第74話 オリジナル対レプリカ
「アルバート君大丈夫?」
試合を終えた私とシャーリーさんはアルバート君のところに戻る。いつもなら3人総当たりで戦うから、この後はアルバート君対シャーリーさんなんだけど、今日は無理かな?
「ああ、だいぶ落ち着いてきた。これなら普通に動けそうだ。シャーリーさん、勝負しようぜ」
「大丈夫なのですか? 無理はしない方がよろしいかと」
「大丈夫だ。不思議とさくらからもらったジュースを飲んだら、良くなったんだ。自分でもびっくりだがな。ところでこれ、何のジュースなんだ? 飲んだことあるような気もするけど、いまいちよくわからん」
おお~、流石中ランクのポーションだね。アルバート君の痛みもあっさり引いてくれたみたいだ。
「森に生えている木になってる、青い果物の果汁を使ったジュース、というかポーションだよ」
「森の青い果実のポーションって、はあ!? ポーションだと?」
「別に高価なものじゃないから気にしなくていいよ。中ランクのポーションだしね」
「中ランクのポーション!? まじかよ、美味いと思って結構たくさん飲んじまった。でも、俺の家そんな金持ちじゃねえよ」
そんなビックリしなくてもいいのにね。ただ青い果実を潰して水と混ぜただけの、お手軽ポーションなんだから。それに、お金を取る気はさらさらない。
「あ~、アルバート君、さくらさん本人が気にしないでいいって言ってるんだから気にするな。さくらさんも金を請求する気なんてないんだろ?」
「無いですよ。アルバート君だって友達にちょっと飲み物を分けてあげたからって、お金の請求なんてしないでしょ? そもそも私が飲んでって渡したんだし」
「それもそうか。サンキューな、助かったぜ」
「いえいえ」
「というわけで、シャーリーさん、ポーションのおかげですっかり良くなったからな。やろうぜ」
「ええ、わかりました」
アルバート君はすっかり元気になったみたいだね。シャーリーさんと楽しそうに戦い始めた。でも、私のポーションをもってしても、精神的なダメージは治らないみたいで、アルバート君、すごく腰が引けてる。二人の勝負も、シャーリーさんの圧勝に終わった。
「くそ、わかっちゃいたんだが、必要以上に急所を意識しちまった」
「仕方ないですよ。あんなことがあった直後なんですもの」
戦い終わった二人は、そう言いながら私のほうを見てくる。ええ~、それは私のせいじゃないってことで話が終わったはずなのに~。
「よし、どこも先生との模擬戦は終わったみたいだな。それじゃあ、今から自由戦闘時間にするぞ」
「「「はい」」」
私達のところは生徒3人と圧倒的に数が少ないから、先生との模擬戦の後にすぐ生徒同士の模擬戦をやっていたんだけど。他のところは生徒数が多いからね、先生との模擬戦が終わるのにもそこそこ時間が掛かるんだよね。でも、それも終わったみたいだ。
私はロイスちゃん、ティリーちゃんと合流する。
「ロイスちゃん、ティリーちゃん、勝負しよ~」
「うん、いいよ~」
「あたしもいいよ!」
でも、ここでふとロイスちゃんの持っている剣に目がいった。あれ? ロイスちゃんの持ってる木剣って、レプリカハロルドスレイヤー2号じゃないかな?
「あれ? ロイスちゃん、その剣って」
「この木剣は先生に借りたの。今日の授業から導入することにした不思議な剣で、自動で戦いながら戦い方を教えてくれる剣なんだよ!」
えええ!? 対先生相手の模擬戦でレプリカハロルドスレイヤー2号を使うのはいいと思うの。でも、生徒同士の戦いでそれを使うの!?
「でも、授業の開始時は、普通の木剣持ってたよね?」
「先生がね、私は速さとパワーはあるけど、技術がないからこの剣をたくさん使って技術を身につけなさいっていうの」
「そ、そうなんだ」
う~ん、それを言われるとしょうがないのかな? ロイスちゃんはお兄ちゃんであるジョン君を筆頭に、超過保護な周囲の人のせいで剣の練習とかさせてもらえなかったみたいなんだよね。だから、ここにいる生徒の中でも珍しく、武器の扱いは私同様に素人なんだよね。
そんな素人の子供相手にお前は魔剣を使うのかって? だってしょうがないじゃない。ロイスちゃんは可愛い見た目とは裏腹に、先生に認められる高い身体能力の持ち主なんだよ。それに対して私は、森を数分歩いただけで足を捻挫するという程度の身体能力しかないんだもん。前回も、盾でどかってやられただけで数m吹き飛んじゃったし。
「でも、やっぱりちょっとずるいよね。先生との模擬戦はともかく、二人との勝負は普通の木剣を使おうかな?」
ほっ。
「さくらちゃんとの勝負はともかく、あたしとの勝負はその剣を使って」
「いいの?」
「うん! あたしは先生の意見に賛成なの。ロイスちゃんの身体能力の高さや、いろいろなことに対するセンスの良さはあたしが一番よく知ってるもん。もし、あたしと同じくらい小さい頃から剣をやってて、剣の技術があったらなって思ってたの」
「わかった。じゃあ、遠慮なく使うね」
「うん! そう言えば、さくらちゃんは使わないの? 前回の戦いを見る限り、さくらちゃんも使ったほうがいいと思うんだけど」
「えっと、私の木剣も同じ機能がついてるの」
「そうなんだ! それは楽しみだね!」
ううう、まぶしい、まぶしすぎる! 二人を直視できない。私なんてロイスちゃんがレプリカハロルドスレイヤー2号を使うのを止めようかなって言った時、ほっとしてたっていうのに。
でも、これで対ロイスちゃんに関しては、条件は五分と五分。真剣勝負だ!
「ロイスちゃん、同じ自動で戦う剣を持つ者同士、まずは私と勝負よ!」
「うん!」
私はハロルドスレイヤーを、ロイスちゃんはレプリカハロルドスレイヤー2号を右手に、木の盾を左手に構える。先生達も興味があったのか、ハロルド先生と剣の先生が私達の方を見ている。
ねえ、ハロルドスレイヤー。私とハロルドスレイヤーのコンビなら、ロイスちゃんとレプリカハロルドスレイヤー2号にも勝てるよね?
・・・・・・。
あ、あれ? ハロルドスレイヤー? ちょっと返事してよ!
「ロイスちゃん、さくらちゃん、二人とも準備はいい?」
「はい!」
審判役はティリーちゃんがやってくれる。でも待って、ハロルドスレイヤーが、ハロルドスレイヤーが!
「さくらちゃん?」
「あ、うん、いつでもいいよ」
全然よくないけど、女は度胸だ。やってやる!
「じゃあ、はじめ!」
毎度おなじみ、先手必勝戦法!
私はティリーちゃんの開始の合図とロイスちゃんに襲い掛かる。走りながら振り下ろし攻撃が出来るように、剣を上に構える。このスピード、なんだかんだハロルドスレイヤーも絶好調だね!
でも、ロイスちゃんも私と同じように突進してたみたいだ。私が構え終えた時、ロイスちゃんは既に横なぎの攻撃を放っていた。私の体は、ハロルドスレイヤーの手によって急ブレーキがかけられ、同時に思いっきりお腹を凹まさせられる。
すると、お腹の防具ぎりぎりのところをロイスちゃんの剣が通過していく。
あっぶな! もうちょっとでお腹を切られてた。でも、これはチャンスだ! 剣を避けれたことで、ロイスちゃんの体勢が悪い! もらった~!
私はその隙を逃さないように剣を思いっきり振り下ろしたけど、ロイスちゃんは突進の勢いそのままに、盾を前に突進してきた。
「あだう!」
私も無理な避け方のせいで体勢が悪かったのか、私が切りつける前に、ロイスちゃんの盾を前面に出した体当たりに、思いっきり吹っ飛ばされる。でも、ハロルドスレイヤーの手によって、剣の達人のような身体能力を得た私の体はこの程度でこけたりしない! 吹き飛ばされながらもくるりと回転して、まるで猫のように華麗に着地する。
ふっふっふ、見たかこの猫ボディばりの身体能力! この程度の攻撃でやられる私とハロルドスレイヤーじゃないよ!
そう思ったんだけど、顔を上げた私の目の前には、すでにロイスちゃんのレプリカハロルドスレイヤー2号があった。
ごん!
「いった~い!」
「そこまで! だ、大丈夫? さくらちゃん!?」
痛い、超痛い! 兜被ってたはずなのになんで? 絶対おでこ割れてる!
「ご、ごめんねさくらちゃん。先生みたいにちょっとこつんって当てるだけのつもりだったの」
ティリーちゃんとロイスちゃんが心配してくれてるけど、私は痛すぎてそれどころじゃない。そ、そうだ、水筒。ポーション!
私がそう思っていると、ハロルド先生が現れる。
「どれ、でこ見せてみろ」
「ううううう~」
ハロルド先生は私の兜をするんって取ると、おでこを見てくれる。
「あ~、こりゃあ立派なこぶが出来るな。でもほれ、お前さんの水筒だ。これ飲めば平気だろ」
私はくぴくぴと水筒のポーションを飲む。はうう、徐々に痛みが引いてきた気がする。
「全く、誰に似たのかねえ、お前さんのその木剣は良い性格してるよな。オリジナルは手加減しようとしてアルバート君の急所を潰しかけて、レプリカは、兜にこつんと当てる予定だったのが、兜の上からこぶが出来る程度にぶっ叩くなんてよ」
うう、ううう~、ハロルドスレイヤー~。
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