第42話 必殺? 火の玉レシーブ
『ガーベラさん。お昼ご飯食べ終わりました。代わります』
「あらさくらちゃん、ありがとう。それじゃあ私もさくっとお昼ご飯を食べてくるわね」
私はガーベラさんとご飯休憩を交代する。
妖精の国のギルドの庭には、なかなかハイテクな治療システムが構築されている。担架に乗った怪我人さんが1列に並んでいて、その怪我人さん達の列の先に、私やガーベラさんの乗る台がある。そう、回復係である私とガーベラさんは、その台から一歩も動くことなく、怪我人のほうから自動でやって来てくれるというシステムなのだ。
それはまさしく、オートメーション治療システムと言っても過言ではないだろう。スーパーのレジとかいっちゃダメだ。
さあ、かかってこい怪我人ども、すべてこの私が退治してくれよう!
「なんだ? この猫がさっきの妖精族の代わりに怪我を治してくれるのか?」
「にゃ~!」
むう、まさか私の回復魔法に不満があるとでもいうのだろうか? 朝からずっと回復魔法を使っていたのに。新顔かな? この人。
ただ、確かに私も怪我をしたら、種族は違えど大人の雰囲気のガーベラさんに治療してほしいっていうその気持ちはわからなくもない。私はなんて言うかこう、小娘オーラが出ている気がするからね。
「何だてめえ、文句があるならこっち来てんじゃねえぞ?」
怪我人を運んでいる人の態度にイラっとしたのか、ボヌールさんが凄い怖い顔と声で注意しに来てくれた。
ボヌールさん、私をかばいに来てくれているってことはわかるんだけど、その迫力ある睨みつけ攻撃は止めてほしい。私のメンタルはその睨みつけ攻撃の余波だけで大ダメージを受けてしまう。
「ひい、す、すみませんでした!」
そう言って怪我人を運んでいる人はボヌールさんに謝る。
「謝る先は俺じゃねえだろうが!」
「はひ! すみませんでした!」
そう言って怪我人を運んでいる人は今度は私に謝ってくれる。
「にゃ~」
私はあんまり気にしてないよって言いたいところだけど、この街の人はほとんど念話が使えないので、ひと鳴きするだけにした。
私は回復魔法を使うと、担架で運ばれていた人は一瞬で怪我が治る。
「すげえ、さっきの妖精族よりも、もしかして上なのか?」
さっきまで、ううん、現在進行形でボヌールさんにびびりまくってる怪我人を運んでいる人が、私の回復魔法に感嘆の声を上げる。
ふっふっふ、何を隠そう私が使える汎用回復魔法は最上級の1種類しかないからね。怪我の状況を見ていろんなランクの回復魔法を使い分けるガーベラさんより、基本的にはよく効くのです!
こんな無茶が出来るのも、このイージーにゃんこライフボディのおかげだね!
「おい、治療が終わったんならさっさと前に進めや!」
「はひ!」
なんか、ここまでボヌールさんにぞんざいに扱われると、可哀そうになってくるね。この人の気持ち、私にもよくわかるから。私がボヌールさんにあんな風に相手されたら、きっととっくに泣いてるだろう。
さて、それじゃあ私は次の人を治療しよっと。
そうして治療を続けること30分くらい。本当に30分かはわかんないけど、私の中で30分くらい。ガーベラさんが食事を済ませて帰ってきた。
「ありがとう、さくらちゃん。後は二人でやりましょうか」
『はい!』
「ボヌール、列を2列にして。私とさくらちゃんの二人でそれぞれ対応するから」
「おう、わかったぜ! おいてめえら、聞いていただろう? さっさと2列になりやがれ!」
ボヌールさんのその一言であっという間に1列だった怪我人さんの列は2列になる。流石ボヌールさん、何という迫力!
その後は、2列になった怪我人さんの列を、ガーベラさんと二人で対処していく。順調に回復魔法を使って対処していたんだけど、突如結界に火の玉が激突する。
「みぎゃ!」
「さくらちゃん、落ち着いて、結界があるからここは安全だからね!」
『わかりました』
って、違う! そうじゃない、私はお昼に火の玉をレシーブすると決めたのに、1回もレシーブ出来てない!
私は意を決して火の玉レシーブに取り掛かろうとする。まだまだ火の玉はいっぱい降り注いでいるし、そのせいで怪我人さんも多い。これは何とかしなければ!
ただ、お昼に決心したにもかかわらず、今まで治療中は火の玉のことが一切頭の中から抜け落ちていた。いくらハイスペックなイージーにゃんこライフボディがあろうとも、私の意識が付いていかなければ同時に二つのことは出来ないってことなのかな? でも、それじゃあダメだ。せっかくのイージーにゃんこライフボディ、今こそ使いこなす時!
私は意を決して目の前の人に回復魔法を使いながら、火の玉にサイコキネシスを使おうとする。すると、目の前の人は回復したんだけど、火の玉は空中で爆発した。ダメだ、サイコキネシスの強さの制御が雑になって、レシーブをするはずが木っ端みじんに壊しちゃった。
うう~ん、そもそも私は同時に何個ものことが出来るほど器用なタイプじゃない。どうしよう? そうだ、良いこと思いついた! 同時にやるのが苦手なら、片方を自動化しちゃえばいいんだ。よくゲームとかにある、設置型の回復魔法陣みたいな魔法を使えば、回復魔法のほうには意識を割かなくてよくなるよね? うん、今日の私は冴えてるね。よし、やってみよう!
私は肉球に魔力を込める。範囲はこの庭くらい、時間は取り合えずおためしで1時間くらい。回復量とかは、いつもの汎用回復魔法で!
すると、私の右手の肉球が淡い光を放ち始める。なんか、成功したっぽい? よし、それじゃあこれを台にテシって設置してっと。
私が右の猫パンチを台に繰り出すと、肉球が当たった箇所を中心に、ドーム状に柔らかい回復魔法の光が広がる。
「さくらちゃん? 何したの?」
『私の魔法がちゃんと発動していたら、ギルドの庭に設置型回復魔法陣が発動しているはずなのですが、上手くいってるんでしょうか?』
「さくらちゃん、そんな魔法を使えたのね。少し待ってね。調べてみるから」
そう言うとガーベラさんは何やら魔法を使い始めた。でも、なんか成功してるっぽい? まだ治療していない順番待ちの怪我人さんの列から、歓声が起こっている。
「すごいわさくらちゃん。さくらちゃんの言うように、ギルドの庭に設置型回復魔法陣が展開されているわ! これなら1時間くらいはこの庭に入るだけで回復できるわよ! そこのあなた達、この魔法陣が消えるまでの1時間、こちらでもっと怪我人の受け入れが可能よって、軍とハンターギルドに連絡してきて!」
「「「「「はい!」」」」」
ガーベラさんの指示で何人かの元気な人が外に全力で走って行く。よし、これで私も、思う存分火の玉レシーブを堪能できるね。
『ガーベラさん。私は倉庫の屋根に上って、火の玉の対処をしますね』
「ええ、わかったわ。でも、行っていいのは屋根の上だけよ?」
『はい!』
いくらキャッチ出来るとはいえ、火の玉が直接あたるかもしれないのは怖いので、結界のはってある庭から出る気はこれっぽっちもないのです!
「さくら、お前のサイコキネシスって、俺を倉庫の上に持ち上げられるよな?」
『はい』
「んじゃ、俺も持ち上げてくれ」
『いいんですか?』
「倉庫の上からでも睨みをきかせることは出来るからな。問題ない!」
『わかりました!』
私はボヌールさんと一緒に倉庫の屋根に上る。倉庫の屋根に上った私は、火の玉レシーブに挑戦してみる。ターゲットには困らない。なにせいっぱい降ってきてるからね。適当な火の玉に狙いを定めて、食らえ、サイコキネシスレシーブ!
『や~!』
私の体から伸びた魔力が、まるで大きな肉球みたいになって火の玉へと向かって行き、華麗にレシーブを決めた。私にレシーブをされた火の玉は奇麗な放物線を描いて、街の外へと飛んでいく。
おお~、すごいすごい! レシーブ出来ちゃった! 学校でバレーをしたときの私のレシーブは、お世辞にもうまいとは言えなかった。セッターに返球できる可能性なんてほとんどなかったって言うか、そもそも前に飛ぶ確率すらそんなに高くなかったし。なんでか横に飛んだり、後ろに飛んだり、酷い時は私の顔に飛んできたりしたんだよね。それが、狙い通りの方向に飛ぶなんて! これは感動ものだね! 流石私のイージーにゃんこライフボディだ!
その後も迫りくる火の玉を私はレシーブし続ける。
『と~!』
『た~!』
『必殺! 回転レシーブ!』
私はついつい夢中になっちゃって、その後ず~っと火の玉をレシーブし続けた。
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