第55話 お城のお部屋へご招待
「ここが我が家です!」
私はお部屋の扉の前で二人に我が家を紹介する。正確には私のお家じゃなくて、私がもらったお城の中の一部屋だけど、私の中では第2拠点、マイホームも同然だ。
「すご~い、さくらちゃん、お城の中に本当にお部屋を持ってるんだ! しかも、この扉大きいよ!」
「ほんとに凄いね! お城の1階より上に行けるなんて、お姉ちゃんに自慢できるかも!」
「そうだね! 私もお兄ちゃんに自慢しちゃお!」
「それじゃあ、はいろ~。ようこそわが家へ~」
「「は~い」」
私はお部屋の扉の鍵をガチャリと開けて、扉をふん! って開ける。
このお部屋、大きな扉は頑丈そうだし立派なんだけど、結構重いんだよね。
「殺風景なお部屋でごめんね。クッキーとジュースを持ってくるから、ソファーに座って待っててね」
「そんなことないよ。凄いよこのお部屋!」
「うん、なんかかっこいい」
「ありがとう」
このお部屋に置いてあるソファーを始めとした調度品は、全部元々置いてあったものだ。なのでこのお部屋のセンスがいいのは、私のセンスとは完全に関係ない。デスモンドさんは最低限の調度品が置いてあるだけって風に言っていたけど、私にはどこが最低限なのかがわからない。残念なことに、どこをどういじっても私のセンスだと、今以上にいいお部屋にはなりそうにないので、そのまま使わせてもらっている。
でも、ベッドの周辺くらいは自分の好みに模様替えしたいかな? どこかで時間を作って、ぬいぐるみを大量に買いあさってこないとだね。
あ、それより今はクッキーとジュースだね。
私は台所に入ると、クッキーの保存箱からクッキーを取り出そうとする。
このクッキーの箱、猫ボディの魔法によって、空間拡張と状態保存の魔法が掛かっている。今までは人間ボディだと魔法のカバンみたいな空間拡張されている入れ物から、中身を取り出すことが出来なかったけど、魔法を覚えた今なら、問題なく使えるはずだ。
いざ!
「とう!」
がつっ。
「いた!」
あ、あれ? 何でだろう。相変わらず使えない。ううう、ここはプライドを捨てて二人に聞いちゃおうかな? でも、それもクッキーを食べながらだね。
ぽふん!
取り合えず猫ボディになってクッキーとジュースを取り出してっと。
後はお盆で持って行くだけだから人間ボディでも大丈夫かな。
ぽふん!
私は人間ボディに戻ってお盆に乗せたクッキーとジュースを持って二人のいる応接室へと戻る。
すると、二人はソファーで大人しく座っていた。さっきまではしゃいでいたのに、どうしたんだろう?
「さくらちゃんって、もしかして、偉い人ですか?」
「あたしも気になった。あたし達も軍人さんみたいにさくら様って呼んだほうがいい?」
あ、それはそうだよね。このお部屋もだけど、階段の横にいた軍人さんとの話を聞いてれば、お前何者だ? ってなるもんね。でも、私は正真正銘どこからどうみても一般人だ。
「え、止めてよ二人とも。私は大人だけど、どこにでもいる一般人だよ」
「じゃあ、どうしてこんないいお部屋が、さくらちゃんのお部屋なの?」
「ロジャー将軍にもらったの。ロジャー将軍っていい人だよね」
「確かにロジャー将軍はいい人だけど、だからってこんなお部屋普通貰えないと思うよ」
「それはね、私のお仕事が関係してるの」
「「お仕事?」」
「うん。私は大人なので一応お仕事をしてるんだけど、そのお仕事が薬師なの」
厳密には薬を作ったのは人間ボディの私じゃなくて、猫ボディの私だけど、そこは私といいきっちゃってもいいよね。
ガーベラさんやロジャー将軍の話から察するに、上位のポーションを作れる薬師はこの街ではレアみたいなので、きっとこのお部屋をもらったことにも納得してくれるだろう。そう思って二人の反応を見ていたんだけど、あれ? なにかおかしな感じがする。
「あれ? 薬師なの? さくらちゃん」
「そうだよ」
「ん~、なんでだろ? 何か不思議な感じがする?」
「そうなの?」
あれ? 私何か変なこと言ったかな? ロイスちゃんが何やら不思議な顔で私のことを見てくる。ティリーちゃんはその横で何やら考えているみたいだ。ロジャー将軍がこの部屋をあげるほどの薬師、名前はさくら、迷子のさくらちゃん。何故か見たことある気がする顔。とかぶつぶつ言っている。
二人が思考の海に飛び込んでいたので、邪魔しちゃ悪いよねって思って私は一人クッキーを食べる。
「ああ~!」
するといきなりティリーちゃんが大声を上げた。
「ロイスちゃん、あたし思い出した。さくらちゃんって、ロジャー将軍の怪我を治すポーションを持ってきてくれた薬師だよ!」
「あ、ああ~! そう言う事だったんだ! 流石ティリーちゃん、私もわかったよ! でも、だからさくらちゃんって初対面って気がしなかったんだね」
「あう?」
あれ? 話が見えてこない。何か二人で納得って顔してるけど、何がわかったの? それに二人と私は初対面の気がしないも何も、正真正銘初対面のはずなんだけど。
「ごめん、私よくわかんない。ロイスちゃんもティリーちゃんも、会うのは今日が初めてだよね?」
「うん、そうだよ~」
「だね」
「でも私達はさくらちゃんのこと知ってるんだ」
「そうそう」
「なんで?」
もしかして、ロジャー将軍を救うほどのポーションを作れる薬師ってことで、街の子供達でさえ知ってるのかな? だとしたら、ちょっと恥ずかしいね。
「え~、言っていいのかな?」
「放って置いたら男子たちがからかうかもよ?」
「そうだね、なら私達がここで言っちゃったほうがいいよね」
「うん」
なになに? そんなに言いにくいことなの? 私、今日そんな変なことしてないよね?
「あのね。さくらちゃん。さくらちゃんって、この街で迷子になったでしょ? 湖の貴婦人って宿屋に泊まってる時」
「え?」
あああああ! どうしよう。嫌な記憶過ぎて完全に封印してたんだけど、思い出した。っていうかあれ、子供達には私が街中で迷子になったって伝わってるの? 嘘でしょ?
「その時ね、軍が配ってた似顔絵付きの迷子捜し書を持って、みんなで探したの。だから、さくらちゃんの顔って、たぶんみんな知ってるよ」
何その手配書、私見たことないよ。しかもみんなってなにさ。
「みんなって、どのくらいの人が知ってるの?」
「えっとね、私、ティリーちゃん、お兄ちゃん、リチャード君、クラスのみんな、先生、パパとママ、他にもいっぱいだよ。だってみんなで探したんだもん。ね~」
「うん!」
二人はあの時みんなで楽しく、薬師さくらの捜索をしていたことを話してくれる。
おのれあの男め! 子供にまで手配書を配るとは、何事だ! ロイスちゃん達の話の内容からすると、十中八九町中の人が知ってるっぽい。ううう、今まではそんなこと知らなかったから良かったけど、知っちゃった今、私、街の中を普通に歩けないじゃない! おのれ、あの男め。許すまじ!
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