第35話 初めてのお客様

『そういや、どこでポーション作るんだ?』

『とりあえず、森で材料になる青い果実を集めてから、私の森の拠点に行こうと思うんだけど、いいかな?』

『ああ、もちろん構わないぜ』

『拠点までは空を歩いていくんだけど、ミノタウロス達に見つからないように隠蔽魔法を使うね』


 そう言って私は隠蔽魔法を自分にかける。


『おう。ってさくら、俺も巻き込むようにかけてくれよな』

『巻き込むように?』

『ああ、隠蔽魔法は別々にかけると、お互いが認識しにくくなっちまうんだ。でも、一つの隠蔽魔法にまとめてかかれば、メンバー同士普通に認識できるんだよ』

『そうだったんだ。ちょっとまって、かけなおすね』


 私は隠蔽魔法を一度といて、今度はアオイ事まとめてかける。


『これでいい?』

『おう、大丈夫だ、サンキュー。そうそう、この隠蔽魔法は猫専用の魔法だから、ガーベラとか熊親父には掛けても効果ないから気を付けな』

『うん、ありがとう!』


 流石アオイだね。私なんて何となく隠れたいって念じて、えいってやってるだけなのに、アオイは魔法の特徴とかそういうの、ちゃんと把握してるんだね。


『んで、この後は空から採集なんだっけ?』

『うん、ガーベラさんが言うには、対空攻撃が出来るようなミノタウロスは本隊にいるだろうから、上空なら今はまだ安全なはずってことみたいなの。だから、私の開発した上空採取法を用いて、ポーションの材料を森から頂こうと思います!』

『なるほど、分かったぜ!』

『じゃあ、行くね!』


 私は空へと走り出す。ひたすらひたすら上へと昇っていく。


『このくらいの高度があればいいかな?』

『そうだな、この高度でしかも隠蔽魔法付きだ。めったなことじゃあ見つからんだろ。でもよ、こんなに高いと、青い果実を探すのも難しくないか? ってか、青い果実って具体的にはなんなんだ?』

『そこは任せて! 取り合えず森の上空まで行こ!』

『ああ』


 私とアオイは街の上空から森の上空へと移動する。


『それじゃ、やるね』

『ああ』

『ポーションを作るのに向いた青い果実をサーチ!』


 すると、私の猫ボディから魔力が飛び出して行って、この周囲の青い果実の場所がわかるようになる。そして、サイコキネシスで一つの木の青い果実を9割くらい、むんが~! って採取する。9割なのは、何となく全部取るのが申し訳なく感じるからね。


『この青い果実がポーションの材料なんだけど、アオイ知ってる?』

『いや、植物の名前までは知らないな。でもこれ、確かちょっとだけ回復効果のある果実だな』

『そうなの?』

『ああ、ポーションの材料にするってのは聞いたことなかったが、ガーベラのやつがそう言ってたぜ。俺としてはそんな回復効果うんぬんより、普通に味が気に入ってる』

『美味しいの?』

『ああ、さっぱりした味でなかなか美味いんだよ。特に肉を食べすぎて口の中をさっぱりさせたいときに食うと、いい感じだぜ』

『へ~、そうなんだ~』


 ポーションの材料なんだから、毒は無いと思うけど、そっか、美味しいのかこれ。私はサイコキネシスで皮をむいてちょっとかじってみる。うん、なんかよくわかんないけど、爽やかな味でそこそこ美味しい。アオイの言うようにお肉ばっかり食べた後の口直しにはいいね。


『うん、アオイの言うようにお肉の後に合いそうだね』

『だろ? んじゃ、いっぱい収穫するとするか!』

『うん』


 私とアオイは森の上空を歩きながら、青い果実をどんどん収穫していく。


『結構いっぱい取ったな』

『うん、これだけあれば十分すぎるよね!』

『あとはさくらの拠点に行って、ポーションにするだけか?』

『うん、拠点に湧き水の池があるんだけど、そこのお水とこの青い果物でポーションが出来るの』

『ほ~』

『じゃ、いこっか!』

『おう』


 私は北の崖の上の拠点へと足を進めていたんだけど、あの大きな崖のあたりでアオイにまったをかけられる。


『おいさくら、お前どこまで行く気だよ』

『どこって、崖の上にある拠点だけど』

『崖の上って、さくら? 北の崖の上は危険なモンスターの巣窟だぞ? 分かってるのか?』

『そうなの? でもそれって、もっと奥のほうの話じゃないの? 私の拠点の周辺から街にかけての間は、危険なモンスターなんて出ないよ?』

『そうなのか? 北の崖の上なんていったら、雷属性攻撃が得意な高位の鳥モンスター、サンダーバードなんかもいるせいで、空を歩くのさえ危険って言われていたはずなんだが』


 雷属性の高位の鳥モンスターでサンダーバード? そんな物騒な鳥に出会ったことなんてないはずだ。電気で思いつく鳥って言ったら、ぱちぱち鳥だけど。あの子はばちばちいってるだけで、触ってもちっとも、びりってしないから違うよね?


 うん、きっと違うね。ぱちぱち鳥にサンダーなんてかっこいい名前、きっと付けないはずだ。サンダーバードなんてかっこいい名前が似合うとしたら、とあるゲームにでてくる、炎の鳥と氷の鳥とセットな、あの雷の鳥とかだよね。でも、あんな実際にあったら怖そうな鳥、見たことない。


『うう~ん、大丈夫だと思うよ。私の拠点の周りは弱いモンスターしかいないから。たぶんアオイの言う危険なモンスターは、もっと北に行かないと出てこないと思うの』

『そうなのか?』

『うん、というわけで行こ』

『ああ、分かった』


 私達は空をてくてく走って行く。そして、私の第一拠点、桜の木の上空に到着した。あとは降下するだけなんだけど、ちょっと待って! 確かいまあの拠点には、いろんなモンスターの牙や爪がある。流石に女の子の部屋として、無造作に牙や爪が散らかっているのはまずい! ここは、先手を打って片付けないとだ!


『アオイ、ちょっと散らかってるからここで待ってて』

『ん? 別に気にしないぞ?』

『私が気にするの! ちょっと待ってて!』

『あ、ああ』


 私は大急ぎで拠点へと降下すると、すぐさま片付けを始める。


 まずい、改めてみるとこの辺、牙と爪だらけだ。隠すだけなら埋めちゃうのが楽だけど、それは桜の木や湧き水の池に影響がありそうだからダメな気がする。だとすると土の箱に入れる? でも、こんないっぱいあるのをどうやってしまおう?


 そうだ! 土の箱の中を魔法のカバンみたいに拡張出来ればいけるね!


 私は大急ぎで1m四方の箱を作ると、その中に劣化しないように~、空間が広がるように~ってお願いしながら肉球をかざす。すると私の肉球から魔力が飛んでいって、土の箱に魔法がかかる。


 やった! 成功ね! あとはサイコキネシスで全部突っ込めば。うん、完璧!


 念のためにもう一度拠点を見回す。うん、後は大丈夫だね。じゃ、アオイを呼んでこよっと!


 そう言えば、この拠点に取っての初めてのお客様だね!



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