第57話 明日も学校へ

 楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去るものだよね。ロイスちゃん、ティリーちゃんとお話ししていたら、いつの間にか窓の外は夕焼けに染まっていた。


「それじゃあさくらちゃん、私達は帰るね! クッキーありがとう!」

「クッキー美味しかった。ありがとう!」

「あ、ちょっと待って、階段まで送っていくね」

「2人だけでも平気だよ?」

「うん、二人がしっかり者で迷子の心配がないのはわかってるんだけど、階段より上に二人だけでいたら、ちょっとお城の軍人さん達が不思議がると思うの」

「そっか、それはそうかも」


 でも、二人を送っていくその前に、お土産にクッキーを持って帰ってもらえないか聞いてみよ。


「もしよかったら、クッキーをお土産に持っていかない?」

「「いいの?」」

「うん、いろいろ教えてもらっちゃったし、そのお礼ってことで。それにいっぱいあるしね。袋にたくさん入れてくるから、ご両親やお兄ちゃんお姉ちゃんと一緒に食べてね」

「「ありがとう!」」

「さくらちゃんのクッキー美味しかったから、きっとパパもママもお兄ちゃんも喜ぶよ!」

「うん! 普段あたしは甘いものにうるさいよって言ってるお姉ちゃんも、このクッキーなら倒せると思う!」


 気に入ってもらえたのはうれしいんだけど、ティリーちゃん、私のクッキーでお姉ちゃんをどうやって倒すんだろ?


 確かに今回猫ボディで焼いたクッキーは、私の中では一番いい出来だけど。あくまでも素人の手作りクッキーなのよね。お店のクッキーとかには勝てないと思うんだけど。


 私は台所に行って、手ごろな紙袋の中にクッキーを詰める。


「はいどうぞ」

「「ありがとう」」

「それじゃあ、階段まで送るね」

「「うん」」


 階段まで歩きながら、さらにおしゃべりをする。


「さくらちゃん、明日も学校来るよね?」


 ロイスちゃんが私を学校に誘ってくれたんだけど、いいのかな? 私、大人だよ?


「ロイスちゃん? さくらちゃんは大人だよ?」


 ティリーちゃんが私の言いたかったことを言ってくれる。


「だって、さくらちゃん今日の魔法の授業楽しそうだったから」


 それは確かにそうなんだよね。今日行った学校は、そこそこっていうか、凄く楽しかった。


「え~っと、行ってもいいのかな? 私大人だよ?」

「もしダメなら、きっと今日言われてると思うの。先生達がさくらちゃんの正体に気づかないわけないと思うから」


 そうだよね、先生たちが気付かないはずないよね。っていうか、よく今日何も言われなかったよね。


「それに、明日は武器の授業なんだよ」

「武器?」

「うん、剣とか槍で戦うの! 今はまだ素振りしかしたことないんだけど、楽しいよ!」

「すご~い、武器まで教わるんだ」


 剣とか槍の授業か~、今日の魔法の授業はすごく楽しかったし、武器の授業も楽しいかもしれない! それに、武器の知識があったほうが、護身用の剣を再度作るにもきっといいよね。


「ちょっと授業受けてみたいかも」

「じゃあ一緒に受けよ~。私は授業を受けて強くなったら、剣でお兄ちゃんを倒すの」


 そう言いながらロイスちゃんはエアー素振りをする。


「あたしは槍かな。お姉ちゃんに槍の使い方を教わってるんだ」

「え~、ティリーちゃんいいな~。お兄ちゃん、木の剣すら私にはまだ早いって、絶対教えてくれないんだよ」


 ロイスちゃんは頬を膨らませてお兄ちゃんの文句を言う。


 でも、ロイスちゃんのお兄ちゃん、ジョン君の気持ちもわからなくもないかな。だって、ロイスちゃん圧倒的に可愛いんだもん。きっとジョン君やリチャード君は、ロイスちゃんに危ないことはしてほしくないんだろうね。いざとなったら自分たちが守ればいいって考えていそうな気がしちゃうね。


 それに対してティリーちゃんのお姉ちゃんは、いざっていう時に自分の身を自分で守れるようにって言う考えなのかもしれないね。ティリーちゃんもロイスちゃんと同じくらいかわいいから、心配になっちゃうもんね。


「そだ、武器の授業に出るにあたって、必要な物ってあるのかな?」

「自分の木の武器とか防具があったら、持ってきてもいいよ。あたしは木の槍と防具は持って行ってるよ」

「私は何も持ってないんだけど、全部学校で借りれるから大丈夫だよ。あ、でも、服装だけは気を付けないとかも」


 それはそうだよね。動きやすい格好じゃないと戦えないもんね。


「私の今の恰好なら平気かな?」

「うん。長袖長ズボンだし、平気なはずだよ」

「だね。靴も丈夫で動きやすそうな靴だし、今はいてるので問題ないはずだよ」


 良かった。ゼニアさんに紹介してもらったお店で買ったハンターファッションだから、きっと大丈夫とは思ったんだけど、二人のお墨付きがあるなら安心だね。


「ありがとう。じゃあ明日は何時頃学校に行けばいいのかな?」

「えっとね、授業は朝の9時からなんだけど、朝の時間っていうのが8時45分から始まるの」

「それで、午前中は普通の授業で、午後から実戦だよ」


 普通の授業っていうのは、座学のことかな? 正直1日中実技の授業だと、流石に大人の私でも体力が心配になっちゃうから、ちょっとありがたいね。


「ありがとう。あ、そうだ。お昼ご飯ってどうしてるのかな? お弁当?」

「お弁当でもいいし、食堂があるからそこで食べてもいいんだよ」

「2人はいつもどうしてるの?」

「私達はお弁当だよ」

「たまに美味しそうなメニューの時だけ食堂に行くよ。ただ、お弁当を持ってても、食べるのはいつも食堂だから、さくらちゃんの好きな方でいいと思うよ」


 うう~ん、お弁当を作るのも悪くないけど、学校の食堂の味も気になるよね。


「じゃあ、学校の食堂のご飯の味が気になるから、明日は食堂のご飯にしようかな」

「うん!」


 その後、私は階段の下まで二人を送って、部屋に戻る。最後まで送らなかったのは、二人の向かう避難宿泊所も、お城の中にあって安全だからだよ。決して迂闊に動いて再び迷子になるかもって言う不安ゆえにじゃないからね!


 でも、剣か~、ロイスちゃんやティリーちゃんじゃないけど、剣を学んであの男を剣で倒すっていうのも、なかなか悪くないよね。あの裏切りものの剣と一緒に、成敗してやる!



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