第23話 戦略的ご飯休憩

「さってと、んじゃ、小休止だな。お前らも携帯食料くらいは持ってるよな?」


 ボヌールさんが爽やかさん達にご飯を持っているのか聞く。


「はい、急ぎでしたので大したものは持ってきていませんが、干し肉と硬パンと飲み水くらいはあります」

「ほう、近場だからって最低限の食糧は忘れない。新人の割にはなかなかしっかりしてるじゃねえか!」

「ハンターギルドでも口を酸っぱく言われてますからね」

「じゃ、適当に腰かけて休憩するぞ」

『あ、待ってください』

「ん? どうしたさくら?」


 みんなが地べたにそのまま座ろうとするので、私は地面に魔力を流して、土魔法でイスとテーブルを作り出す。


「お、気が利くじゃねえか! んじゃ、使わせてもらうぜ。ほれさくら、薬膳携帯食と干し肉、それと茶だ」

『ありがとうございます!』


 やった、ご飯だご飯!


 干し肉は前に朝ごはんで食べた美味しいやつだからいいんだけど、問題はこっちの薬膳携帯食っていうやつだね。とりあえず包みを開けてみると、黒くて丸い何かが現れた。私はついついクンクン匂いを嗅いでしまう。うう~ん、なんだろういろんなものの匂いが混じってる。あの料理人さんが味はいまいちってわざわざ忠告してくれたほどのものだし、食べるのに少し緊張しちゃうね。


「がっはっは! ちょっと独特な匂いだからな、気になるのはしょうがない。ま、騙されたと思って軽くかじってみろ、そこまでまずくはないはずだ」

『はい』


 私は恐る恐るひとかじりする。う~ん、何だろう。よくわからない味だ。でも不思議と不味くはない。


「どうだ?」

『不味くはない、気がします』

「がっはっは! そうだろそうだろ? よくわからん味だが、なんでかそんなに悪くないんだよな。だがこの味で体力回復や魔力回復にいいってんだから、悪くはないだろ?」

『はい』


 うう~ん、正直私は体力も魔力もぜんぜん減ってないみたいだから、わざわざ食べる必要も無いんだけど、でもまあ、まずくも無いので食べちゃおう。


 うん、やっぱり不味くもないけど美味しくもない。でも、薬膳携帯食を食べた後は、お待ちかねの干し肉タイムだね! 私は火魔法で干し肉を軽くあぶってからがぶっと食べる。うん、こっちは安定の美味しさだね!


「お、さくらいいことやってんな。俺のもあぶってくれや」

『はい』


 私はボヌールさんの干し肉もあぶってあげる。爽やかさん達もって思ったけど、爽やかさん達の分は、爽やかさん達のパーティーメンバーの一人が火魔法を使ってあぶってあげてるみたいだ。


 美味しく干し肉を食べ終え、ぺろぺろとお茶も飲んだ私は、椅子に腰かけてというよりも、椅子で仰向けで寛ぐ。ネコが仰向けに近い格好で寛ぐのはどうなのって私も思うけど、この世界で目覚めた時といい、このキジトラボディは仰向けで寝る用に出来ているっぽいからしょうがないね。


 う~ん、でも何か物足りない。私はチラッとボヌールさんのほうを見る。ボヌールさんも同じ考えだと思う。だって、さっきのクレイビッグディアーを物欲しそうに見つめてるし。


『ボヌールさん、ちょっと物足りなくないですか?』

「お! さくらもそう思うか?」


 私のカンは大正解だったみたいだ。でも、私とボヌールさんがまさに意気投合して、クレイビッグディアーに手を伸ばそうとしているその瞬間、爽やかさんが話しかけてくる。


「ボヌールさん、まさか、今からクレイビッグディアーを食べるって言うんじゃないでしょうね?」

「おう、お前らも食うだろ?」

「今は非常時ですよ!?」

「そこは役割分担ってやつだよ。俺達みたいに乗り物が無い連中が遠くまで行ってもしょうがねえと思わねえか? こっちに向かってる馬車と合流できたところで、馬車と同じ速度で走るってのはちいっとばかし非現実的だ。なら、そういう役割はさっきからここを通ってってる乗り物に乗った連中に任せて、俺達はここに陣を張ろうってわけさ。もっとモンスターが森から出てくる可能性を見越してな」

「なるほど、ここはクレイビッグディアー達が森から出てきた場所ですし、他のモンスターが再び出てくる可能性も高いということですね! それに、ここでクレイビッグディアーの焼肉でもすれば、クレイビッグディアーより弱いモンスター達はここを危険地帯と認識して、もっと北よりを通らざるを得なくなる。そうすれば間接的にモンスターが街道に出ることを防げると、そういうことだったんですね? 流石はボヌールさんです!」

「お、おう、その通りだぜ! それに、俺もお前らもさっきの戦いで結構体力を持ってかれたろ? この程度の小休止じゃ回復できる体力なんてたかが知れてる。今の状態のまま再度走って、今より更に体力が減った状態でモンスターとガチで戦うのは、リスクも高い。何が来るかわからん状況だしな」

「流石ボヌールさんだぜ。その判断力の高さ。俺達も見習わないとだな!」

「ええ、本当ですね!」

『流石はボヌールさんですね! 私はてっきり、私と一緒でただお腹が空いてたからクレイビッグディアーを食べたいと思っているだけかと思っていました。ですが、流石は熟練の元ハンターさんです! 考えていることが違いますね!』

「がっはっは、あ、当たり前だろ? よ~っしさくら、一匹の氷の箱を壊してくれ!」

『はい!』


 なんかいつもよりボヌールさんの歯切れが悪かった気もしたけど、きっとまだ疲れが残っているアピールをさりげなくしてくれてるのかな? 自分が疲れてるってアピールすれば、休憩に対してみんなの罪悪感が薄れるしね。流石はボヌールさん、気づかいの男だね! 


 私にはボヌールさんのような気づかいはまだ出来ないけど、だからこそ出来ることを頑張ってしないとね! 私はサイコキネシスで1匹をこちらに引き寄せ氷の箱を壊す。


「うし、解体すっぞ! さくら、サイコキネシスで吊るしておけるか?」

『はい』

「じゃ、指示するから随時動かしてくれ」

『はい!』


 ボヌールさんはナイフを取り出すと、手早く解体を始める。皮がベロンって取れたかと思うと、内臓がぞもももっと出てくる。そして最後に肉を部位ごとにしゅぱぱぱぱって切り分けていく。


 日本人のメンタルなら倒れててもおかしくない見た目だったけど、生肉にかぶりついてきた猫ボディには、この程度へっちゃらだった。むしろ、美味しそうとしか思えない!


「うし、じゃあさくら、すぐ食べる分以外の肉と、毛と内臓はまた氷の箱を作って入れといてくれ」

『はい!』


 私はボヌールさんに言われたように、氷の箱を再度作り出してその中に皮とかをぽいぽいっと入れていく。


「じゃあ、早速食うか~!」

「「「「おお~!」」」」

『お~!』


 私が魔法でお肉を焼くのにむいた炎よ出て! って念じて炎を作り出すと、それを囲ってみんなでお肉を焼き始める。炎にも備長炭の炎とか、いろいろ種類があると思うんだよね。細かいところはよくわかんないけど、お肉を焼くのにむいた炎って念じておけば、きっとイージーにゃんこライフな魔法が何とかしてくれるはず。


「そういや、香辛料ってお前らも持ってるか?」

「塩胡椒ならあります」

「あんだそれだけかよ。んじゃ、俺のも使わせてやるぜ。塩糊料以外に、妖精の国のハンターギルド特製ミックススパイスその1とその2とその3があるからな!」

「「「「ありがとうございます!」」」」

『ありがとうございます! あの、ボヌールさん、ミックススパイスその1その2その3っていうのは?』

「ん? ミックススパイスのバージョン違いさ。その1が普通に売ってるやつで、その2とその3は俺の好みに合わせて作ってもらったんだ。さくらも好みを伝えれば作ってもらえるぜ?」

『凄いですね!』

「がっはっは、さくらも好みがあったら遠慮なく言えよ? あいつもただただ美味しい美味しい言われるより、こういう味のほうが好きって言われたほうがやる気が出るタイプだからな!」

『はい!』


 私専用のミックススパイスか~、なんかかっこいいね!



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