第82話 ジェームズさんと謎の煙
俺はジェームズ、肉屋の息子にして、この街の門番だ。
「総員整列!」
そしていま俺と同僚達は、朝礼のためにバーナード隊長の前に並んでいる。
「本日は通達していた通り、王都より姫様が慰問に来られる。ミノタウロス達を撃退した今、モンスターの脅威は低くなっているはずだが、決して油断することが無いよう注意しろ」
「「「「「は!」」」」」
「では解散!」
俺達はそれぞれ持ち場へと移動する。
以前からミノタウロス達を撃退した件で、王都から慰問の使者が来る話が合ったけど、突然姫様が来ることになるなんてな。嬉しい反面、ここ数日はちょっと忙しかった。主にあっちこっちの掃除にだけど。
「姫様、こっちにも来るんだよな?」
「そういう予定だな。被害のほとんどは街の北半分だったから、北半分を重点的にまわってくれるらしいぞ。それに、城壁の状態も確認するって話だから、間違いなくこっちに来るぞ」
「おお~、俺、姫様って肖像画や映像でしか知らないんだよな。映像を見る限りすげえ美人だし、今から楽しみだぜ!」
「まあ、話をする機会までは無いと思うが、流石に生で見るくらいのことは出来るだろ」
俺も姫様のことは、記録魔道具でしか見たことはないが、マジで会えるのが楽しみだぜ。
「はあ、なんとかお近づきになりたいよな。出来れば姫様のピンチを助けて、その後、なんてさ」
「ないない、そう言うのは物語の中だけだって」
まあ、誰もが一度は夢に見るシチュエーションだよな。姫様をモンスターから助けて、姫様と仲良くなるっていう物語。ま、絶対あり得ない話だけど、ついつい想像しちゃうんだよな。絶対あり得ない話だけど。
「確か姫様は10時ころに船で来るんだよな」
「ああ、そう聞いたぜ。10時ころに船で到着して、まず城でロジャー将軍と会談、そのまま昼飯をロジャー将軍と食べて、午後から慰問に街を回るって話だな。それで、夕飯は正式な予定じゃないけど、助力への感謝を伝えるために妖精の国のギルドで食べて、1日目の予定が終了という流れだったはずだ」
「なんで妖精の国のギルドでの夕食が正式な予定じゃないんだ?」
「そこは政治的なあれこれがあるって話だ。この国としては主力はこの街の軍人で、妖精の国のギルドの助力に感謝したいって立場らしいんだが、敵のボスだった7mのミノタウロスを倒したのはボヌールさんだろ? 敵のボスを倒したのが妖精の国のギルドのメンバーなのに、助力へ感謝っていうのが、大っぴらにはちょっとってことらしい」
「ふ~ん、そう言うややこしいことはパスだな」
「同感だ。まあ、姫様の慰問は午後からだ。当分は通常業務だぞ」
「あいよ」
俺達は真面目に門番の仕事に取り組む。すると、ハンターの一団が街の外へと出ていこうとする。おかしいな。姫様の慰問は公開されているってのに、こんな団体さんが外に出ていくなんて。まあ、そこそこ急ぎできまったことでもあるし、元の仕事に穴は開けられないからか?
そんなことを考えていたんだが、丁度知り合いのハンターがいたから何かあったのか聞いてみる。
「なあ、今日姫様の慰問があることは知ってるだろ? なのになんでこんな団体で出かけるんだ?」
「ここにいるハンターは、ロジャー将軍肝いりの対蚊対G殲滅部隊のメンバーからの依頼で、街の外に対蚊用、対G用の毒煙玉を撒きにいくメンバーなんだよ。姫様が来るんなら、その前に駆除しときたいだろ? 午後の慰問には間に合うように帰ってくるさ」
対蚊対G殲滅部隊ってあれか、バーナード隊長やデスモンド先生が参加してるやつだよな。今年はミノタウロス達との戦いのせいで、害虫駆除の準備が例年のようにできなかったって言ってたけど、流石ロジャー将軍だな、まさか姫様が来るのを前に対応してくるなんて。でも、何で外に行くんだろ?
「何で外に行くんだ?」
「なんでも、この作戦の発案者である薬師様がいうには、街の外から侵入する蚊とGの対策なんだってさ」
「ほ~、そうなのか。引き止めて悪かったな。気を付けていって来いよ」
「街からそう遠くない位置での活動だからな、問題ないさ」
「そうか」
その後は特に問題もなく、いつものように門番を続けていた。
すると、南のほうから音楽が聞こえてくる。
「お、こいつはもしかして姫様が来たのか?」
「だろうな。姫様の船の到着を、音楽隊が出迎えてるようだな」
「あ~、くそ、俺もいきて~」
「まあ落ち着けよ、午後には向こうからくるだろうからさ」
「そりゃあそうだけどさ」
入街のために並んでいた商人達にも音楽が聞こえたみたいだ。みんなどこか浮ついた雰囲気になる。ただ、そんなことを思って港のある南を見てみると、城の異変を見つけた。
「おい、ジェームズ! 城の上を見ろ!」
どうやら同僚達もその異変に気付いたようだ。城の一番高い場所から、カーキー色の煙と、灰色の煙が発生している。
「なんだあの煙は!? しかも、城を覆うように煙が下りてきてるぞ?」
突然の城からの煙に、俺達も入街待ちの商人もざわざわと慌てだす。
「いや、待て、この煙、城だけじゃない。街からも上がってるぞ!」
「それだけじゃない! 街の外、森のほうでも同じ色の煙が出てる!」
城壁の上にいた同僚から、追加の報告が入る。くそ、何だってんだよあの煙は。
「おい、ジェームズ、どうする!?」
どうするって、どうするよ。バーナード隊長や副隊長は姫様の護衛に行っちまってていねえし。くそ、責任者が近くにいねえぞ。
「やむを得ん、隊長も副隊長もいないんじゃ、俺達の判断でやるしかねえ。入街待ちの商人達をとりあえず街中に入れろ」
「入れた後門はどうする!?」
「まだ閉めるな! 外に出ていったハンター達もいるし、まだまだ商人もくるはずだ。だが、モンスターが来るようなら迷わず閉めれるように待機しとけ!」
「わかったぜ!」
「それから、足の速いやつは非番の連中を叩き起こして連れてこい!」
「ああ、俺がいく!」
「俺は少数で城に向かう。ここはお前に任せるぜ。お前達ついてこい」
「「「「「おう!」」」」」
俺は同僚達の中でも一番頭の回転の速いやつにこの場を任せると、訓練でいつも一緒の5人とともに、城へ向けて走り出す。くそ、よりにもよって姫様の来ている時にトラブルが起きるなんて。待てよ、もしかしてこれは姫を狙った工作なのか? だとしたら、モンスターが原因のトラブルじゃなくて、人為的な工作か? いや、考えてても仕方ねえ。今は城に急ぐのみだ!
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