第11話 常識猫、ガーベラさんに負ける

 常識のわかる猫になってから1日、妖精の国ハンターギルドで目を覚ました私は、とりあえず朝ごはんを食べようと部屋を出て1階に降りる。1階では、猫達があっちこっちでごろごろしていた。


 昨日ボヌールさんが言ってた、宿泊施設はがらがらで、アオイ達猫どもは、思い思いの場所で寝てるしな。っていうのは、こういうことだったのかもしれない。確かに、ギルド内の好きな場所で寝てるんなら、わざわざ宿泊施設なんて使わないよね。


 そんなにゃんこ達をまったり眺めていると、その内に次々に起きだして、食堂のスペースの一角で干し肉を取ると、どんどん外へと向かって行く。みんな朝の狩りにでも出かけたのかな?


 それより、干し肉が気になるね。


『あなた、新入りさんね』

『うん』


 私に話しかけてきたのは、ペルシャだ。ペルシャさんだ。もっふもふの赤系の毛皮の、もっふもっふなペルシャだ! 鼻の形からして、トラディショナル系みたいだ。流石は長毛種だね。私のキジトラボディも毛がもふもふしてるけど、本格的な長毛種のそれにはかなわない。


『あそこに置いてある干し肉は好きに食べていいわ。ここの料理人が、いつも用意してくれている朝食なのよ』

『ありがとう。早速もらってくるね!』

『どういたしまして』


 私は干し肉を取りに行く。私の猫ボディなら全部食べれそうだけど、常識猫な私はそんなことはしない。1個サイコキネシスでもらって、適当なテーブルでもぐもぐと食べる。


 あ、そういえば、ペルシャさんの名前聞いてないや。そう思いあたりを見回すけど、ペルシャさんはもういなかった。


 むう、干し肉にちょっと気を取られ過ぎたね。でも、この干し肉、門番さんの干し肉といい勝負出来そうなくらい美味しい。昨日のステーキもそうだったけど、ここの料理人の腕は結構すごいみたいだね。


 食休めもかねて、少し待ったりしているとガーベラさんがやってきた。よし、ガーベラさんにお願いして、ハンターとして登録してもらおう。


『ガーベラさん。ハンターの登録をしたいのですが』

「あら、さくらさんおはようございます。もちろん大歓迎よ。じゃあ、この2枚の認識票に魔力を流してね」

『はい』


 私はいまや常識猫なので、ハンターギルドのことに関してもバッチリだ。私の知識と齟齬がないか確認するためにも、説明はしっかり聞くけどね。


「ではまず、ハンターギルドに関して説明するわね。私達妖精の国のハンターギルドは、その名の通り、モンスターを倒してお金を得るハンター達のために作られた組織になるの。入口に妖精の国ハンターギルドフージ王国イーヅルー支部と書かれているように、私達の所属はあくまでも妖精の国になるからね」

『はい』

「ハンターギルドに所属するメリットは、討伐報酬を受け取れるようになることと、依頼の報酬を受け取れるようになることね。例えば、昨日さくらさんが持ち込んでくれた角ウサギだと、ギルドに所属していてもメリットがないの。なぜなら、角ウサギは草食で臆病なモンスターだから、国にとって害がないのよ。だから、討伐報酬が出ることもないの。討伐報酬は、国が、国にとって害になるモンスターを指定し、そして出すものだからね。だから、昨日の角ウサギは、角ウサギの素材の市場価値だけの値段になっているわ。それと、依頼になるんだけど、ときどき商人や職人が、特定のモンスターの素材が欲しいって言ってくることがあるの。そういう場合は、市場価格にプラスして、依頼料をもらえるわ。ここまで大丈夫?」

『はい』


 いきなり聞いていたら、頭の中にあんまり入ってこなかったかもしれないけど、昨日図書室で予習していたこともあって、大丈夫だった。


「次に、ハンターのランクの説明になるわね。実は妖精の国のランク制度と、ここフージ王国のランク制度はちょっと違うんだけど、あくまでも妖精の国基準で説明するわね。まず、大前提として、モンスターにはその強さに合わせて☆の数がつけられているの。単純に☆が少ないモンスターは弱くて、☆の多いモンスターは強いと思ってね。☆1個は大人なら誰でも倒せるくらい弱いんだけど、☆が4個にもなると、戦闘職の人じゃないと倒せなくなってくるの。それで、ハンターランクも同じように☆の数で示されているのよ。☆1のモンスターを安定して倒せるってハンターギルドが認めたら、☆1ハンターっていう感じね。まずは、☆4を目的にがんばってね、そのくらいの☆を持ってると、一人前ハンターの証になるからね。でもさくらさん、いきなり☆の多いモンスターに挑んじゃダメよ。まずは弱い敵から無理をしないで倒していくことが大事よ。初めて戦う相手には、アオイさんとか、他の子達にも一緒に行ってもらうといいわ。それで一人で倒せるようなら、次回以降一人で行けばいいんだからね」

『はい!』

「このギルドの設備は誰でも使っていいし、説明はこのくらいかしら? でも、嬉しいわ。このギルド支部初の新人さんの誕生に立ち会えるなんて」

『えっと、どういうことですか?』

「いまこのギルドに所属しているハンター達って、みんなこの国に来る前からハンターだった子達ばかりなの。大体☆4~☆6くらいね」


 あ、私これ、やらかしたのかも知れない。そうだよね、常識ある普通の猫なら、よその土地でハンター登録なんてしないよね。これならポーション作れるから薬師として来たって言えばよかったのかな? ううん、それもダメな気がする。常識がないことになにも変わりない。


「そういえばさくらさん。魔法のカバンは持っていないのかしら?」


 魔法のカバン? 何そのファンタジーワード。ううう、ダメだ。たった1日の図書室知識じゃ、常識は身についていないみたいだ。ガーベラさんの常識攻撃の前に、もう私のhpは残っていない。ここは素直にギブアップしよう。


『魔法のカバン、ですか?』

「ええ、こういうものよ」


 そういってガーベラさんは、まるで地球にあったブランド物のような、小さくてかわいいカバンを取り出す。


『かわいい!』

「ありがとう。私のお気に入りなの。それでね、この中がほら、こんな風に空間魔法で広がっているの。いっぱい物を入れられるのよ」


 なにこれ、小さくておしゃれなカバンって、物が全然入らなくて不便って思っていたのに。こんな、身長30cmくらいの妖精のガーベラさんが持っても小さ目なバッグに、こんなにものが入るなんて、魔法のカバンってすごい!


『すごいです。可愛いだけじゃなくて、凄く機能的なんですね!』

「ありがとう。中に入っている物の重さまでは変わらないんだけど、体積を小さくできるだけで、凄くおしゃれだし、便利だと思わない?」

『思います!』

「そんな素直なさくらさんには、はい。これを貸してあげるわ」


 そう言ってガーベラさんが渡してくれたのは、私でも首にかけて使えそうな小さなバッグだった。


『あの、良いんですか?』

「ええ、ギルドの備品なんだけど、だれも使う人はいないし、よかったら使ってほしいわ」

『ありがとうございます』

「ふふふ、どういたしまして」

『あと、あのお部屋をもう数日借りたいのですが、いいですか?』

「ええ、構わないわ。図書室も好きに使ってね」

『はい、ありがとうございます』


 これは、図書室で常識を身につけようとしていたこともバレてるのかな。うん、バレてるよね。私はもう常識を身につけることにとらわれずに、好奇心の赴くままにギルドの図書室の本を読みふける。もともと読書好きだったこともあり、あっという間に数日が過ぎた。


『ふう~、猫としての常識は全然ダメだったけど、これだけ本を読めば、人間としてならきっと常識人になれるわね』



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