第53話 線香花火じゃないよ、攻撃魔法だよ

「はい、みんな光の魔法は無事に使えたみたいですね。では、次は攻撃魔法を使ってみましょう」

「「「「「は~い!」」」」」


 攻撃魔法と聞いて、子供達は今まで一番いい返事をする。やっぱりただの明かりの魔法よりも、攻撃魔法のほうがこう、魔法! って感じがするよね!


 かくいう私も、年甲斐もなく興奮しちゃってる!


「では、まずは先生がお手本を見せますね」


 そう言って先生は、木でできた的に向かって立つ。的までの距離は10mくらいかな? そこそこ距離がある。


「魔力よ、私の手のひらに丸く集まり炎となれ、ファイヤーボール」


 先生が呪文を唱えると、先生の手のひらに、バスケットボールくらいの燃え盛る炎の玉が現れる。


「飛べ!」


 ぼん!


 そして、炎の玉ごと手のひらを的にかざすと、飛べと言う一言と共に炎の玉は的に一直線に飛んでいって、的にあたった。


「「「「「わあ~!」」」」」


 子供達から大歓声があがる!


「はいはい! 僕やりたい!」

「俺も俺も!」

「私も~!」


 もうみんな攻撃魔法を使いたくてたまらないって感じだ。みんな手を上げて早く使いたいと先生を急かす! 流石に私は大人なので手を上げたりはしないけど、内心ではすっごくやりたい衝動に駆られてる。


「はいはい、みんな落ち着いて。攻撃魔法は危険ですので、順番ですよ」

「「「「「は~い!」」」」」

「では最初に行う子の名前を呼びますね」


 先生が5人の名前を呼ぶと、呼ばれた子達が前に出る。そして、子供達の横に先生達が控える。


 なるほど、攻撃魔法みたいに危険なものを教えるときには、マンツーマンで指導するんだね。


 そして、みんな思い思いの呪文で炎の呪文を唱えてファイヤーボールを発射した。


「すご~い、みんな使えるんだ」

「みんな内緒でこっそり練習したりしてるの」


 ついつい漏れちゃった心の声に、ロイスちゃんが反応する。


「もしかして、ロイスちゃんも?」

「ううん、私が炎の魔法を使おうとすると、お兄ちゃんやリチャード君が止めてくるから、私は光やお水の魔法しか練習してないよ。でも、昔はお兄ちゃんもリチャード君も、大人に内緒でこっそり炎の魔法の練習をしてたの」

「あたしはお姉ちゃんと一緒に、炎の魔法も練習してたよ」

「いいな~、ティリーちゃん」 

「さくらちゃんは練習したことないの?」

「うん、私もロイスちゃんと一緒で、他の魔法はともかく、炎の魔法の練習はしたことないの」

「そうなんだ~」


 嘘じゃないよ。発動こそしなかったけど、捻挫した時に回復魔法が人間ボディで使えないか、いろいろ試したからね! あれはれっきとした魔法の練習だった!


 私達がおしゃべりしている間にも、子供達は順番に炎の魔法を使っていく。


「やった! あたった~!」

「くそ! 思いっきり強い炎の魔法で的を壊そうとしたのに、外れちゃったぜ」

「あ~、あとちょっとだったのに~!」

「見たか俺の炎の魔法の威力!」


 的に当てる子、外す子、威力の高そうな子、弱そうな子、いろいろな子がいるけど、唯一共通していることは、みんな炎の魔法を平然と使えてるってことだ。ロイスちゃんも、お兄ちゃんたちが練習させてくれないってことは、炎の魔法そのものは使える可能性が高い。


 ここは、大人として炎の魔法が発動すらしないって事態だけは避けないとだね。


 そんなことを考えていると、ついに私の順番がやってきた。


 先生の配慮なのか、私はロイスちゃんとティリーちゃんと一緒に魔法を撃つみたいだ。


「緊張しちゃうね!」

「うん」

「あたしは大丈夫。見ててね、強力な炎の魔法を使って見せるから!」

「うん! ティリーちゃん頑張って! さくらちゃんもね!」

「うん、二人も頑張ってね」

「ロイスちゃんとさくらちゃんも頑張ってね!」


 私達はそれぞれ別々の先生のところに行く。私を見てくれる先生は、優しそうなおじいちゃん先生だ。


「さくらさん、炎の魔法を使ったことはありますかな?」

「いえ、初めて使います。なので、ちゃんと出来るか心配です」

「ほっほっほ、感心感心。炎の魔法は危険じゃからな、子供のうちは、大人が付いている時しか使ってはならんのじゃ」

「はい」

「それと、呪文の発動に関しては安心するのじゃ。しっかり自らに語り掛けるように呪文を唱えれば、その言葉は力ある言葉となって必ずや自身の魔力を魔法へと変換してくれるはずじゃ」

「はい!」


 力ある言葉か~、いわゆる言霊っていうやつなのかな? でも、必ず使えるって言うのはいいよね!


「では、しかと集中して呪文を唱えるのじゃ」

「はい、いきます!」


 私は集中して自らに語り掛けるように呪文を唱える。


「魔力よ、私の手のひらに丸く集まり炎となれ、ファイヤーボール」


 おお~、すごい! 無事に成功した! 私の手のひらには、線香花火よりも大きな炎の玉が現れた! 後は炎の玉ごと手のひらを的に向けて。


「飛べ!」


 私の一言と共に、炎の玉は真っ直ぐ的に向かって行って、そして見事に命中した!


「やった!」

「見事に命中したようじゃの。基本に忠実で実に見事な魔法じゃったぞ。威力が低いことは気にしてはいかん。さくらさんもまだまだ魔法を覚えたばかり、これからじゃ」

「はい!」


 私はおじいちゃん先生に褒められた後、ロイスちゃんとティリーちゃんと一緒にさっきいた場所まで戻る。


「さくらちゃん、命中おめでとう!」

「うん、ロイスちゃんもおめでとう。当たってたよね」

「うん!」

「はあ、あたしは外れちゃったよ」

「外れちゃったけど、ティリーちゃんはすごいよ。あんなに大きな炎の玉を出してたんだもん!」

「うん、私もびっくりした」


 二人は私がおじいちゃん先生と話している時に魔法を発射したから、私にもちらっと見えたんだけど、ティリーちゃんの出した炎の玉は、バレーボールくらいの大きさがあった。先生のバスケットボールサイズには及ばなかったけど、ロイスちゃん含め、他の子供達の炎の玉の大きさは、ソフトボールくらいの子が多かったから、子供達の中ではすごく大きい炎の玉だった。


「今のは失敗しちゃったけど、次回はちゃんと当ててみせるね!」

「うん! わたしはティリーちゃんみたいにもっと大きな炎の玉を出せるように頑張る!」

「私も、もっとちゃんとした炎の玉を作れるように頑張るね!」

「でも、さくらちゃんの小さな炎の玉、可愛かったよ!」

「そうだね!」


 あう。ロイスちゃんとティリーちゃんの笑顔がまぶしいけど、大人として、子供達に負けるわけにはいかないのです。目指せ妥当ティリーちゃん!



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