器に入れてください」
バーナード隊員が陶器の器を出してくれるので、そこに火のついた毒煙玉を入れる。ふう、一安心だね。
「普段はこうやって使うのですか?」
「そうですね。ご家庭によっては子供が触れないように工夫したりする家庭もあると思いますが、基本は燃えない器の中に入れて使用するだけですね」
「この毒煙は、即効性ですか?」
「ええ、こちらは即効性ですね。それから最後に、これが蚊用のトラップです。光や匂いで蚊をおびき寄せて、風で吸い込むタイプの魔道具ですね」
風で吸い込む蚊用の罠は日本にもあったよね。でも、これだけ揃ってても殲滅に至らないだなんて、この世界の蚊やGも相当手ごわそうだね。
ううん、そもそも私の考え方がダメだね。既存の対策に頼っていちゃダメなんだよきっと。だって、蚊もGも、日本でだって殲滅なんて夢のまた夢状態なんだもん。ここは日本人としての常識を多少捨てて、強力ななにかを作るしかないね!
「それで隊長、何かいい案は思い浮かびましたか?」
「そうですね。薬師としての腕を生かして、毒は私が腕によりを掛けて作ろうかと思います。準備ができるまでに数日かかると思いますので、少し時間をください」
毒なんて作れるの? って思うかもしれないけど、毒と薬は紙一重ということで、ここは薬師さくらの腕前をお見せしましょう! 回復ポーションの作れる猫ボディでなら、きっと毒も作れると思うからね。それに、たぶんだけど猫ボディなら既存の物より高性能な毒が出来そうな気がするんだよね。
「では、私達はさくら様の毒と罠が出来るまでの間、水溜まりなどの環境整備に対処しておきましょう」
デスモンドさんがそう提案してくれる。そうだね、水溜まりをなくすとか、そういう環境整備は、この街に詳しくない私より、長年この街に住んでいて街に詳しいみんなの方が適任だもんね。
「わかりました。では、環境整備はデスモンド副隊長を筆頭に皆さんにお任せします。それでは、毒が出来次第また集まりましょう」
よ~っし、久しぶりに薬師さくらとして、がんばっちゃおう!
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