第22話 1匹も仕留めてないけど大活躍?

「予想通り苦戦中か! よし、あいつからやるぞ! うおっらあ!」


 ボヌールさんが烈火のごとき気合と共に、素早くクレイビッグディアーの1匹に襲い掛かる。ボヌールさんの巨体から繰り出された、大きな剣による一撃はクレイビッグディアーの前足に見事に命中する。すると、クレイビッグディアーは泥を巻き散らしながら2、3mずざざざっと後退する。


「おい! 一人そいつを救助して下がれ!」

「わかった、俺がこいつを担いで下がる!」

「さくら、お前回復魔法はいけるか?」

『はい!』

「よし、さくらも一緒にそいつと下がれ! お前は下がった後は回復魔法の使えるさくらを援護しろ! さくらも下がったまま回復魔法で援護だ!」

「わかった!」

『わかりました!』


 私は爽やかさん達のパーティーメンバーの一人と共に後ろに下がる。パーティーメンバーの人は、泥まみれのぐったりした人を担いでいる。ボヌールさん、あの一瞬でピンチだった人を探し出し、そこに瞬時に駆け付けたのかな?


 だとしたら凄すぎるね! 熟練の元ハンターから、運動不足のおじさんへとジョブチェンジしつつあった私の中のボヌールさんのイメージが、再び熟練のすごいハンターへと変化していく。




「よし、これだけ離れれば十分だろう。俺はあんたの護衛をするから、安心して回復魔法に専念してくれ」

「にゃ!」


 この人は念話は通じなさそうなので、取り合えず、猫の鳴き声で返事をしておく。そして、回復魔法でぐったりしてるハンターさんを回復する。


「うあ、俺は」

「まさか、もう治ったのか? お前はクレイビッグディアーに踏み潰されそうになっていたんだ。覚えてないか?」

「いや、クレイビッグディアーに一撃入れられて吹っ飛んだところまでは覚えているんだが、その後は覚えてない。もしかして、助けてくれたのか? すまんな」


 あっさり回復したのには驚いたけど、そういえば私の捻挫も一瞬で治ったことを思い出した。バーナードさんが貴重だって言ってくれた、あのポーションに込められてるのと同じ魔法をかけたから、治ったことは治ったのかな? でも、私の捻挫と違ってぐったりさんはぐったりするレベルの怪我をしていたはずだ。すぐに動いていいのかまではわからない。どうしよう、念話が使えないこの状況下だとこの事実を伝えられない。


「にゃ~にゃ~にゃ~!」


 私は起き上がろうとするぐったりさんをペシペシしながら寝るように促す。


「ん? まだ起き上がって動くにははやいって言うのか?」

「にゃ!」

「安心しろ、流石にまだ完全に体調は治ってないからな、戦闘に戻ろうってわけじゃない。ただ、体を起こして戦場の確認だけはしていたいんだ」


 ん~、そのくらいならいいのかな?


 その後、ぐったりさんの護衛をしつつしばらく戦場を見ていた私達だったが、一人また一人とクレイビッグディアーに吹っ飛ばされていく。


「ちい、こいつはまずいな。おいあんた、最悪このさくらを連れて逃げるくらいのことは出来るか?」

「ああ、もう既に体は完全に治ってるからな。街までこの小さい子を抱えて走るくらいなら何とでもなる」

「じゃ、俺は怪我人を回収に行って来る。くれぐれもさくらに怪我させんなよ? お前が生きててさくらがかすり傷一つ負ってみろ、あとで殺しに行くからな!」

「ああ、俺の恩人なんだ、絶対に守って見せるさ!」


 どこかで聞いたことのあるセリフを言って、爽やかさんのパーティーメンバーさんは怪我人の回収に戦場へと走って行った。


 そして、身近な倒れている人を担いでこちらに戻ってくる。


「さくら、いけるか?」

「にゃ!」

「頼んだ。俺はまた回収に行って来る」


 今度は軍人さんみたいだ。この人もぐったりしてる。私は素早く回復魔法をかける。


「う、ここは」


 ぐったりさん2号もすぐに目を覚ます。この回復魔法、気付け効果でもあるのかな?


「あんたが治してくれたのか?」

「いや、俺じゃない、このさくらって子だ」

「にゃ!」

「そうか、すまん! 恩に着る!」

「まだ動くな。いくら回復魔法で怪我が治ったとは言っても、さっきまですごい怪我だったんだぞ。戦況も悪くないし、焦って戦場に戻る必要はない」

「そうか、すまんな」


 その後も、どんどん怪我人が増えていくけど、クレイビッグディアーの数もどんどん減っていく。次第に街からの援軍も現れて、いつの間にかクレイビッグディアーとの戦いは終わっていた。




 そして、ボヌールさん達が戦場から戻ってくる。みんな泥と血にまみれて酷い格好だ。


「おう、さくら! 大活躍だったみたいだな!」

『大活躍って、私一匹も仕留めてないですよ?』

「あん? 何言ってんだよ、こんだけ回復してれば大活躍だろ?」

『そう言うものですか?』

「そう言うものだっての!」


 う~ん、ここのところの狩り生活のせいなのかな? 自分でぜんぜん獲物を仕留めていないから、物足りない気分になっちゃってたんだよね。けど、ゲームとかだとヒーラーも重要なポジションだもんね。そう言う事にしておこうかな。あ、そうだ、獲物の処理をしないとだ!


『ボヌールさん、獲物の処理をしないとお肉が台無しになります!』

「お、そうだったな。じゃあ、クレイビッグディアーを水洗いして凍らせるか! 俺達が仕留めた分が2匹あるから、それを処理しちまうか。一匹は小僧どもにくれてやるが、構わんだろ?」

『はい!』


 私とボヌールさんはクレイビッグディアーとの戦場跡へと行く。今の戦闘でやっつけたクレイビッグディアーの数は全部で5匹みたいだ。


「ん~、こっちのこれと、そっちのやつだな」

『わかりました!』


 私はサイコキネシスで、ボヌールさん達が仕留めたクレイビッグディアーを2匹持ち上げて、魔法で生み出した水球の中にいれてぐりぐりぐり~と洗う。泥を身にまとっていただけのことはあって、水が簡単に泥まみれになっちゃった。でも、美味しいご飯のために私は諦めない。泥が完全に落ちるまで3回くらい水球でぐりぐりって洗って、氷魔法で冷やして、最後に氷の箱を作ってその中にぽいってしまう。


『これでいいですか?』

「おう、完璧だな! んじゃ、早速ギルドに帰って、解体アンド飯にするか?」

『そうですね! 私も早く食べたいです!』


 私とボヌールさんが帰ってご飯にしようと相談していると、爽やかさん達が話しかけてきた。


「ボヌールさん。俺達、街道の安全確保に来てるので、帰るのはどうかと」

「む? そうだったな。はあ、しょうがねえ、小休止したらもっと奥に行くか。こんだけ立派な氷なら、そう簡単に溶けねえだろうしな」

『はい』

「あとボヌールさん。さくらちゃんの魔法なんですけど、クレイビッグディアーを2匹も持ち上げられるんでしたら、さっきの戦いでも持ち上げてもらってれば、簡単に終わってませんか?」

「あん? 言われてみればそうだな。よしさくら、次からはお前も戦うぞ! サイコキネシスで敵を持ち上げてくれ!」

『はい!』

「あとそうだ。さっきの水球の魔法でよ。俺達のことも洗ってくれよ。ついでに乾かしてもらえると嬉しい」

『はい!』


 私はボヌールさん達を水球でぐりぐりと奇麗にする。その後はみんなを温風で乾かしてから、みんなで小休憩だ!



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