第54話 難問? 大人であることの証明

「はい、今日の授業はここまでです。皆さん、魔法は危険なものです。くれぐれも練習するときは注意してくださいね。特に、火魔法は大変危険です。子供が勝手に使って火事になる事件は毎年のように起きています。火魔法は先生や親御さんのいないところでは絶対に使用しないように。いいですね?」

「「「「「は~い」」」」」

「では、今日はこれで解散です」


 今日の授業はここまでってことは、午後の授業はこの1コマしかないのかな?


「さくらちゃん、一緒に帰ろ~」

「うん。午後の授業はこれだけなの?」

「そうだよ。授業は午前中が3個、午後が1個なの」


 そうなんだ。授業数が少ない気もするけど、まだまだロイスちゃん達は小さいもんね。


 私はロイスちゃん、ティリーちゃんと一緒に歩き出す。


 2人のお家がどこにあるかはわからないけど、一緒に帰ろ~ってことは、街に帰るってことだよね。


 この街にある大きな道路は、東、中央、西の3本だ。そして、その内の東の大きな道路は、軍人さんの連絡道路になってる危険な道。ということは、十中八九みんなでお城の外に出て、湖の貴婦人のある中央のメインストリートか、西の大きな道路を使ってお家まで帰るはず。つまりこれは、自然とお城の正門に案内してもらえるってことだ。何気なくうんって返事しちゃったけど、よくよく考えたら完璧な作戦だね!


 お城のお部屋からは遠ざかっちゃうけど、ゼニアさんに会いに湖の貴婦人にも行きたいし、このまま二人を送って外出も悪くないよね。


 そう思って二人について行ったんだけど、あれ? この方向って、絶対正門の方向じゃないよね?


「あれ? こっちって正門の方向じゃないよね?」

「そうだよ。避難宿泊所に向かってるの」


 避難宿泊所? あれ? 何でそんなところに?


「えっと、どうして?」

「あれ? さくらちゃん聞いてないの? 街の中はまだまだ瓦礫とかがいっぱいで危ないから。片付けが終わるまで、子供はお城から出ちゃダメなんだよ。だから、パパもママもみんなお仕事が終わると避難宿泊所に帰ってきて、一緒にご飯食べて寝るの」


 えええ!? 聞いてないよ!? 私の完璧な作戦はものの数分で脆くも崩れ去った。


「さくらちゃんのパパとママも避難宿泊所にいるんじゃないの?」


 そんな私に、ティリーちゃんが追い打ちをかけてくる。


 私の両親? 日本人だった私の両親なら、きっと日本で生きてるはずだ。この体の両親っていう意味だと、誰になるんだろう? キジトラさん? でも、キジトラさんんは猫の天国にいるにゃんこだから、この世界にはいないはずだよね。


 う~ん、信じてもらえるかはわかんないけど、ダメもとでティリーちゃんに私が大人だって説明しようかな。


 そうだよね、それがいいよね。ついつい楽しそうで子供の授業に混ざっちゃったけど、私は大人であることを隠してたわけじゃないもんね。全然信じてくれないジョン君と一緒にいたら、なし崩し的にこうなっちゃっただけなんだもん。


「えっとね、ティリーちゃん。ロイスちゃんには言ったんだけど、私こう見えても大人なの。私は1人前の大人だから、親と一緒に暮らしてるわけじゃないの」

「大人? さくらちゃんが?」

「うん」

「あたしやロイスちゃんよりも小さいさくらちゃんが?」

「うん」

「わかった! さくらちゃん、背伸びしたいお年頃ってやつなんだね! お姉ちゃんが言ってたよ、小さい子ほど背伸びしたがるって」

「違うの、本当なの」

「え~、嘘だあ。だって、さくらちゃんはあたしより小さいし」

「あう」

「魔法も初めて使ったみたいに弱いし」

「はう」

「なにより、大人ががお城の中で迷子になるなんておかしくない?」

「ううう」


 ううう、そんなこと言われたって、本当に私は大人なんだよ~。


 でも、改めて言われると厳しい現実だ。背が低い、魔法が弱い、迷子。この世界の常識に照らし合わせると、どこからどう見ても100%子供だ。


 でも、その程度で負ける私じゃない! というか、このまま避難宿泊所とか言う場所に連れていかれたら、本気で帰れなくなっちゃう。猫ボディになって抜け出せばいいだけかもしれないけど、子供さくら行方不明事件とかってことになったら笑えない。


 何かいいアイデアはないかな? う~ん、う~ん。そうだ、良いこと思いついた!


「そうだ、私のお部屋に遊びにこない? 美味しいお菓子がいっぱいあるよ」

「いいの? お菓子って今は特に貴重なものだよ?」

「うん。そういうものは大事に食べたほうがいいよ?」


 ううう、何て優しい子達なんだ。確かに状況を考えれば、いまお菓子は貴重品かもしれない。2人の優しさにお姉さんもうお腹いっぱいだよ。


 でも、お菓子に関して言えば本当に大量にあるんだよね。それはそれは自分でもびっくりするくらい大量に。何故って? 籠城の準備の時にお砂糖も大量に買ったから、他の材料をお城にお願いして分けて貰って、クッキーを保存食代わりに大量に焼いたんだよね。幸い猫ボディでなら、火魔法でオーブンみたいなことも出来たし、保存の魔法のかかった箱も作り放題だったからね。


「あのね、今回の戦争が長引くと思って、保存食代わりのクッキーを作り過ぎちゃったの。だから、いっぱいお部屋にあるんだ」

「そう言う事なら、お邪魔してもいいのかな?」

「そうだね。保存食代わりのクッキーならお邪魔してもいいかな?」


 良かった。やっと作戦成功だ! これで無事に帰れる。


「じゃあ、まずは正門まで案内してもらってもいいかな?」

「え、お城の外に出るのはダメだよ」

「うん」

「違うの、お部屋に戻るのに、正門からじゃないと道がわからないの」

「避難宿泊所ならここから直接いけるよ?」

「ロイスちゃん、もしかしてさくらちゃんは、あたし達の避難宿泊所とは、別の避難宿泊所に帰りたいんじゃないかな?」

「あ、そっか。避難宿泊所って何か所かあるって言ってたもんね。じゃあ、正門まで案内するね」

「うん、ありがとう!」


 私は二人の案内で正門までたどり着く。ああ、良かった。やっと知ってる場所にこれた。


「じゃあ、ここからは私が案内するね!」

「「うん!」」


 私はいつものように階段を登って上の階に行こうと、階段へ向かう。


「さくらちゃん、ダメだよ。1階以外は行っちゃダメなんだよ」

「そうだよ。兵隊さんに止められちゃうよ」


 え? そうなの? そんなの初耳だ。でも、言われてみれば1階の階段横には必ず軍人さんがいた。私は階段横にいる軍人さんに聞いてみる。


「あの、二人を私のお部屋に招待したいのですが、通ってもいいですか?」

「ええ、さくら様のお部屋のある区画でしたら、さくら様がいれば問題ありません。ですが、区画によってはさくら様はともかく、ご友人様は立ち入れない区画も多いですので、帰りは真っ直ぐにこの階段に戻られることをお勧めします」

「ありがとうございます。わかりました」

「「わかりました!」」


 2人も話を聞いていたのか、元気よくお返事してくれる。この2人なら大丈夫だね。というわけで、私はお部屋までてくてくと歩いていく。


「さくらちゃんって、何者なの?」

「うん、あたしも気になる。なんで軍人さんが様付けで呼んでるの?」

「ふっふっふ~、それは私が、大人だからです!」


 私は自信満々に胸を張ってそう答える。こういうの、虎の威を借る狐って言うんだっけ? でも、いいの。2人に私が大人だって信じてもらうためなら、私は虎の力だってライオンの力だって借りて見せる!



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