第21話 負けられないボヌールさんの戦い
ボヌールさんは西の街道をのっしのっし、のっしのっしと走る。私はそんなボヌールさんの肩で追い風の魔法を使う。
西の街道は、私も少しだけ歩いた経験がある。人間ボディでこの街に来た時だね。あの時は剣とか荷物を持って、歩いて30分くらい歩いたから、たぶん2kmくらいは歩いたんじゃないかな? でも、街に向かって歩くのと、反対方向に歩くのだと、景色が全然違うね。左手に見えるレイクスールガーがとってもきれいだ。西の街道は湖畔沿いにしばらく続くようで、平和なときならのんびり景色を楽しみながらお散歩をするのも良さそうだね。
というか、モンスターが全然いなくて平和そのものに感じる。
『モンスター、出てきませんね』
「そりゃな。だいたいこの街はイーヅルー半島の根元部分に城壁があるわけじゃないだろ? 城壁があるのは、少し半島に入って半島の幅が狭くなってる部分だ。だから、この辺は東西が湖に、南をイーヅルーの城壁に囲まれてて、袋小路で逃げれねえんだよ。モンスターどももそのくらいの知恵はあるから、街道にモンスターが出てるってのも、もっと北西の部分だろうな」
『そういうことだったんですね』
私達はその後も西の街道をひた走る。馬に乗った軍人さんや、ハンターさんが私達を抜かしていくけど、気にしない。馬が私達より速いのは当然だしね。
走ってるハンターさん達にも抜かれるけど、それも気にしない。みんなボヌールさんと比べたら軽装だしね。
「ボヌールさん、お先に失礼します!」
「「「失礼します!」」」
あ、さっきの爽やか青年ハンターさんにも抜かされた。一緒にいる人たちもボヌールさんに軽く挨拶をしていく。仲良さそうだから、きっと爽やかさんのパーティーメンバーだね。
「ぬう、まさか小僧どもに抜かされるとは。さくら、スピードアップだ!」
『はい』
私はボヌールさんへの追い風をもっと強くする。すでに台風並みだった風は、人間ボディの私ではまともに立っていられないレベルの暴風になる。でも、ボヌールさんはそんな風を背に受けて、のっしのっしと加速する。そして、さっきの爽やかさんパーティーに容易く追いついた。
「おい、お前ら、若いのにだらしねえぞ! がっはっはっは!」
そしてボヌールさんは、一言いい残して追い抜いた。
「なに!? あんな重鎧を着てこんな速度で走れるなんて、ありえねえだろ!」
爽やかさんの仲間が驚嘆の声を上げる。からくりを知っている爽やかさんは苦笑いをしている。でも、その後少し話し合うと、爽やかさん達はボヌールさんに張り合うことにしたようだ。みんな速度を上げて追いかけてくる。
「くおら熊親父~! 卑怯だぞ~!」
「が~っはっはっは! やれば出来るじゃねえか! でも、その程度じゃ俺には追いつけねえぜ! ちなみにだが、パーティーメンバーの力は俺の力だ、残念だったな!」
ボヌールさんは盛大に高笑いをして爽やかさん達の前を煽るように蛇行する。
私は爽やかさん達にもこっそり追い風の魔法をかけてあげる。
その後は、うん、男の戦いが繰り広げられていたみたいです。
そして、そのまま男の戦いが繰り広げられるまま走っていると、前方に軍人さんやハンターさん達の姿が見えた。
「さくら! お前ら! 前方で戦闘だ!」
『はい、私にも見えました!』
「わかりましたボヌールさん!」
背が大きく先頭を走るボヌールさんと、その肩にいる私が真っ先に敵を発見する。何やら大きな茶色ぽい物体と、先行してた人たちが戦っているようだ。
「あの大きさと体を覆う土。これはクレイビッグディアーの群れか! こいつはついてるぜ! あいつら、見た目は泥まみれのデカい鹿なんだが、最高に美味いんだぜ!」
『美味しいんですか?』
「ああ、泥まみれでまずそうに見えるが、泥浴びってのは寄生虫退治にやるモンスターも結構多いんだ。そういう意味じゃ、常に泥まみれのあいつらは、むしろ清潔なんだぜ? そのせいかはわかんないが、あいつは鹿系モンスターの中でもかなり美味いんだ! 俺の舌は確かだぜ? なにせ毎日ギルドで飯食ってるんだからな!」
そう言われると、すごい説得力がある。ギルドの料理人さんのご飯はかなり美味しい。味の方向性は違うけど、それこそ湖の貴婦人のご飯にも負けないくらいだった。それを毎日食べているボヌールさんが太鼓判を押すなんて、これは私も食べてみたい!
『私も食べたいです!』
「がっはっは、だろだろ? それでこそハンターだ! だが焦るなよさくら。クレイビッグディアーは普段は草食でこっちを積極的に襲ってくるようなモンスターじゃないが、あれでもモンスターに変わりない。今みたいに怒ってるときは、そのでかい図体と、体にまとっている土魔法の泥の防御力任せに大暴れするんだ。油断するとぺしゃんこだぜ?」
それを言われちゃうと、ちょっと怖い。
「ってわけで、慎重にいくぞ。さくら、お前遠隔攻撃手段はあるか?」
『はい、魔法で攻撃できます』
「なら、俺が正面から切り込むから、お前は俺の後ろから攻撃してくれ。それと、もし他のモンスターなんかが新たに出てきて、囲まれそうになったら、とっとと逃げろ。俺一人なら耐えれるが、今の俺じゃあお前を守りながらは無理だ。絶対に敵中で孤立するんじゃねえぞ!」
『はい』
「おいお前ら、分かってんな? 俺が正面から行くから、お前らは隙を付いて無理なく攻撃しろ! それと、さくらがやばくなったら死んでも守れ。さくらが怪我してお前ら無傷だったら、後で俺が殺しに行くからな!」
「「「「はい!」」」」
「んじゃ、派手にぶちかますぜ! 先行組は見た感じ機動性重視の軽装の連中ばかりだったからな、ああいう大物狩りにはあんまり向かねえだろうしな!」
「「「「おう!」」」」
「にゃ!」
こうして、ボヌールさんを先頭に、私達は軍人さんやハンターさんがすでに戦っている戦場へと突入した。
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