第73話 骨折のほうがいい?

 私の蹴りのせいで、アルバート君はすんごい顔になる。そしてそのまま、前のめりに地面に倒れた。


「アルバート! 大丈夫か!?」


 ハロルド先生が大急ぎでアルバート君に駆け寄る。


「は、はふ、せ、んせい。おれの、おれの」

「わかってる、落ち着け。おい女子二人、こっち見るな、後ろ向け!」


 私とシャーリーさんはハロルド先生に言われるがままに後ろを向く。もしかして、アルバート君の怪我の状態を確認するのかな? 私とシャーリーさんは言われるままに後ろを向く。


 そうだ、今のうちに水筒のポーションを飲んじゃおっと。私がハロルドスレイヤーを使うと、私の体がパワー不足のせいなのか、全身に筋肉痛みたいな症状が出るんだよね。私はくぴくぴと水筒に入れた中ランクのポーションを飲む。


「さくらさん、なかなか残酷な攻撃をしますのね」

「あ、あれはハロルドスレイヤーが勝手に」

「その剣のことですわよね?」

「うん」

「どんな能力ですの?」

「私が作った、勝手に戦ってくれる魔剣なの」

「なるほど、それで以前よりも劇的に動きがよくなったのですね」

「うん。ハロルドスレイヤーには、アルバート君の腕を骨折させないでってお願いしてたのに、まさかあんな攻撃に出るなんて、ちょっと想像してなかったの」

「あの急所攻撃のほうが、腕の骨を折られるよりは軽傷かもしれませんが、アルバート君にとっては、どちらの攻撃を受ける方が幸せだったのか、分かりませんね」

「うん、反省してます」


 私とシャーリーさんが話をしている間に、ハロルド先生によるアルバート君の怪我の確認が終わったみたいだ。


「アルバート君、大丈夫だ。ちょっと痛いだろうが、治療が必要なほどじゃなかった。だが、まだ痛むだろう? 保健室に行くか?」

「いえ、貴重な実戦の授業ですので、せめて見学したいです」

「わかった。だが、異変があったらすぐに言えよ」

「はい、先生ありがとうございます」

「おい、女子ども、こっち向いてもいいぞ」


 ふ~、よかったよかった。アルバート君も無事、ではないみたいだけど、怪我はしないで済んだみたいだね。でも、ハロルド先生は怖い顔をして私のほうに来る。


「おいさくら、いいかよく聞け。確かに今回は、自身の身体強化魔法を過信して、急所を守る防具を付けてなかったアルバート君の自業自得だ。それに、こういう勝負で急所を狙うことも別に悪いことじゃない。だがな、あんな攻撃ばっかしてたら、男子に嫌われるぞ」

「はい」

「それと、今回はつぶれてなかったから良かったが、もし潰れてた場合、骨折よりもひどいことになっていたってことだけは忘れるなよ。骨折はよっぽど酷い折れ方をしない限り中ランクのポーションで治るが、肉体の一部が破損した場合、高ランクのポーションが必要になるからな」

「はい」

「まあ、お前さんならどっちのポーションも自力で作れるか」


 アルバート君はちょっとよろよろしながらも私達のもとにやって来て座る。呼吸がまだなんかおかしいし、相当なダメージだったみたいだ。あ、そうだ、私のこの筋肉痛対策のポーション、アルバート君にも効くかな?


「アルバート君、ごめんね」

「いや、いい。ハロルド先生の言う通り、防げなかった俺が悪いんだ」

「それと、良かったらこれ飲む? もしかすると痛みも引くかもしれないの」

「ん? ジュースか? そうだな、悪いがちょっともらうぜ」


 アルバート君は、ちまちまと私の水筒からポーションを飲みだす。これで一安心かな?


「はあ、骨折のほうが厄介ではあるが、骨折のほうがマシだったな」

「アルバート君何か言った?」

「いや、独り言だ」


 そうなんだ。独り言を追求するのもやぼだよね。 


「んじゃ、気を取り直して次、シャーリーさんとさくらさんの試合だな」

「「はい」」


 私とシャーリーさんは先生の前で向かい合う。前回はシャーリーさんのムチにあっさり剣を取られて負けたけど、今日は負けない!


「準備はいいか?」

「「はい!」」

「はじめ!」


 先手必勝! 私はハロルドスレイヤーを構えてシャーリーさんに襲い掛かる。


 先手必勝先手必勝って、そればっかじゃんって? だってしょうがないじゃん。それ以外の戦法を知らないんだもん。猫ボディによるイージーにゃんこライフな狩りの時も、飛び掛かって、てい! ってやるだけだしね。


 シャーリーさん目掛けてダッシュした私だったけど、シャーリーさんはその長いムチをしならせて私を迎撃してくる。前回は全く見えなかったけど、ハロルドスレイヤーをもった今の私には、その高速で動くムチの先端もバッチリ見える。


「そこ!」


 ばしい~ん!


 私はシャーリーさんのムチの先端を的確にとらえてハロルドスレイヤーで打ち返す。


「くっ」


 シャーリーさんはまさかムチを迎撃されるとは思っていなかったのか、悔しそうな声を出す。けど、声や表情とは裏腹に、戦い方は冷静そのものだ。素早く距離を取りつつ2発目、3発目のムチを振るってくる。


 私はそのすべての攻撃を打ち返しながら接近して、シャーリーさんの眼前にハロルドスレイヤーを突き出す。


「参りました」


 やった! 勝利だ! しかもすごくスムーズな勝利だ! これで2勝! あとはロイスちゃんとティリーちゃんを倒すのみだね!



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