第24話 さくらの決意

 くか~。


「さく、さん、回復魔、おねが」

「う~にゃ」


 すや~。


「さくら、回復、頼む」

「うにゃ~」


 く~。


『さくらさん、さくらさん。起きてください』

「にゃにゃ!?」


 私は優しく体を揺すられ、目を覚ます。するとそこには、ペルシャさんがいた。あれ? 何でペルシャさんがいるの? きょろきょろ周囲を見回してみると、ここは外だ。それも湖の傍。あれ? なんで私こんなところで寝てたんだろう?


『さくらさん、帰りましょう。街道の安全確保の仕事、終わりですよ』

『街道? あ、街道のモンスター!』


 思い出した! 街道のモンスターを倒しにギルドを飛び出して、ボヌールさんと大きな鹿を倒して食べて、その後眠くなって・・・・・・、って私寝ちゃってたんだ!


 私はぴょんっと飛び起きる。まずいまずいモンスターはどこだ!? 私は周囲を確認するけど、モンスターの姿はどこにもない。


『大丈夫ですよ。この街道で襲われていた馬車はすべて無事に救助しましたし、近隣の防衛拠点にも情報を伝えました。これでひとまず安心でしょう』

『そうだったんですね。よかった~。でも、ずっと寝てばっかりで、私、ハンター失格ですね』

『何を言っているのですか? ボヌールから聞きましたが、さくらさんは回復魔法で100を超える軍人やハンターを回復していたそうではないですか。それだけ多くの回復魔法を使えば限界を超えて倒れてしまうのも無理はないですよ。むしろボヌールさんには、新人にそんな無理をさせたことを後で反省してもらわなければいけませんね。そう、たっぷりと』

『あ、大丈夫です。無理強いされたわけではないので』

『当然です。ですがそういう問題ではないのです』

『あの、本当に大丈夫ですので』

『わかりました。今回はさくらさんに免じて許すことにします』


 危なかった。ペルさんが私の心配をしてくれているのはわかるし、とってもありがたいんだけど、私は魔法の使い過ぎて倒れたんじゃなくて、文字通りお腹一杯で寝ちゃってただけなんだよね。でも、寝てても仕事をしてくれているなんて、流石はイージーにゃんこライフボディだね。凄すぎる!


『そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はベルメズ=ペルシャ。みんなからはペルと呼ばれております。さくらさんも、気軽に呼んでくださいね』

『はい! 私はさくらと申します。よろしくお願いします。それと、前は干し肉のことを教えてくださりありがとうございます』

『いえいえ、お気になさらずに。私にもアオイさん同様気楽に話していただけると嬉しいです』

『はい』

『では、帰りましょうか』

『はい』


 私達はみんな仲良く帰り支度を始める。


「あ~、疲れたぜ。久しぶりに長時間戦ったな」

「俺達もくたくたです」


 ボヌールさんと爽やかさん達は結構酷い汚れ方をしている。血もところどころに付いてるけど、怪我なら回復魔法を頼むはずなので、きっと返り血だね。


 私達が休憩していた場所の傍の道路には、おびただしい数のモンスターが転がっているし、私が寝ている間に回復した人の数も100人越えっていうし、もの凄いバトルがあったみたいだね。そんなバトルが傍であったのに起きない私もどうなのかと思うけど。あ、もしかしてそれで疲弊してるって思われちゃったのかな?


 でも、私は爆睡のおかげで、なんならここに到着した時よりも元気なのです。


『ボヌールさん、洗いますか?』

「いや、いい。お前もあんなに疲れて寝ちまうほど魔力を酷使したんだ。今は回復に専念しとけ」

『はい』


 やっぱりみんな疲れて寝てたと思ってるみたいだ。うう~ん、誤解なんだけど、どうしよう。でも、仕事の最中に爆睡って外聞が悪いよね。ここは、内緒にしておこうかな。うん、そうしよう。


 その後、私達は倒した獲物の中でも重要な部位だけ回収して、街へと帰還した。






 そして場所は変わっていつもの妖精の国のハンターギルドの出張所の食堂で、本日の打ち上げが行われた。


「みなさん、本日はお疲れさまでした。皆さんの迅速な対応のおかげもあって、この街へ向かっている商人さん達はみんな無事に救助できました。ギルドからささやかではありますがお夕飯をご用意させていただきましたので、どんどん食べちゃってください! では、かんぱ~い!」

「「「「「にゃ~!」」」」」


 ガーベラさんの音頭と共にお夕飯が始まる。今日のメインディッシュはボヌールさんの倒したクレイビッグディアーだ。お昼の残りともいうけど、そこは気にしちゃダメなのです!


 私はボヌールさん、ガーベラさん、ペルさんの3人と一緒のテーブルで、遠慮なくがぶがぶとクレイビッグディアーのステーキを食べる。


「ど~ださくら? 昼間の焼肉も美味かったが、ちゃんと料理したのはまた別格だろ?」

『はい!』


 ボヌールさんの言うように、お昼に外で食べた直火焼肉も美味しかったけど、ギルドの中で繊細に料理されているお肉は、また違った美味しさがあるね。どっちも捨てがたい。


「がっはっは! そいつはよかったぜ! そういやよ、アオイやギルマスはいつごろ帰ってくるんだ?」

「もうそろそろ帰還してもいい頃合いよ」

「そうか、今回の騒動がミノタウロスどもの移動のせいなら、間違いなく近いうちに連中がこっちに来るだろうしな。間に合いそうで何よりだぜ。そういや、ミノタウロスどもの街への到着時間はもうわかったのか?」

「ええ、今から1週間前後で敵の本隊が来るらしいわ。斥候みたいな少数の部隊の動きはもっとはやいみたいで、今日も何匹か仕留めたと報告があったわ」

「ほほう、そいつはいい報告だな」


 噂のミノタウロスが後1週間で来るのか~、怖いけど牛肉美味しそうだよね。ううん、そもそも2足歩行なんだから、牛肉の味とは限らないよね。私がそんな食い意地のはったことを考えていると、ペルさんが二人に提案をする。


『あの、ガーベラさん、ボヌールさん、さくらさんはこのままこの街に置いておくのですか? まだ新人ですし、危険が排除されるまで、別の街に避難してもらっていた方がよいのではないでしょうか?』


 ミノタウロスの上位種は、ボヌールさんでもきつそうなことを朝言っていた。確かにそんな強敵相手だと、足手まといになるかもしれない。でも、回復魔法もあるし、支援なら出来るよね?


「そうね、ペルちゃんの言う事も確かにその通りかもしれないわね。さくらちゃん、今日お出かけする前に聞いた話は覚えているかしら?」

『えっと、ミノタウロスの群れがこの街を襲うっていう話ですよね?』

「そうよ。今ミノタウロス達が東の山から出てきて、この街から1週間という場所まで来ているの。理想としては前回みたいにこちらから打って出たいところなんだけど、今のこの街にはその余裕がなくってね。今度は確実に防衛戦になるわ。だから、街が危険にさらされる可能性が無いとは言い切れないの。いえ、確実に街が危険にさらされるわ。私達としてはやられる気なんて全然ないけど、他の街に避難していた方が安全なのは間違いないのよ。さくらちゃんはハンターになりたてだし、今の段階で相手をするには、ミノタウロスは無謀な相手だと思うわ。さくらちゃん、他の街に避難してくれないかしら?」


 避難。うう~ん、ボヌールさんでも勝てないっていうミノタウロスの上位種は確かに怖い。でも、私の拠点は北の崖の桜の木って決めているし、その場合この街が無いといろいろと都合が悪い。


『さくらさん、よく考えてください。この街はいざとなったら船で湖に逃げだすことを前提に作られています。ですので、仮に負けたとしても、そこまで被害が出るわけではないのです。むしろそうなった場合に、回復魔法の得意なさくらさんが脱出先にいることはメリットとも言えます』


 うう~ん、それなら私もここで戦って、いざとなったら北の崖の上の桜の木に逃げれば問題ないよね? なんでかあそこは絶対安全って私の猫のカンがいってるし。それに、みんなと湖に逃げることを考えても、私も空を歩けるので問題ないはずだ。


『ペルさんとガーベラさんの提案はありがたいのですが、私もここにとどまりたいと思います。確かにボヌールさんでも勝てないミノタウロスの上位種は怖いですし、直接の戦闘では足手まといかもしれませんが、私でも回復魔法とかでの支援は出来るとおもうんです。いざとなれば空を歩いて湖に脱出も出来ますし、だめでしょうか?』

「よく言ったぞさくら、安心しろ。お前のことは俺が守ってやる!」

『ありがとうございます!』


 流石ボヌールさん! 男前すぎ!


「もう、そんなこと言われちゃったら、無下には出来ないわよね。ペルちゃんもいいわよね? さくらちゃんの回復魔法のことはペルちゃんとボヌールから聞いてるわ、ちょっと頼りにさせてもらうわね!」

『はい! 任せてください!』


 私がそう返事をすると、ペルさんがこちらに寄ってきて、すりすりしてくれた。このすりすり攻撃は、猫の愛情表現だね。私もペルさんにすりすりし返す。


「そんじゃま、さくらの参戦も無事に決まったことだし、ぱ~っと食おうぜ、ぱ~っとな! まだミノタウロスどもが来るのに1週間くらいあるんだ。いまから気を張ってちゃあ本番まで持たねえぞ」

『はい!』


 私はお腹いっぱいお夕飯を食べると、いつものギルドの空き部屋を借りて、ぐっすり眠るのだった。あ、食べようと思えばいくらでも食べれるこの猫ボディなんだけど、何故か一度は猫の胃袋サイズのご飯を食べると満腹感があるの。不思議だよね?



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