第107話 鬼が島へ到着!

「さくらさん、ゼニアさん、下船していいみたいだ」

「わかりました」

「ええ、行きましょうか」


 釣りをみんなで楽しんだ翌日、じゃなかった。川魚を美味しくいただいた翌日、お姫様の船は予定通りお昼過ぎに鬼が島に到着した。


 鬼が島に到着してまずすることは、お姫様の入港式典。鬼が島を守るためにこの島にいる将軍に出迎えられたお姫様が、将軍と一緒にお城までパレードするんだって。


 最初の方だけ甲板から見てたんだけど、お姫様と将軍、それに近衛兵さん達が先頭を進み、その後ろにこの船に乗る兵隊さん達が続いていくパレードは、凄い立派だった。


 そして、予定通り何事もなくパレードが進んでいき、私達が下船する番になった。あ、私達はパレードには参加しないよ。ただ、パレードの邪魔をするわけにもいかなかったから、ハンター組はみんなパレードが終わるのを待ってたんだよね。


 ちなみにジェームズさん達はパレードには参加せず、私とゼニアさんの側にいる。どうやら他のロジャー将軍の兵隊さん達とは、完全に別行動をとるみたい。本当にず~っと私の護衛をするつもりなのかな? それは流石に悪いよね?


 そのあたりのことは後で話せばいいからひとまず置いておいて、早く上陸しないとだね。ハンターギルドの情報だと、各地のハンターさんや傭兵さんが集まって来ていて、宿屋さんの空きがもうかなり少ないっていう話だったんだよね。




「これが鬼が島・・・・・・、なんていうか、禍々しい島ですね」


 船を降りた私の目に見えたのは、何て言うか、とても禍々しい山だった。いま私達がいるのは、島の北側にある港なんだけど、南には富士山みたいな頂上が平らな山があり、その平らな頂上部分の左右には、まるで鬼のツノかと思うような鋭い岩が生えている。ゼニアさんの話だと、あの山のふもとにダンジョンの入口があるみたいなんだけど、これは凄いダンジョンのある街に来ちゃったのかもしれないね。


 でも、これで分かったことが一つある。鬼のように見える山があるから鬼が島って名前なんだろうね! うん、名推理だ。


「俺も画像では見たことがあるが、生で見るとやっぱり違うな。大きさといい色合いといい、何とも言えない禍々しさがあるぜ」


 私だけじゃなくて、ジェームズさん達もこの異様な島に、目を見張っている。


「ふふふ、確かに少し迫力のある山よね。でも、そんなに気にすることはないわ。あの山はともかく、その山頂にある鬼のツノに見える2個の岩は、人がくっ付けたものですからね」

「え? そ、そうなんですか?」

「厳密には大昔は自然のものとしてあそこにあったらしいの。でも、昔あった大地震で落ちちゃったらしいのよね。だから、いまあそこに角のように2個の岩があるのは、人がくっ付けたからなのよ」

「でも、何でそんなことをしたんでしょうか?」

「私が聞いた話だと、あの2本の岩が落ちた大地震の後に、ダンジョンから大量のモンスターが溢れたらしいわ。それを当時の人達が、角を取られたあの山が怒ったせいだと考えたっていう話だったわ」

「そんな曰くつきの岩なんですね」

「ふふふ、そんなに気にしなくてもいいのよ。見て分かる通り、バランスの悪そうな岩でしょう? 実はあの岩、定期的に落ちているのよ」

「え? それってダメなんじゃないですか?」

「この話を聞いた時は私もそう思ったわ。でも最近では、岩が落ちる瞬間にこの島にいると、運気が上がるなんて言われているほどなのよ。ちょっと道のりが険しいけど、山頂まで登山することも出来るから、時間のある時に行ってみる?」

「はい! 行きましょう!」

「ふふふ、それじゃあまずはやることをしましょうね。ジェームズさん達は宿をとるのかしら?」

「ああ、その予定だ。ただ、俺達は最悪軍の基地に泊めてもらえるから、二人の宿探しを優先してくれ」

「わかったわ。それじゃあ、私が以前この島に滞在中に泊まっていた宿屋があるから、そこでいいかしら?」

「はい!」


 そうそう、ジェームズさん達とも、この船旅で打ち解けることが出来た。いまではさくら様なんていわず、さくらさんって呼んでくれるようになったし、あの男ことバーナード隊長さえいなければ、口調も素の口調で話してくれるようになった。


 やっぱりジェームズさんに様付で呼ばれるのは、むずむずしちゃうもんね。そもそも初めて出会った時は、アオイのガールフレンドって呼ばれて干し肉を貰った気がするし。そんな人から敬語っていうのもね。


 ただ、人間ボディで近づくとさくら様呼びプラス敬語、猫ボディで近づくとアオイのガールフレンド呼びでため口と、お仕事モードのジェームズさんと素のジェームズさん、そのギャップがちょっと面白くもあったんだよね。もったいないことしちゃったかな?




 港で辻馬車を拾って、馬車で街中へと進んでいく。あ、辻馬車っていうのは、現代でいうとタクシーみたいな馬車だよ。


 馬車の窓から鬼が島の街並みを眺める。建物の造形はイーヅルーの街に似てるかもしれない。同じ国だし、軍事的要衝って意味でも同じような機能の都市だから、そう言うところは似ちゃうのかな? それに街行く人を見ても、イーヅルーの街みたいに軍人さんやハンターさんが多い。流石はダンジョンの街だよね。


 ただ、イーヅルーの街よりも、少しものものしいかな? イーヅルーの街だと城壁は、街の中と外を隔てる一つしか無かったけど、この街は港と街の間に城壁があるだけじゃなくて、街の中にまで城壁があるみたいなんだよね。


「あれ? 城壁の上に登る階段が外についてる?」

「それはね、この島の最大の脅威は外では無くて内にあるからなの。あのツノの生えた山の麓にダンジョンがあることは話したとおもうけど、この島の住人にとって一番の脅威は、ダンジョンの中のモンスターが出てくることなのよ。だから、島にある三重の城壁は、全てダンジョンのある山に向かって作られているわ」

「そうなんですね。でも、ゼニアさんってこの街のことすっごく詳しいですね!」

「ふふふ、私は以前この街で活動していたこともあるからね」


 それにしたって凄いよね。仕事で滞在していただけの街の歴史とか、私ならそんなに調べないと思うもん。


 ゼニアさん行きつけの宿屋さんか~、どんなところなんだろう? イーヅルーの街でも湖の貴婦人っていう高級な宿屋さんに泊まっていたし、きっとこの街でも高級な宿屋さんに泊まっていたのかな?


 ん? ちょっと待って、よく考えると私、湖の貴婦人の代金は払ってない。あの時はまだ良い人だと思っていたバーナード隊長の紹介だったし、バーナード隊長が宿泊料を肩代わりしてくれてたんだよね。だから、気ままな高級な宿屋さんライフを満喫してたんだけど、自分で払うってなると、むむむ、これはもしかすると、ピンチかもしれない!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る