第19話 ハンターとしての初仕事

 私がどうしたらいいのか全力で考えていると、白黒にゃんこがギルドに飛び込んできた。


『おい、大変だ! 東の方から、モンスターどもが大量にやってきていて、街道がやばいことになってる』

「ミノタウロスがもう来たの!?」

『いや、ミノタウロスどもじゃない。俺が見た範囲だとこの近辺の森に普通にいるモンスターばかりだったぜ』

「恐らく、ミノタウロスどもの移動に気付いたモンスター達が逃げたんだろうな。あいつら、牛の頭のくせに肉食だからな」

『俺もそう思う。今大慌てでこの国の軍とハンター達が対処してるみたいなんだが、手が足りないっぽい。どうする?』

「そうね、軍は街の防衛の準備もあるだろうし、それはハンター達も同じはず。ここは私達も出ましょうか」

『わかった。俺は早速行くぜ』

『私も一緒に行くわ。さくらさんも無事に見つかりましたしね』

「ええ、二人ともお願いね」


 白黒さんとペルシャさんがギルドを飛び出していく。そういえば、ガーベラさんはペルちゃんに私を探してもらってたって言ってたけど、ペルシャさんの名前がペルちゃんなのかな? 今はばたばたしてるからあれだけど、今度聞いてみよう。


 あれ? 待って、このどさくさにまぎれれば、人間の私捜しの件を誤魔化せるんじゃないかな? よし、そうと分かったら行動あるのみ、白黒さんがもたらしてくれたこの絶妙なタイミングでのイベント、逃してなるものか!


『ガーベラさん、私も手伝ってきます』

「さくらちゃんはダメよ。気持ちはありがたいけど、危険すぎるわ」

『私も妖精の国ハンターギルド所属のハンターです! 行かせてください! 無理はしませんから!』


 私は過去最高クラスに情熱的にガーベラさんに訴えかける。でも、ガーベラさんはあまりいい顔をしてくれない。ううう、私は何としてもこのチャンスを手にしたいの、お願いガーベラさん! 私は目力を強めてガーベラさんにお願いを続行する。すると、援軍が現れた。


「ガーベラ、行かせてやってもいいんじゃないか? さくらの腕の良さは、こいつの狩った獲物の処理をした俺が保障する」


 ボヌールさん、援護射撃ありがとうございます! でも、ガーベラさんはそう簡単に倒せなかった。まだ渋い顔をしている。ボヌールさん、もっと援護射撃をお願いします。


「じゃあこうしよう、俺がさくらに付いて行く、それならいいだろ?」


 え? ボヌールさん一緒に来てくれるの? 私としても実は内心不安だったから、ありがたいんだけどいいのかな?


「ボヌール、大丈夫なの?」

「なあに、ミノタウロスの上位種が来たってわけじゃねえんだ。現役を退いたとはいえ、まだまだ動けるさ」

「はあ、しょうがないわね。分かったわ」


 おお~、ボヌールさん凄い! ついにラスボスガーベラさんを倒しちゃった。


『やった! ガーベラさん、ボヌールさんありがとう!』

「ま、俺はさくらが強いって信じてるしな!」

「でもさくらちゃん、決して無理は禁物よ? あなたはまだハンター成り立て、最低ランクなんだからね!」

『はい!』

「よし、じゃあ準備してくるから、ガーベラ、この街の置かれた状況を一度ちゃんと説明してやれ」

「わかったわ」


 ボヌールさんが準備のために倉庫の方に歩いていくと、ガーベラさんがこの街の状況を説明してくれる。


「まず、この街がどういう目的で建てられた街かは知ってる?」

『えっと、図書室の本の知識ですが、北と東にいる強力なモンスターから、フージ王国を守るための盾として出来た。ですよね?』

「その通りよ。どういう原理なのかはわかっていないけど、その北と東のモンスターが、時々フージ王国側に出てくることがあるの。一説には数が増えすぎたからとか、他のモンスターとの縄張り争いに負けたとか言われているけどね。そして最近では、3か月前に東の山のふもとにミノタウロスが出てきて集落を作っていたの。もちろんこの街の軍隊やハンターギルドは対処したわ。討伐軍を編成してミノタウロスの集落を襲撃、かなりの被害を出しながらも、これを壊滅させたの」


 もしかして、そのかなりの被害を出しながらって部分の関係で、私みたいな得体の知れない薬師ですらVIP待遇だったのかな?


「ただ、集落は無事に潰せたんだけど、敵があまりにも強力で全滅させられなかったの。上位のミノタウロスを中心に、怪我を負いながらも逃げていったそうよ。ただ、ミノタウロス達に与えた怪我もけっこう酷いものだったらしいから、再度こちら側に来るとしても、当分は平気だろうって推測していたのだけれど、思ったよりも敵の回復が早かったようね。理想は怪我を負って逃げ帰ったミノタウロス達が、他のモンスターに食べられるっていうのが楽で良かったんだけど、そう上手くいかないわよね。そういうわけで、ミノタウロス達は強いからね。もし万が一出会っても、戦っちゃだめよ。ボヌールを囮に逃げなさい」


 うう~ん、この場合なんて返事しよう? 戦わないの部分には、はいって答えたいけど、ボヌールさんを囮に逃げるのは・・・・・・。


「ガーベラ、そんな意地悪な質問するもんじゃねえぜ? さくらが可哀そうじゃねえか。たださくら、その場合の答えは、はいでいいぞ。俺は見ての通り防御力が高いからな。さくらが街へ援軍を呼びに行って、戻ってくるまでの時間くらい稼いで見せるさ」

『はい!』


 ギルドに戻ってきたボヌールさんは、凄い立派でかっこいい鎧を着ていた。素材は金属とモンスターの皮を中心に、モンスターの角や牙が至る所に使われてるみたいだ。すごい、こんなかっこいい造形の鎧、ゲームとかでしか見たことない。おまけに色合いは白をベースに差し色で金とか、かっこよすぎる!


『ボヌールさん、その鎧かっこいいですね』

「がっはっは! この鎧のかっこよさがわかるとは、さくらはなかなかわかってるみたいだな! じゃ、行くかさくら。今この街に来ようとしてる商人どもは、いざって時の備蓄食料とか、重要な物を運んでくれてる連中のはずだ。流石に護衛は雇ってるだろうが、こういう非常事態を想定してるわけじゃねえだろうから、戦力としては心もとないはずだからな」

『はい!』

「さくらちゃん、ボヌール。念のためにこれを持って行って」


 そう言って料理人さんは包みを渡してくれる。


「これはスタミナや魔力の自然回復力を上昇させる効果のある薬膳携帯食だよ。味はいまいちだけど、回復効果はしっかりあるから、長期戦になりそうなら食べてね」

『ありがとうございます!』

「ああ、済まんな。一応備品のポーションも3本持ってくぜ」

「ええ、気を付けてね」

『そうだ、このバッグ置いて行ってもいいですか? ちょっと重いので』

「ええ、構わないわ。カウンターで預かっておくわね」

『ありがとうございます。それからこれ、まだポーションの瓶に移していないのですが、中にポーションが1リットル入っていますので、何かあったら使ってください』


 私は魔法のカバンからすり鉢ポーションを取り出し、魔法のカバンと共にガーベラさんに渡す。


「うし、じゃあ出発だ!」

『お~!』



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