第10話 私は常識のわかる猫である!
私は早速図書室で常識を集めることにする。図書室はこじんまりとしてるけど、全部読むのは難しそうなくらいには本がたくさんある。
さて、調べたいことは山ほどあるけど、まずは何から調べようかな。やっぱりここは、猫の国と妖精の国のことからかな? この街のことは聞いても不自然じゃないけど、私達のルーツにかかわることは知らないと、いろいろとまずそうだしね。それと、この国と妖精の国との関係もかな。門番さんとアオイの関係を見てると、人間と猫は仲が良さそうだけど、その理由は知っておきたい。
私はとりあえず猫の国のこと、あるいは妖精の国のことが書かれている本を探す。すると早速発見出来た。
『誰でもわかる妖精の国』
うん、わかりやすそうだ。中を軽くぺらぺら見てみても、文字だけじゃなく、絵がたくさん描かれている。
これならいけると思って読み進めるけど、こんなところでもイージーにゃんこライフなボディは仕事をしてくれる。日本人だった時は速読なんて全然出来なかったのに、恐ろしいはやさで文字を読める。ぺらっとページをめくって、1秒も掛からず内容が把握できるのは、ちょっと凄すぎる。
でも、おかげでいろいろわかった。まず、妖精の国っていうのは、妖精族を中心に、動物達と一緒に作った他種族国家だった。だから、猫の国って言った場合、妖精の国の中にある、猫たちの本拠地のことを指すようだ。
このギルドに入る前に、アオイが、ここは俺達妖精の国のギルドだって言っていたのが気になったけど、どうやらこの世界の猫は、猫の国イコール妖精の国っていう認識でいるみたいだ。
それと、この世界では地球でいう動物は、みんな私達猫と同じく知性を持っていて、念話での意思疎通が可能なのだそうだ。他の動物とも喋れるなんて、なんてすばらしいんだって思ったけど、ほとんどの動物は妖精の国に住んでるみたいで、国の外で会うことはあんまりないみたいだ。
ううん、諦めるにはまだ早い。妖精の国の外で動物に出会えないのなら、私が妖精の国に行けばいいんだから!
次は、妖精の国とこの国の関係を調べようかな。すると、こちらもあっさりと本が見つかった。
『妖精の国とフージ王国』
実にそのまんまのタイトルだ。こちらもペラペラと読み進める。へ~、このフージ王国は昔から海洋進出を積極的にしている国で、妖精の国ともいろいろと貿易なんかをしてる間柄なんだ。それで仲がいいんだね。主な貿易品目は、妖精の国からは魔法薬を売って、フージ王国からは妖精の国にいないモンスターの素材を売っているってことね。だとすると、私が作ったポーションも売れそうだね。
ハンターギルドを始めとして、妖精の国のいくつかのギルドがこの国に進出している理由なんかも書いてあったんだけど、妖精の国が素材欲しさに作ったわけじゃなくって、フージ王国が妖精の国に要請してつくってもらったんだって。大まかな経緯なんかも書いてあったけど、妖精に要請なんて、よ~せ~って言って引き受けたっていうことが大真面目に書かれてて、私は思いっきり流し読みするだけでいいにした。
それから、フージ王国と妖精の国の位置関係が描かれた地図みたいなのもあった。だけど、え? 妖精の国って、違う大陸にあるの? ま、まあ、まず人間として、このフージ王国で生活できるようにしないとだし。妖精の国にはその内落ち着いてから行ければいいかな。
その後も、いろんな本を順調に読み進める。
うう~ん。流石にちょっと疲れたかな。とりあえず、最低限の常識は学べたと思うし、お夕飯にしよう。アオイもここの食堂でよく食べるって言っていたし、私も食堂で食べようかな。
私は1階に降りる。するとそこには、私と同じくお夕飯を食べようとしている猫が数人と、それと熊親父こと、ボヌールさんがいた。 そうそう、この世界では、人間も獣人も私達猫も、知的生命体を数えるときは人で、モンスターを数えるときは匹みたい。ふふ、私はもう常識猫だからね、その辺も間違えないよ。
私は食堂のカウンターへ行き注文をする。注文を受けてくれるのはまたまた受付妖精のガーベラさんだ。
『ガーベラさん、今日のおすすめステーキをお願いします』
「はい、わかりました。出来たら運ぶので、適当な席に座っていてね」
『はい』
常識猫な私は、お金のやり取りもばっちりだ! さてと、どこに座ろうかな。
「おう、さくら、こっちこい!」
『はい』
私はボヌールさんに呼ばれるがままにボヌールさんの正面の席に座る。
「さくらはこの街でハンターをやるのか?」
『少し迷っていますが、その予定です』
まだ完全に決めたわけじゃないけど、今現在、私のお金稼ぎの手段として確立しているのはモンスターを倒すことだけだし、この猫ボディなら簡単に出来そうなので、就職先の第1候補である。第2候補は、ポーションの販売だね。さっき人間としてこの国で生活するっていったのに猫ボディ頼みって? それはしょうがない。もうあきらめた。
「お、ほんとか、もしちょっとでもいいなって思ってるんなら、ハンターはお勧めだぜ! 何を隠そう、俺も昔はハンターだったんだよ」
『そうなんですか?』
ちょっと驚いたリアクションはしたけど、絶対そうじゃないかって思ってた。だって、そういう職業でもないと、このごっついボディと怖い顔にはならないと思う。その後、ボヌールさんはマシンガントークのごとくハンターのいいところを教えてくれた。うん、やっぱりハンターって悪くないかも。
「っていうか、さくらって、俺には随分距離のある話し方するよな。アオイ同様気安く話してくれ。あいつと出会ったのも、今朝の話だろ? たった数時間の差で酷くねえか?」
『え、えっと、ごめんなさい』
アオイと気安く話をしているのは、ただ単に私が猫好きで、何となく日本で猫に話しかけてるときと同じような口調で話しちゃったからだ。アオイも気にしなかったし、私も全然気にならなかった。でもボヌールさんは熊の獣人とはいっても、熊耳以外は人間とそんな変わりないし、絶対年上だ。それにその怖い顔とごつすぎボディは、正直まだちょっと怖い。
「はあ、まあ、強要するもんでもないしな。じょじょに慣れてってくれたらいいか。ただ、これだけは言っとくぜ。俺は強面だし、ハンターとしても結構強いほうだったんだが、アオイのやつにも、ここの受付してるガーベラの嬢ちゃんにも勝てないからな」
『そうなんですか!?』
「そう考えると、ちょっと可愛くみえるだろ?」
『はい、そうですね』
この強面さんよりも、あんなに可愛いアオイやガーベラさんのほうが強いの? 信じられない。でも、実際の強さは関係なく、アオイは可愛い猫で、ボヌールさんは強面のおじさんなんだよね。そっちのほうが重要な問題だ。それに、二人より弱いかは重要じゃない、重要なのは、絶対に私よりも強いだろうってことだし。
そんな風にボヌールさんと話していると、ステーキがふよふよと飛んでくる。これは、ガーベラさんのサイコキネシスかな。でも、この方法なら配膳も簡単だ。
「お、さくらもステーキか、やっぱ肉が一番だよな!」
『はい!』
日本人のときはそこまで肉肉してなかったんだけど、この猫ボディは肉ばっかり食べたくなる。
その後もボヌールさんといろいろと話ながら食事をする。
『ボヌールさん。こちらの建物は、ガーベラさん以外の職員はいないのでしょうか?』
「ん? 職員か? 一応ギルドのマスターがいるぞ。今は王都に行ってていないけどな。それ以外だと、料理人がいるくらいだな」
『少ないんですね』
「ん~、そいつはやっぱ、ここが他国の支部に過ぎないからじゃねえか? 所属しているハンターも、猫が何人だったかな、全部で20人前後しかいないし。まあ、忙しい時は書類仕事なんかを俺や料理人やってるやつも手伝っちゃいるが、ぶっちゃけ、忙しい時なんざ年に何度もこないしな」
『そうなんですね』
なんとなくガーベラさんのワンオペが気になったんだけど、ここのギルドって、所属ハンターもそんなに少なかったんだ。
「さってと、それじゃあ。俺は行くかな。そうださくら、お前寝るとこなかったら、ガーベラに言ってここの2階の空き部屋借りな」
『空き部屋、ですか?』
「ああ、ハンターギルドにはハンターのための宿泊施設があるんだが、ここは人数も少ないし、いっつもガラガラなんだよ。アオイ達猫どもは、思い思いの場所で寝てるしな」
『わかりました』
「おう、じゃな」
『はい、いろいろとありがとうございました』
その後、食事を終えた私は、ガーベラさんに一泊したいって言ったら、空いてるから適当に使っていいよって言われたので、遠慮なく泊まらせてもらった。
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