第51話 お城の中の学校

「はあ! たあ! やあ!」


 少年が勇猛果敢に剣を振るう。


「ふあっはっは! その程度の攻撃、我には効かぬ!」


 それを牛の頭をした男がさばく。


「ふん!」


 そして、少年の隙を突いて、牛頭の男が手に持つ斧で少年の剣を弾き飛ばした。


「くうっ! しまった、俺の剣が!」


 剣を失い、ピンチになった少年の元へ、猫の頭の女の子が駆け寄ってきて剣を渡す。


「勇者様、この剣を使ってください!」

「この剣は・・・・・・、すまん、恩に着る! 食らえ、俺の必殺剣! バーニングスラーッシュ!」


 少年の剣は奇麗に牛頭の男に当たり。


「ぐは、もはやここまでか」


 牛男は地に伏せた。


「見たか! これが勇者の力だ!」


 最後に、少年は剣を掲げた。




「お兄ちゃん凄い凄い!」

「へへへ、なかなかかっこよかっただろ! おいさくら! どうよいまの?」

「凄かった!」

「はっはっは、さくらもわかってるじゃねえか!」


 今私の目の前で繰り広げられていたのは、今この街の子供達の間で一番人気の遊び、英雄ボヌールさんごっこらしい。


 なんで私が子供達と一緒にいるのかって言うと、それは凄く重要で複雑な事情によるものだ。決してお城の中で迷子の子供と勘違いされて、子供達の避難所兼学校まで連れてこられたというわけではない!


 だからこの学校のことも、デスモンドさんから聞いてちゃんと知ってる。このお城は、この街の緊急時の避難船でもあるから、学校や病院といった、安全な場所に建てたいものを、全部お城の敷地内に建てちゃったんだって。確かにいざという時に子供や、入院患者を避難させるリスクを考えたら、最初から避難所に学校や病院を建てちゃったほうがいいって考えには納得だよね。日本でも学校は災害時の避難所に指定されていることが多かったし。そこは一緒だね。


 でも、そんな構造のせいか、お城の1階はとになくわかりにくいのよね。まったく、そんな複雑構造してるから私が迷う羽目になるのよ!


「なあ、ジョン。次は英雄役代われよな」

「ああ、いいぜ!」

「ええ~、お兄ちゃん達ばっかりずるいよ。私も英雄ボヌールやりたい~」

「ロイスにはまだ剣は早いからダメだ」

「その剣をお兄ちゃんに渡したの私なんだけど」

「剣を渡すのと振るのとじゃあ違うんだよ!」


 はあ、またケンカが始まっちゃった。でも、ケンカするほど仲がいいって言うし、ほっといてもいいわよね。私としては早く正門へ向かうルートを教えてほしいところなんだけど、迷子だって言う事を知られたくもないのよね。どうしようかな。自力で探すのは、私の方向音痴スキルのせいで難しいから、隙を見て猫ボディになるしかないかな?


 そうそう、この3人なんだけど、さっきのチャンバラで英雄ボヌールさん役をやっていたのがジョン君で、ジョン君の妹でペルさん役だったのがロイスちゃん、そして、ミノタウロス役だったのが、ジョン君の友達のリチャード君ね。


 ごっこ遊びを全力で楽しんでいるところをみると、たぶんみんな小学生くらいかな? この街の人は基本的に背が大きいから、大きさから年齢が推測できないのよね。


 ちなみに一番大きいのはリチャード君で、すでに170cm近くありそうなかんじだ。そしてジョン君も160cm以上絶対にあるほど大きい、ロイスちゃんは一人年齢が低いってこともあって小さいって言えれば良かったんだけど、私とあんまり変わらない。嘘ですごめんなさい。私よりもロイスちゃんの方が気持ち背が高いです。


 にしてもロイスちゃん、超が付くほどの美少女ね。きっとリチャード君はロイスちゃんにほの字だね!


 そうそう、ロイスちゃんとリチャード君は雰囲気を出すためなのか、それぞれ猫と牛の被り物をしていた。日本のハロウィンで被るようなリアリティのある凄いのじゃなくて、紙袋を改造したお手製っぽいやつだけどね。


「わかったよ。それじゃあ僕がもう一度ミノタウロス役をやるから、次の英雄ボヌール役はロイスちゃんね」

「ちっ、一回だけだぞ。ロイス、木剣振ってもいいが、壊すなよ」

「うん、ありがとう!」

「で、さくら、お前は何役やるんだ?」


 え? もしかして、私も参戦するの?


 うう~ん、じゃあ、ちょっと癪だけど、あの男役をやるかな。あの男ことバーナード隊長からペルさんに元私の剣が渡り、そしてペルさんからボヌールさんにっていうのが正式な流れだもんね。


「じゃあ、私はバーナード隊長の役をやるね」

「ほう、バーナード隊長が絡んでることを知ってるなんて、お前もなかなか通じゃねえか!」


 そりゃあ知ってますとも、だってあの剣は元私の剣だし。


 そして、いざ遊びがスタートしようとしたその時、奥から大人が一人走ってきた。


「こら君たち! お昼休みはもう終わりですよ」

「「「は~い」」」


 ふ~、ギリギリセーフ! 危うくごっこ遊びをやらされる羽目になるところだった。え? 内心やってみたかったんじゃなかったかって? ボヌールさん役ならともかく、あの男役じゃ~ね~。って違うから!


「おや? 君は?」

「そいつはさくら、なんか迷子になってたから連れてきた」

「そうでしたか、見かけない顔ですね。ふむ、見たところロイスさんと同じくらいの年齢ですかな? ロイスさん、取り合えず一緒に教室に連れて行ってあげなさい」

「は~い。いこ、さくらちゃん!」

「え? あ、うん」


 え、何この流れ、私異世界に来て小学校に通うの!? 出来れば遠慮したいんだけど・・・・・・。


 でも、ロイスちゃんのこのニコニコの笑顔を見ると、断れないよね。



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