第32話 籠城戦の準備をしよう。お洋服編
さて、ご飯の件は忘れて、次はお洋服を買いに行こっと。今は猫ボディお手製の、この服1着しか持ってないもんね。1着しかないってことは、このお洋服を洗濯に出したら、キジトラ柄の迷彩服しかないってことだ。流石にキジトラ柄の迷彩服は街だと浮きまくっちゃうし、それ以前にお洋服が合計2着しかないっていうのは、乙女としてちょっとダメだよね。
というわけで、この街で着てても違和感のないごく普通の服を求めて、ゼニアさんおすすめの洋服屋さんに向かう。ちなみに香辛料屋さんは、湖の貴婦人のオーナー、ジュディさんおすすめのお店だったんだ。
ジュディさんおすすめの香辛料屋さんや飲み物屋さんも、ゼニアさんおすすめのお洋服屋さんも、全部中央通り沿いだったので、迷うことなくお洋服屋さんに到着した。
「こんにちは~」
「いらっしゃいませ」
私は意気揚々とゼニアさんおすすめのお洋服屋さんへと足を踏み込んだ! んだけど、こ、これは失敗したかもしれない。店員さんの着ている服も、飾ってある服も、ゼニアさんの服だった。
え~っと、つまりあれです、超高級そうなドレスってことです。流石にゼニアさんが晩御飯の時に来ていたような、妖艶な夜のドレスは見当たらないけど、初めて湖の貴婦人に行ったときに、ゼニアさんがバルコニーで着ていたような、凄くきれいなドレスがいっぱい飾ってある。
「え~っと、失礼しました」
ここは流石に回れ右をしようと思ったんだけど、店員さんに素早く腕を掴まれて阻止されてしまった。
「ゼニア様から聞いております。さくら様ですよね?」
「はい、そうですけど、流石にここにあるようなドレスが似合うと思うほど、うぬぼれていませんので、失礼します!」
「いえ、確かに当店のメイン商品は高級ドレスになりますが、ゼニア様のハンター用のお召し物も当店の商品なのです。ゼニア様からも、さくら様はハンター用の服をお求めと聞いております。せめて商品だけでも見ていってくださいませんか? それに、さくら様のような可愛らしい方向けのドレスもございますよ?」
「いえ、ドレスは結構です! ハンター用の服だけをお願いします!」
そう、私にここにあるようなドレスはまだ早い。私が欲しいのはあくまでも普通の服だ。薬師ファッションをしたいだけなのです!
「かしこまりました。ハンター用の服は3階にございますので、ご案内いたします」
私は店員さんに案内されるがままに階段を登る。すると、2階には晩御飯の時にゼニアさんが着ているみたいな、妖艶な夜のドレスがいっぱい置いてあった。流石ゼニアさんおすすめのお洋服屋さんだ、ちょっと世界が違う。
「気になりますか? ご試着も可能ですよ?」
「いえ、結構です!」
店員さんが朗らかに聞いてくるけど、2階のドレスは1階のドレスよりももっとハードルが高い。こういうのはゼニアさんや店員さんみたいな色気のある人だからこそ似合うんであって、私が着るにはハードルが高すぎる。
私達は2階はスルーしてそのまま3階に上がる。すると、ようやく普通のお洋服が姿を現した。そうそう、これこれ、私が求めていたのは!
私は早速長袖長ズボンのお洋服を見て回る。
この世界、繊維産業のレベルはけっこう高いみたいなの。ゼニアさんに聞いたんだけど、モンスター素材の繊維の中には、絹みたいな肌触りなのに鉄みたいな防御力があるものもあるんだって! 流石剣と魔法の世界だよね。まさにファンタジー繊維って感じだよね! 今私が見ているお洋服も、どれも見た目や手触りは普通の服っぽいのに、全部超頑丈らしい。
すると店員さんが、全身網タイツみたいな凄いのを持ってきた。
「こちらは当店にあるハンター用装備の中でも、特に防御力が高い商品になります」
目は細かいとはいえ、全身網タイツの防御力高いって言われても、いまいちよくわからない。
「え~っと、あみあみですよね?」
「お客様はチェーンメイルをご存知でしょうか?」
チェーンメイル? 漫画やゲームに時々出てくる、じゃらじゃらのやつだっけ?
「あの、じゃらじゃらのやつですか?」
「はい、機能としてはこちらも同じような商品になります。モンスターの素材で出来ているため、鉄のチェーンメイル以上の防御力があります」
「そんなに凄いんですか!?」
「はい、しかも見た目通りすごく軽く、チェーンメイルでは欠点となる音もならないため、ハンターに非常に人気の品になりますよ。欠点としては、肌に直接着る形になりますので、いくら網目が細かいとはいえ、槍や矢といった、尖った攻撃に対しては、多少お肌に傷が出来てしまうということでしょうか」
「それでも、いざという時の肌着としては優秀ですよね?」
「はい、通常の防具や服の下にこちらを着ていると、大怪我の可能性をかなり軽減できるかと思います」
「ゼニアさんも着ているんですか?」
「もちろんです。ゼニア様にも何着かご購入いただきました」
「そうなんですね。では、私もいただきます」
これは良いものだよね! 全身網タイツ人間になっちゃうけど、インナーなら外からは見えないし、何よりこの人間ボディは日本人のそれと全く同じみたいだから、防御力は出来るだけ上げたい。
「ただ、少々申し上げにくいのですが、金額が非常にお高くなっております。こちらの金額になるのですが、大丈夫でしょうか?」
「え?」
な、なにこの金額、ポーションで大儲けしたはずの私のお財布をもってしても、めちゃくちゃ高いと言わざるを得ない金額なんだけど! 買えないことも無いけど、この金額は辛い。お財布に大ダメージすぎる。
うう~ん、どうしよう、う~ん。
うん、よくよく考えたら、そもそも危険なことはしないし。見た目の問題ならアウターだけでいいもんね、流石にこれは中止にしよう。
「すみません、想定よりも丸の数が違いました」
「いえ、こちらの商品は流石に金額が違いますからね」
「ちなみにですが、ゼニアさんのハンター装備のアウターはどの商品になるのですか?」
「ゼニア様はこの装備の上に、別のモンスター素材製の布を巻きつけるだけですね」
「え、そうなんですか!?」
「ゼニア様は機動力と隠密性を重視するスタイルのようでして、着ている物が少しでもだぶつくことが許せないのだそうです。防寒等の目的のためにローブもお買い上げいただいたのですが、そちらは戦闘用の物ではなく、実際戦闘前に脱ぐそうです」
ローブか~、ローブも悪くないね。ローブなら中がキジトラ柄の迷彩服でもいいもんね。よし、ローブも1着買おう!
でも、この全身網タイツの上に布をぴたっと巻きつけるって、それってもしかして、スパイとか忍者みたいな服装ってことなのかな? 機動性と隠密性を重視ってことだし、きっとそうだよね。やっぱりゼニアさんかっこいいな!
でも、私はそこまで危険なことをするつもりはないので、お値段も防御力もそこそこの服でいいよね!
ということで、私はローブを2着と、ハンター用のそこそこのお洋服を7着購入しました。7着の理由なんだけど、お城で頼めるお洗濯サービスが、仕上がりに5~7日くらいはゆとりが欲しいって言われてたんだ。自作の1着と合わせて合計8着なら、毎日お洗濯をお願いしても、着る服がなくならないよね! ってことで、7着になりました!
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