第65話 真! ハロルドスレイヤーの実力

「よし、お前ら。今日の授業の進め方も先週と同じだ。それぞれ教わりたい武器をもった先生のところにいきな」

「「「「「は~い」」」」」


 ついに1週間ぶりの武器の実習授業が始まった。本来なら私も、ハロルドスレイヤーと一緒に、剣を持った先生のところに行くのが普通なのかもしれないけど、今日はまだハロルド先生のところに残っている。


 なにせ、この真! ハロルドスレイヤーと共に、一度ちゃんとハロルド先生に勝たないといけないからね。大手を振るってこの子のことをハロルドスレイヤーと呼ぶためにも、これは必要な戦いなのです。


「俺のところに残ったのは、先週と一緒の3人か、ってかさくらさんは剣にしたんなら、剣のほうに行っても良かったんだぜ?」

「いえ、私は生まれ変わったこの子、真! ハロルドスレイヤーと共にハロルド先生に勝ちに来ました」

「だから~、武器を持って1週間しか経ってない奴に、負けてやるほど俺はお人よしじゃないぜ? 俺より強いって変に勘違いされて、危ないことに首突っ込まれても困るからよお」

「その辺のことはロイスちゃんとかティリーちゃんに聞いてるので承知の上です。私が強くなったと勘違いしないように、先生は全力で戦ってください。その上で先生を倒しますから」


 私と先生は睨み合う。というか、若干呆れてる感じの先生に対して、私が一方的に睨みつける。見よ、この眼力!


「はあ、その口角がぴくぴく動いてる顔で睨んでるつもりか? まあいいさ、剣を持ってるからって剣の先生のとこに行かないといけないわけじゃないからな。今はまだ早いと思ってるが、そのうち他の武器との戦いに慣れてもらうために、自分の獲物と違う先生のとこへ行ってもらう予定だったし、んでどうすんだ? さくらさんが一番手か?」


 今日はハロルド先生が万全の時にやりたいから、1番がいいかもね! よし、二人に譲ってもらおう。


「今日は私から行ってもいいですか?」

「ああ、俺は構わんぜ。先週俺が最初だったし、今日は最後でいいぜ」

「では、私は先週に続き2番手ですね」

「2人ともありがとう!」


 やった! アルバート君もシャーリーさんも優しいね!


「んったく、じゃあ今日も剣で相手してやるよ」

「いえ、今日はこの剣にハロルドスレイヤーという称号を貰いに来ましたので、ハロルド先生の愛用の武器でお願いします」

「俺の愛用の武器でいいのか? はあ、しょうがねえな。相手になってやるよ。その代わり、その木剣壊れても文句言うなよ」

「はい!」


 私はハロルドスレイヤーを布の袋から取り出し、ハロルド先生と対峙する。


「ほう、あの木剣に着色しただけってわけじゃなさそうだな。ずいぶん雰囲気が違う」

「油断すると、一瞬で私が勝ちますよ!」

「そいつは怖い怖い。じゃあ、俺も得意の方法でやらせてもらうぜ?」


 そう言うとハロルド先生は、丸いボールのような物を、ポケットから取り出した。大きさは、野球のボールと同じくらいかな? これが武器なの?


「ま、奇襲する気はねえから言っちまうが、俺は特定の武器の扱いに長けているってわけじゃないんだ。基本的にはなんでも使える。ただ、そんな俺が唯一得意としてるものがあってな、それが投擲術だ」

「つまり、いろいろなものを投げるのが得意ってことですか?」

「そうだ。槍だろうが斧だろうが剣だろうが、投げれれば俺にとっては武器になる。そもそも接近戦用の武器なんてのは、リーチの外からもの投げてりゃあ負けっこないと思わないか?」

「確かに優れた戦法かもしれませんね。ですが、私のハロルドスレイヤーに勝てるとは思わないでください!」

「はっはっは、いいねいいね。んじゃ、かかってこいなんて言わねえぜ? そっちの間合いに入る気はないからな」

「じゃ、俺が合図するぜ! 二人とも準備はいいか?」


 アルバート君、気がきくね!


「はい!」

「おう!」

「はじめ!」


 ハロルドスレイヤー、絶対勝つよ!


 初めの合図と同時に、ハロルド先生が剛速球を投げてくる。でも、不思議と私の目にはその剛速球がはっきりと見える。球のコースは、私の顔の横ギリギリを通るね! きっとこれは先生からの警告とかそういう感じなのかな?


 そして私の脳裏には、ハロルドスレイヤーからの質問? が浮かんでくる。このまま素通りさせるか、あえて打ち落とすのかってことだね。ここは当然、打ち落とす! だって、そのほうがかっこいいもん!


 すると、私の体は勝手に動いて、ハロルド先生の剛速球をいともたやすく叩き落す。


 すごい! かっこいい! これが真! ハロルドスレイヤーの力なんだね! 勝手に戦って勝手に勝利してくれる。しかも、ちょっとはこっちに選択までさせてくれる。まさに理想の魔剣だよね!


「ほう、今の一撃、生徒どころか、正規の軍人でもそれなりに強い奴じゃないと叩き落すなんてことは出来ないはずだったんだがな。まじで先週とは違うみてえだな」

「この子の名前はハロルドスレイヤー。先生に勝つことは、必須なの!」

「へえ、おもしれえ、んじゃ、どんどんギア上げてくぜ!」

「望むところです!」


 ハロルド先生は今度は私の体に当たる位置に投げてくる。狙いは足だね! でも、ハロルドスレイヤーには見え見えだよ!


 今度は回避&前にダッシュで距離を詰めるよ! ハロルドスレイヤー!


 私の体は、いともたやすくハロルド先生の投擲攻撃を避けると、素早い動きで一気にハロルド先生に接近する。


 でも、ハロルド先生も距離を詰められまいと後ろにジャンプする。しかも、何かをばら撒いた? これって、まきびし?


 するとハロルドスレイヤーは、まきびしの撒かれた手前で思いっきり剣を振った。


 ハロルドスレイヤー? こんな遠くからじゃ、当たんないよ!?


 でも、ハロルドスレイヤーは私の心配をよそに剣を振り切り、よくわかんないけど衝撃波みたいなものを飛ばす。衝撃波は地面のまきびしを吹き飛ばしながら進んでいき、ハロルド先生に見事命中する!


 おお~! 凄いぞハロルドスレイヤー、遠距離攻撃まで出来るなんて!


 どど~ん!


 とか思っていたら、ハロルドスレイヤーによって吹き飛ばされたまきびしが爆発した!?


 んなっ! まきびしに見せかけて小さい爆弾とか、ハロルド先生性格悪くない!?


「ち、今のを初見で見破ったうえに、俺に一太刀浴びせるとはな。なかなかやるじゃねえか。だが、まだまだこれからだぜ?」

「望むところです!」


 ハロルド先生はその後も逃げながらいろいろなものを投げてくる。あのポケット、きっと空間拡張がしてあるね。じゃないとこんなにいろいろ投げられる理由がわかんない。


 ハロルド先生は、槍、斧、剣、爆弾、見えにくい半透明な手裏剣みたいなものなどなど、いろいろなものを投げてくるけど、ハロルドスレイヤーの前には効果がない。時に打ち落とし、時に避け、ハロルド先生を追いかける。


 でも、何でだろう。ハロルド先生に追いつける感じがしない。


「ハロルドスレイヤー? このままじゃ追いつけないよ?」


 するとハロルドスレイヤーから、これ以上力を出すのは危険だと言われてる気がした。


「何言ってるの? ハロルドスレイヤー。ハロルド先生に絶対勝つの! いいからもっと力出して!」


 私はハロルドスレイヤーにもっと力を出すようお願いする。するとハロルドスレイヤーは、いやいやながら了承してくれたみたいだ。そして、ハロルドスレイヤーはその新実力を発揮しだす。


 すごい! さっきまでよりもはるかに速い!


 ハロルド先生の投擲攻撃を回避したのと同時の爆発的な加速。この速度には流石にはハロルド先生でも対処出来まい!


「な! 馬鹿な!」


 その驚いた隙、ハロルドスレイヤーは逃したりなんかしないよ!


「取った~!」

「ちいい!」


 がっつ~ん!


 くう、完全に入ったと思ったのに、ハロルド先生の手にいつの間にか持たれていた短剣に防がれちゃった。


 でも、もうハロルドスレイヤーの間合いだよ! ここからが本番だよね! ハロルドスレイヤー!




 私はそう思ったんだけど、ハロルドスレイヤーは私の手には無かった。どうやら私は、ハロルドスレイヤーがガードされたときの衝撃で、ハロルドスレイヤーを手放しちゃってたみたいだ。今はハロルドスレイヤーが、サイコキネシスとかなのかな? よくわからない力でひとりで飛び、ひとりでハロルド先生と戦っている。


 あれ? 私が持ってた時より、はるかに速くて強くない? あ、ハロルド先生の頭に一発入れた! 流石はハロルドスレイヤー、ひとりで勝手にハロルド先生に勝っちゃうなんて、すごいね!


 これは、ハロルドスレイヤーを目いっぱいほめてあげないとだよね!


 でも、ここで私は、私の異変に気付く。あれ? なんで私の視界は真っ赤なの? あと、なんで私は地面に倒れそうになってるの? それから、なんで私の体は動かないの?


 ばた~ん。


「さくら!?」

「「さくらさん!?」」


 あれ? みんなの声が聞こえる? なんだろうこの感じ、あ、そうだ。キジトラさんに会う前に、こんな感じになったことがある気がする。もしかして、またキジトラさんに会えるのかな?


 ぽふん!



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