第52話 魔法の授業

 私はロイスちゃんに手を引かれて学校へと向かう。


「ねえロイスちゃん、私この学校の生徒じゃないんだけど、勝手に入ってもいいの?」

「さっき先生がいいって言ってたから大丈夫だよ。それより早く行こ、遅刻しちゃうよ」

「うん」


 授業への飛び込み参加が可能なんて、日本の学校とはぜんぜん違うね。もし日本の学校で、私みたいな大人の女性が勝手に授業に混じってたら、絶対に大騒ぎになる。


 でも、こうなったら私の実力を見せて、ロイスちゃんに私がお姉ちゃんだってことを見せないとね! ちなみにジョン君にも説明したんだけど、こんな小さいやつが年上のはずがないって一蹴されちゃったんだよね。


 さ~て、どんな授業をするのかな? 私にはギルドの図書室で身につけた、大量の本の知識があるから、どんな授業でもきっと平気だけどね!


 そんな風に意気込んでた私なんだけど、私が釣れてこられたのは教室じゃなくて、何か訓練場みたいな場所だった。そして、そこには30人くらいの子供達と、数人の大人がいる。


「ロイスちゃん、ここは?」

「ここはね、魔法の訓練場だよ!」


 ロイスちゃんは私の疑問に、可愛い笑顔と共に、両手を広げて教えてくれる。


「魔法の訓練場?」

「うん、午後の授業は、魔法実技なの!」


 魔法実技? えええ!? 魔法って、私使えないんだけど! これはまずい、もしこの街ではロイスちゃんくらいの子でも魔法が使えて当たり前なら、魔法の使えない私はこのままじゃロイスちゃんより更に年下扱いされかねない!


「ロイスちゃ~ん。こっちこっち~」

「ティリーちゃん、今行くね!」

「ロイスちゃんその子は?」

「えっとね、迷子のさくらちゃん」

「さくらです。よろしくね」

「あたしティリー、よろしくね!」


 くう、ティリーちゃんも可愛いな! なんか、凄く自然になじんじゃったけど、まあいっか。


「さて、時間になりましたので、これより魔法実技の授業を始めます」


 大人達の内、これぞ女教師って感じの人が授業の開始を告げる。


「「「「「は~い」」」」」


 そして、子供達がみんな一斉に返事をする。


「まずは、ロイスさん。お隣の子は見かけない子ですが、お友達ですか?」

「迷子のさくらちゃんです。お昼休みにお兄ちゃんが見つけたの」

「何故ここに?」

「お兄ちゃんの先生が、私と一緒に行くようにって言ったの」

「お兄さんというと、ジョン君ですよね。その先生と言うと・・・・・・。そうですね、詳細は後で聞くとして、授業への参加はこちらの方がいいでしょうね」

「わ~い! 良かったね、さくらちゃん」

「ええ」


 でも、授業への参加はこちらのほうがいいって。それ先生、私はジョン君よりも年下だから、ロイスちゃんいるこのクラスの方が適正っていう意味!? くう、まったく期待していなかったとはいえ、この街の人たちはみんな節穴アイだ。まさか先生まで子供と大人の区別がつかないなんて。


「では、まずはおさらいからしましょう。午前中の魔法講義に関する話は覚えていますか?」

「「「「「は~い」」」」」


 先生が何人かの生徒を指さして、午前中の授業の復讐なのかな? 魔法知識に関して確認している。


 とはいっても、ここのみんなはまだまだ子供なので、あんまり細かいことは学習してないみたいだ。確認している内容も、魔法を使うには生命エネルギーの一種でもある魔力が必要で、魔力を得るにはご飯やお水、呼吸なんかで自然界に存在する魔力の元である、魔素っていうものを体内に取り込まないといけないってことだけだ。


 ずいぶん上から目線だけど私は知っていたのかって? 大丈夫、このくらいの内容はギルドの図書室で入手済みだからね! 凄まじい記憶力の猫ボディのおかげで、本の内容は丸暗記だから、私の知識量はすごいのですよ。とはいっても、本の内容を丸暗記出来ているだけで、どういう意味なのかはさっぱりだけどね。


「さて、それではまずは基本となる光の魔法から使ってみましょうね。まずは先生がお手本を見せますので、皆さんも真似してみましょうね」

「「「「「は~い!」」」」」

「それでは、いきますよ。魔力よ、私の手のひらに丸く集まり光となれ、ライト」


 すると、先生の手のひらに、光を放つ丸い玉が現れた。おお~、すごい、魔法だよ。魔法! 猫ボディで散々魔法を使ってきたとはいえ、人間ボディで魔法を見るのは初めてだ!


「では、皆さんもやってみましょうね。コツは自らと対話するかのように、集中して行うことです」

「「「「「は~い!」」」」」


 みんなはそれぞれ呪文を唱えて、光の玉を作り始める。回復魔法は失敗した私だけど、これなら出来るかもしれないね! よくよく考えたら、私の人間ボディの身体能力は、日本にいたころと変わらない気がするけど、そもそも髪の毛が黒から茶色になってるし、目の色だって黒からヘーゼルになってるわけだから、魔法が使えない日本人の体そのものってわけじゃないはずだ。それに、湖の貴婦人という最高級の宿屋で、最高級のご飯を食べていたこの人間ボディには、きっと魔力の元である魔素も十分に溜まっているはず!


 私は意を決して魔法を唱える。


「魔力よ、私の手のひらに丸く集まり光となれ、ライト!」




 すると私の手のひらから、眩い光を放つ光の玉が現れた。


 さくらちゃん、すご~い! まぶしすぎて目を開けてらんないよ。


 さくらちゃん、凄い凄い!


 さくらさん、この信じられない程眩い光はいったい何ですか!


 素晴らしい! 君には魔法の才能がある! これは、1000年に一人の逸材だ!


 そんな風にみんなが私を褒めたたえてくれる。




 なんてことにはならなかった。


 私の手のひらに現れた光の玉は、よ~っく見ないとわからないくらい、弱弱しく淡い光だった。


「やった、成功したよさくらちゃん!」

「あたしも出来た~!」


 横を見ると、ロイスちゃんの光の玉は、先生のほど強くはないけど、私のよりもはるかに強い光を放っている。ティリーちゃんの光の玉は、ロイスちゃんのほど強くはないけど、ロイスちゃんのよりも大きい光の玉だ。


 ううう、負けた。


「わあ、さくらちゃんも魔法使えるんだね!」

「まだ小さいのに使えるなんてすごいと思うよ!」


 小学生くらいの子二人に慰められちゃうなんて。しかも、たぶん背も低いし、魔法も弱いから、私確実に年下だと思われてそう。ティリーちゃんは小さいのに使えるのが凄いって言ってくれたけど、そもそも失敗した子はいないっぽいから、これ、きっと誰でも成功するやつだ。


 その後、先生たちが回ってきてみんなの光をチェックしてくれる。


「ロイスさんはこのクラスでもトップクラスの強い光ね。凄いわよ」

「やった~!」

「ティリーさんは光の強さはともかく、大きさはトップクラスね」

「わ~い!」

「さくらさんは、まだ小さいのによく頑張りましたね」

「ありがとうございます」


 ううう。まさか小さい子相手に知識でどや顔しようとしたら、実技でぼこぼこに負けるなんて・・・・・・。悪いこと、じゃないや、調子のいいことは考えちゃダメだね。


 でも、子供扱いされたおかげで、魔法が使えるようになったわけだから、結果としては凄くよかったよね!



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