第115話 ジェームズさん達との模擬戦
私とジェームズさん達はハンターギルドの訓練場の片隅で向かい合う。もちろん私は一人で、ジェームズさん達は5人だ。
ジェームズさん達の陣形は、大きな盾を持つアレックさんを先頭に、その左右に剣を使うジェームズさんと槍を使うジャックさんが構えて、その後方に弓使いのジョーさんと、ヒーラーのロビーさんがいる形だ。
普通に戦おうとしたら、アレックさんに攻撃を防がれている間に、左右からジェームズさんとジャックさんにやられるっていう感じかな?
でも、もちろん私はそんな風にやられるつもりはこれっぽっちもないけどね!
「お互いに準備はいいかしら?」
私とジェームズさん達が戦うということで、必然的にゼニアさんが審判になってくれる。
「はい!」
私の準備は完璧だ。ハロルドスレイヤーはすでに両手で構えているし、手の中にはどんぐりサイズの毒煙玉を1個隠し持っている。なので、いつでも指弾で毒煙玉の発射が可能だ。
さらに、上着のローブのポケットにも毒煙玉を仕込んであるし、いざという時用のポーションだって、簡単に取り出せる位置に装備している。
「もちろんだ。っといいたいところだが、強化系の魔法は戦闘前にかけていいのか?」
「もちろん構わないわ。奇襲を受けたのでもない限り、強化魔法は戦闘前にかけるのが常識ですもの」
「わかった。ロビー、フィジカルアップを頼む、それから、エアカーテンもな」
「わかりました。それでは、フィジカルアップ! エアカーテン!」
ロビーさんの使った魔法は学校で習ったから私も知ってる。フィジカルアップは最も基本的な強化魔法の一つで、身体能力を上げる魔法だ。
ただ、一口に身体能力といっても、筋力、持久力、柔軟性など、身体能力にもいろいろ種類があるんだって。だから、使い手によって、どんな効果があるのかはまちまちなんだそうだ。私が教わった学校の先生のフィジカルアップ魔法の効果は、筋力強化の中でも、腕力に特に効果があるっていう魔法だったんだよね。
先生曰く、自分の体の好きな部分、好きな趣向、そういうのがフィジカルアップ魔法には大切なんだって。ちなみにその先生は、腕の筋肉がムッキムキだった。
私は魔法を使っているロビーさんをじっと見つめる。ロビーさんの見た目は、これぞ魔法使いという風貌なんだよね。背もジェームズさん達の中では一番低いし、体つきも筋肉がありそうには見えない。着ている服がちょっとだぼだぼのローブ系だから、もしかしたら脱いだら凄い系なのかもしれないけど、うう~ん、どうなんだろう? 先生はその人の体を見ればフィジカルアップの種類の予想はつくって言ってたけど、私には難しいみたい。
ロビーさんのフィジカルアップがどんな効果なのかはわかんないけど、フィジカルアップの魔法には欠点があるんだよね。一番基本的な強化魔法で、消費魔力なんかも低いらしいんだけど、そのかわりに効果がそんなに高くないんだって。先生の腕力アップの魔法でも、握力テストの結果が1割上がる程度だったんだよね。それに、効果時間も比較的短いみたいで、魔法をかけた直後から強化魔法の魔力が消費されていくらしくって、先生の腕力アップの場合でも、3分もすると効果が切れちゃった。しかも、3分間1割が持続するんじゃなくて、魔法をかけた直後は1割上昇するけど、魔力の消費と共に徐々に魔法の効果も落ちていくんだって。
だから、極端に警戒しなくても大丈夫かな?
もう一つの魔法、エアカーテンはその名の通り風のカーテンを作る魔法だ。確か、物理的、魔法的な攻撃を防ぐ能力は全くなくて、気流を操って毒の煙なんかを防ぐ魔法だったかな?
ってあれ? 毒の煙を防ぐ魔法って、私の毒煙玉対策? もしかしてこれは、ピンチなのでは!?
私は助けてという視線とともにゼニアさんの方を見る。するとゼニアさんは、気にしなくていい、大丈夫だよ、という雰囲気で首を縦に振ってくれる。
な、なら大丈夫なのかな。よし、どんとこいだ!
「こっちは準備完了だ」
「私はいつでもいいですよ!」
残念ながら私はまだ強化魔法を使えないんだよね。
「では、始め!」
ゼニアさんの合図と共に試合が始まる。
先手必勝!
ゼニアさんの始めの合図と共に私はアレックさん目掛けて走り出す。これはゼニアさんとこっそり話し合った作戦の一つだ。私から積極的に攻めるように見せて、敵の動きを縛るんだって。
すると、いきなり私の体目掛けて矢が飛んでくる。
はう!
私は予期せぬ攻撃にびっくりしちゃったけど、ハロルドスレイヤーは私の体を完璧に操り、奇麗な動作で矢を叩き落とす。危ない危ない、ハロルドスレイヤーがいなかったら今ので負けてたね!
それにしても、いきなり体に矢を撃ってくるなんて! 酷くない!? しかも、ヒーラーがいるしポーションもいっぱいあるからって、当たって良い矢とかじゃないんだよ? 本物の矢なんだよ? せめて一声かけてから撃ってほしいよね。
「ちい、流石はランク4、ジェームズより剣技は上か!」
ジョーさんの矢を叩き落した私は、更にアレックさんに接近しようとする。アレックさんは腰を落として、完全に正面から私と戦う気だ。ジェームズさんとジャックさんも、その横でしっかり構えている。つまり、最初の陣形のままだ。
凄い、ゼニアさんの言う通りになった!
(彼等は元々5人一組で戦うように訓練されているはずよ。だから、なにもしなくてもある程度密集したフォーメーションで戦う可能性が高いわ。でも、今回は対戦相手がさくらさん1人だから、囲んでくる可能性もありえると思うの。そうなると、四方八方に毒煙玉を投げるしかなくなっちゃうけど、それだと毒煙玉にさくらさんも巻き込まれちゃうから、嫌でしょう?)
(絶対に嫌です! この毒煙玉、ものすごく痛いんです)
(そこで、さくらさんから攻める姿勢を見せて、相手の動きを縛るの。恐らくだけど、攻められたらロビーさんを守るために、普段のフォーメーションを取ってくるわ。囲うのはさくらさんの攻撃を一度しのいでからでも遅くないもの)
(なるほど~、防御を意識させて、一撃で倒すんですね!)
(ふふふ、その通りよ)
昨日の秘密の作戦会議の流れそのままだね。
前衛の3人と後衛の2人の間には多少の距離があるけど、これなら2発の毒煙玉で十分に倒せるし、何より私が毒煙玉に巻き込まれなくて済む。
それじゃあ、遠慮なく止めだ~!
私は指弾でどんぐりサイズの毒煙玉をアレックさんの足元に発射する。そしてすぐさまポケットの中の毒煙玉を取り出して、思いっきりジョーさんとロビーさん目掛けて投げつける!
「なにか投げたぞ!」
「毒か・・・・・・?」
「エアカーテンがあります。毒の煙幕は効きません!」
あ、そうだった、エアカーテンの魔法があったんだった。本当に大丈夫なのかな?
私の思いをよそに、2個の毒煙玉はそれぞれアレックさん達前衛の足元と、ロビーさん達後衛の足元に到着する。
そして、爆発した。
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