第56話 私の自慢の手作りクッキー

「ロイスちゃん、ティリーちゃん、良かったらクッキー食べてね」

「うん、ありがとう!」

「じゃあ、遠慮なく貰うね」


 あの男への何らかの追加報復は今後考えるとして、今は楽しくおやつタイムをしないとだよね。二人は遠慮してるのか、おしゃべりが盛り上がっていたからなのか、まだクッキーを食べてないんだよね。


 でも、このクッキーは私の自信作なので、是非とも食べてほしい。日本にいた時にオーブンで作ったものより、猫ボディの火魔法で作った今回のほうが、圧倒的に上手に出来た。


 それはこの世界の食材のせいなのか、私のオーブンを使う腕よりもイージーにゃんこライフな猫ボディの火魔法のほうが、火の扱いが上なのかはわからないけど、きっと食材のせいだね。


「わあ~、美味しい~!」

「うん、すっごく美味しいよ!」

「やった!」


 どうやら二人にも私のクッキーを気に入ってもらえたみたいだ。


「保存食代わりのクッキーって聞いていたけど、凄く美味しいね!」

「うん! あたしももっと硬いのを想像してたのに、しっとり柔らかだね! でもさくらちゃん。このクッキーって、日持ちするの?」


 あう、この子達、結構物知りだ。実は手作りクッキーって、そんなに長持ちしないらしいんだよね。私の作ったような柔らかいタイプのクッキーだと特にそうみたい。


 イタリアのビスコッティみたいな、本格的に保存できる硬いクッキーもあるんだけど、残念なことに私はその作り方を知らないんだよね。時々失敗すると、勝手に硬くなることはあったけど。


 でも大丈夫! 日本でだって缶詰の保存食には柔らかいものがあったし、なによりこの世界だと、猫ボディによる状態保存の魔法があるからね! 何なら焼き立ての熱々の状態ですらそのまま保存できちゃうのだ!


「状態保存の魔法がかかった箱に閉まっていたから、大丈夫だよ」

「冷蔵庫?」

「ううん、状態保存の魔法」

「ええ~、お菓子の保存にそんな高価な魔道具使ってたの?」


 あれ? 猫ボディの魔法だと簡単に出来るから大したものじゃ無いと思ってたんだけど、状態保存の魔法のかかった容器って、高価な物だったんだ! これは、迂闊にいっぱい作るのはまずそうだね。


「状態保存の魔法の容器って、そんなに高いの?」

「うん。すっごく高いって、ママ言ってたよ」

「うん。あたしも値段は知らないけど、ママがパパの稼ぎじゃ買えないって言ってたのを聞いたことある」


 まさかそんな高価なものだとは思わなかった。お菓子の保存用に作ったなんて言ったら、変な人と思われちゃいそうだ。それは嫌だから、なにかかっこいい言い訳はないかな? あ、そうだ。


「えっと、私の場合、お仕事でポーションを作るんだけど、その保存用なんかで使うから、状態保存の魔法の容器は、大きめのを持ってるの。戦争準備の関係で、丁度ポーションは軍人さん達に売れちゃってて、空いてるスペースが多かったの。だからクッキーを入れたの」


 この理由なら状態保存の魔法の容器に、お菓子が入ってても不思議じゃないはずだ。


「そうなんだ~、でもちょっとうらやましいかも!」

「だね~、あたしもお家にほしいな」

「お仕事の道具だからね、必要経費だよ」


 猫ボディなら、状態保存の魔法の容器なんて、クッキーよりも簡単に作れるからプレゼントしちゃってもいいかもだけど、よそ様の子に高価な物を勝手にあげるなんて、こっちの世界でもきっと迷惑だよね。


 取り合えずこの話はここまでにしておいて、魔法のカバンのことを聞いちゃおうかな。


「2人は魔法のカバンって知ってる?」

「うん、知ってるよ」

「あたしも知ってる。先生が前に触らせてくれたんだ」

「使い方ってわかる?」

「うん。袋の中にものを入れたい、あるいは取り出したいって思いながら、使うだけだよ」


 あれ? 思ったよりも簡単だ。でも、その方法で中身を取り出せるのなら、さっき取りだせても良さそうだよね?


「さくらちゃんもほしいの?」

「魔法のカバンも結構高いみたいだよね」


 う、どうしよう。魔法のカバンも高価な物なんだ。持ってるって言いにくいね。う~ん、でも、人間ボディで魔法のカバンが使えるようになりたいし、ここは素直に聞いてみよう。


「えっとね。お仕事の関係者から借りてる魔法のカバンがあるんだけど、上手く扱えなくって」

「う~ん、高価な物だけど、扱いは簡単なはずだよね?」

「うん、あたしもロイスちゃんも、先生の魔法のカバンは簡単に使えたよね」

「「うう~ん」」


 二人は真剣に悩んでくれる。はう、やっぱり二人ともすっごくいい子だね。


「そうだ、一個思い出したことがある。ねえさくらちゃん、その魔法のカバンは容量大きいの?」

「容量?」

「えっとね、見た目に対して、何倍くらいのものが入るの? 2倍? 3倍?」

「もっともっと入るかな」


 ガーベラさんが貸してくれたカバンの場合だと、猫の首にかけれるサイズで、中の大きさが1m四方だから、何倍くらいなんだろう? 10倍以上あるよね? 見せられれば一番いいのかもだけど、流石にこのサイズのカバンを私が持ってるのは不自然だよね。


「たぶんだけど、10倍以上はあると思う」

「うん、わかった!」

「なるほど、そう言う事ねロイスちゃん」

「うん、これで決まりだね」


 どうやらティリーちゃんも、ロイスちゃんの質問の意図がわかったみたいだ。でも、私は全然わからない。


「どういうことなの?」

「えっとね、魔法のカバンはカバンの中にものを入れたいって思いながら手を入れれば使えるんだけど、その時に魔力を使うの」

「そうなんだ」

「それでね、その出し入れするときに必要な魔力ってね、本来のバッグのサイズから何倍に拡張してあるかによって決まるって先生言ってたよ」

「じゃあ、私がその魔法のカバンを使えない理由って」

「魔力量不足だと思う」


 そうだったんだね。でも、これでようやく原因がわかった。私だって魔法は使えるんだから、希望はあるはずだ。


「じゃあ、魔力量を上げればいいんだね!」

「でも、魔力量を上げるのは大変だよ?」

「うん。さくらちゃんの今日の魔法の威力を見ると、魔力量は多くないと思うから、大きな魔法のカバンを使うんじゃなくて、もっと小さい魔法のカバンを使うようにしたほうがいいと思うよ。いっぱい入っても、さくらちゃんの腕力で持ち上がるとも思えないし」


 それは確かにそうだね。リュックサックにスーツケース並みの物が入ったとしても、私の腕力だと持て余しちゃうもんね。


「2人ともありがとう! もっと普通の魔法のカバンを入手できないか考えてみるね」

「「うん!」」


 本当に二人ともいい子だよね。下手したら高価な物を自慢をする嫌な女状態だったのに、そんなの全然気にしてないって感じだし。う~ん、どうにか二人のご両親に迷惑かけない範囲でお礼をしたいね。




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