第72話 弱点
「よし、それじゃあまずは、誰と誰がやる?」
ハロルド先生との模擬戦を終え、生徒同士で戦う時間になる。
「はい、ハロルド先生。俺とさくらに勝負させてくれ!」
「おう、いいぞ」
「ふっふ~ん、アルバート君、以前の私と一緒と思ったら、痛い目見るからね!」
「へ、おもしれえ!」
とりあえずロイスちゃんとティリーちゃんがレプリカハロルドスレイヤー2号達を使っていたことは忘れよう。いつかは追いつかれるかもしれないけど、きっと今はまだ私とハロルドスレイヤーのコンビのほうが強いはずだ。
私は気を取り直して立ち会がる。そして、アルバート君と向かい合う。前々回の授業では、なすすべなくお腹に一撃入れられて負けたけど、今日はハロルドスレイヤーの真の実力を見せてやる!
「2人とも、準備はいいか?」
「おう!」
「はい!」
「では、はじめ!」
先手必勝!
私はハロルド先生の開始の合図と同時に前に出る。アルバート君の武器は素手。普通ならいくら木剣とはいえ、武器を持っているこっちが圧倒的に有利だ。でも、この世界には肉体を強化する魔法があるからね、素手だからって油断は出来ない。実際、前回はあっさり負けちゃったしね。
私はハロルドスレイヤーでアルバート君を、切る! 切る! 切る! アルバート君はハロルドスレイヤーを受けるのはまずいと思ったのか、後ろにぴょんぴょんと飛んで避ける。
でも、前に進みながらハロルドスレイヤーをぶんぶん振り回している私と、後ろにぴょんぴょん避けているアルバート君じゃあ、私のほうが速い!
「取った~!」
私はここ一番の加速で一気に接近してハロルドスレイヤーを頭目掛けて振り下ろす。
「ちい!」
アルバート君は避けきれないと判断したのか、ハロルドスレイヤーを受け止めるように、両手を頭上でクロスする。
ごきゅ!
え、どうしよう!? アルバート君の腕を木剣で思いっきり叩いちゃった。しかも何今の音、凄い音なったんだけど。
「あ、アルバート君!?」
私は心配になってアルバート君に声を掛ける。
「なんださくら? てめえのその面は」
顔? 私変な顔してたかな?
「訓練とはいえ、対戦相手の心配とか、ずいぶんと舐められたものだな!」
「そりゃ心配するよ。だって凄い音なったし」
「この程度で俺の腕を折れたとか思ってんのか? まじでなめてんじゃねえ!」
アルバート君はクロスしていた腕を広げ、ハロルドスレイヤーを弾き飛ばす。
「いいかさくら? 俺はてめえの顔面にこの拳を思いっきり叩きこむつもりでやってんだ。てめえも俺の頭かち割るつもりで打ってこいや!」
「う、うん」
「うおらあ!」
今度はアルバート君が猛攻を仕掛けてくる。アルバート君はさっきまでとか違って、ハロルドスレイヤーの攻撃を避けるのは止めて、ガードしながら攻めてくる。
うう、私が後ろ向きな思考をしちゃってるせいかな? ハロルドスレイヤーが押されはじめちゃった。どうしよう?
私がちょっとあわあわしていると、不思議とハロルド先生とシャーリーさんの会話が聞こえてくる。
「ハロルド先生、これはどういう事なんですか? 先ほどまではさくらさんが優勢でしたよね?」
「そいつはメンタル的な問題だ」
「メンタル、ですか?」
「ああ。薄々は気付いてたんだが、さくらさんはどうも他人を傷つけることが苦手なタイプみたいでな」
「ですが、前回の授業ではハロルド先生を倒してましたよね?」
「まあな。ただ、負けたとはいっても、俺は頭を軽く叩かれただけで、ダメージはほとんどなかったんだ。たぶんさくらさんの中では、模擬戦ってのはせいぜい頭をぽかっと叩くか叩かれるか程度のものって思いがあったんじゃないか? 前々回の授業の時のようにな。でも、さっきのさくらさんの攻撃は、アルバート君の身体強化魔法があとちょっとでも緩かったら、腕を軽くへし折ってた一撃だ。もしアルバート君の腕の骨を折っちゃってたらって思って、怖くて攻撃が上手くできんのだろ。どうもあの剣は、いくら自動で戦うとはいっても、使い手の意思を尊重する傾向にあるっぽいしな」
「そうだったんですね。ですが、それはこの授業に出るにあたって、結構致命的な弱点のような気がしますが」
「その通りだ。普通はお前さんやここにいる他の連中みたいに、小さい頃から訓練で相手を叩くことは当たり前っていう教育を受けるし、多くの奴は簡単に治せる程度の怪我を相手に負わせても、メンタル的に問題が出ることはない。だが、時々いるんだよ、相手を傷つけられないって奴が。さくらさんの場合、本業は薬師だからな。もしかするとこういった行為とは無縁の教育を受けてきた可能性もある」
「そうなんですね」
うう~ん、なるほど、そう言う事か~。私だって小さい頃にはケンカくらいしたことあったけど、誰かに大怪我させるなんて、そんなのメンタル的に無理だよ、出来ない。猫ボディになればイージーにゃんこライフなメンタルになるっぽいから、狩りも平気だし、きっとアルバート君に怪我させるくらい平気で出来る気もするんだけど、それはちょっとね。
でも、だからといってハロルドスレイヤーを持って負けるわけにはいかないし。ここは、なんとか大怪我させないようにアルバート君を無力化出来ないかな?
ハロルドスレイヤー、そう言う事って出来る? 任せとけ? こっちもあいつの弱点を突く? わかった、お願いね。ハロルドスレイヤー!
私はハロルドスレイヤーに全てを任せる。すると、ハロルドスレイヤーは迫りくるアルバート君に、強力な一撃をお見舞いする。
「うおっと!」
あっぶな~い、アルバート君が避けてくれたから良かったけど、当たってたら確実に大怪我だよ!? 今のは、避けれるようにあえて大振りの攻撃を見せただけ? ならいいのかな?
私とハロルドスレイヤーは、間髪入れずにアルバート君に振り下ろしの攻撃を仕掛ける。アルバート君は、咄嗟に避けた後で体制が不十分だ。この攻撃は避けれないと判断したのか、さっきと同じように、再び腕を頭上でクロスさせる。さっきと同じかな? ううん、アルバート君の腕の魔力がさっきよりもだいぶ弱い。このままだと、腕の骨を折っちゃう!
ダメだよ、ハロルドスレイヤー!
そう思った瞬間、ハロルドスレイヤーは私達が纏っている魔力を弱めた。もしかして、アルバート君が怪我しないレベルにまで、私達の魔力を抑えたの?
ごかっ!
ハロルドスレイヤーはアルバート君の腕に当たったけど、さっきよりも音が小さい。
アルバート君はハロルドスレイヤーが手を抜いたのがわかったのか、こちらを睨みつける。でも、ハロルドスレイヤーの攻撃はまだ終わっていない。私は、私の足が前に出たことで、ハロルドスレイヤーの狙いがわかった。
ええ!? ハロルドスレイヤー、確かにアルバート君の弱点かもしれないけど、その攻撃は腕を折るよりきっとダメだよ。男の子にそんな攻撃しちゃ、絶対ダメ! しかもこの足の勢い、いろいろと不味いよ!
アルバート君は腕の骨こそ折れなかったみたいだけど、足をがっつり広げて、頭の上で腕をクロスさせてハロルドスレイヤーの振り下ろしを防御してたから、私の足の攻撃に気付いても、防ぎようがないみたいだ。
あ~、ダメ。いくらなんでもこの攻撃はひどすぎる。でも、もう私の足は止まらない。
ごっ!
ひええええ! 音自体は今の戦闘の中で一番小さい音だったけど、けっこうな勢いの蹴りが、アルバート君の大事なところに命中しちゃったよ。
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