第106話 船で釣りをしよう

「ではさくら様、ゼニアさん、今後のスケジュールについてお話します」


 出航式を無事に終えた私達は、お部屋へと戻ってきていた。うん、やっぱりお部屋が一番落ち着くよね。決して甲板で他の人達から凄い注目をあびてたから逃げこんだわけじゃないよ? だって、私はフードを被って他人の振りをしていたから、気付かれていないはずだからね。


「はい、お願いします」

「まず、主要なスケジュールですが、この後12時から昼食、午後の6時から夕食、明日の朝7時に朝食、明日の12時に昼食、そして、昼食後すぐに目的地である鬼が島へと到着予定です。料理は食堂もあるようですが、この部屋へと運んでもらうことも可能とのことです。いかが致しましょう?」

「どうしようゼニアさん、運んでもらった方が楽かな?」

「そうね、運んでもらいましょうか。あんな大きな花火を打ち上げたんですもの、きっとジェームズさん達はいろんな意味で注目されてしまうでしょうしね」

「う、ご配慮ありがとうございます」


 そうだね。ジェームズさん達はすでにみんなの注目の的だもんね。トラブル防止のためにも、ここは下手に出歩かないほうがいいね。


「では次に、ちょっとしたイベントになるのですが、昼食後の午後1時より午後5時までの4時間の間、甲板にて釣りを楽しめるということです。いろいろな種類の川魚が釣れ、また、釣れた魚は甲板で料理人に料理してもらえるということですが、こちらはいかが致しましょう?」


 川魚か~。イーヅルーの街ではちょこちょこ食べていたとはいえ、今後海に出ちゃったら食べれなくなっちゃうよね。ここは3時のおやつ代わりに川魚を食べるのもありかも知れないね。


 それに何より、鬼が島へ行く前の釣りの練習になるもんね。よし、ここはジェームズさん達の外出問題は棚上げして、参戦しよう!


「私は行きたいです!」

「そうね、私も久しぶりに釣りを楽しもうかしら」

「ジェームズさん達もいきますよね?」

「ええ、もちろんです。私達はさくら様の護衛ですので」

「ありがとうございます!」


 私達はその後、まったりとお昼ご飯を食べて、ちょっとくつろいでから甲板へと向かった。


「うわ~、結構大勢釣りしてるんですね」


 食休めですこしのんびりしていたから、時刻は午後2時くらい。すでに甲板では、多くの人が釣りを楽しんでいた。


「ほんとうね。しかも、みんななかなかの釣果のようね」

「それでは、空いてるところを探してきますね」

「それじゃあ、僕は釣り道具を借りてきます」

「ああ、頼んだ。俺は護衛に残る」

「俺もそうする・・・・・・」


 そう言ってジェームズさん達が、いろいろと準備を進めてくれる。




「お邪魔します」

「遠慮なくいらしてください。お互いに釣りを頑張りましょうね」

「はい!」


 いろいろと準備をしてくれたジェームズさん達だったんだけど、何故か私達は、お姫様の横で釣りをすることになった。というか、ここってきっと、王族が優雅に釣りをする場所だと思う。他の人達が釣りをしている場所からは、完全に隔離されてるし。


 え~っと、私、お姫様の前だと緊張しちゃうって言ったよね? そういう思いを全力で目に乗せてジェームズさん達を睨むも、ジェームズさん達は私以上にがっちがちに緊張しているっぽくて、ぜんぜん気付いてもらえない。


 まあ、気付いてもらったところで、お姫様の誘いを断ることは出来ないし、ここは大人しくお姫様の横で釣りをするしかないね。周りにだれもいないってことは、それだけ釣りやすいかもしれないし!


「お姫様はもう釣れたのですか?」

「はい。といっても、小物が2匹だけですが」


 私はお姫様の椅子の横にあるバケツっぽいものを見せてもらう。するとそこには、元気な魚が2匹およいでいた。お姫様は小物って言っていたけど、私的には大きいと思うんだけど。


「けっこう大きくて、食べ応えありそうですね」

「ふふふ、確かに一人で食べるには少し大き目かもしれないわね」

「これは・・・・・・、川の女王・・・・・・」


 すると、私の護衛をするって言って、私の側にいてくれていたアレックさんが、そんなことをいう。


「川の女王、ですか?」

「いや、失礼しました・・・・・・」

「そんなに緊張なさらないでくださいな。それより、川の女王というのは?」

「はい・・・・・・、私は休日に漁師をしている友人達と漁に行くことがあるのですが、彼等はそう呼んでおりました・・・・・・。滅多に取れない高級魚だそうです・・・・・・。川の女王という名称は正式なものではないと聞きましたが・・・・・・、申し訳ございません、正式名称は知りません・・・・・・」

「そうなのですね、ありがとうございます」


 イーヅルーの街の住人であるアレックさんがレアというほどのお魚か~、ということは、私も食べたことがないかも知れないってことだよね。美味しくてレアだから高級魚なんだろうし、ここは、是非とも食べたい! その前に釣り上げたい!


「さくらさん、もし食べるのでしたら、差し上げますよ?」


 え? もしかして、顔に出てた? ううう、ちょっとはずかしい。


「いえ、自分で釣るので大丈夫です!」

「それもいいわよね。自分で釣った魚は、何とも言えない美味しさがあるもの」

「ですよね!」


 よ~っし、私も頑張って釣るぞ~。


 私はジェームズさんから釣り竿をもらう。釣り竿は日本で見た釣り竿とそっくりだ。リールがついているし、竿には丸いわっかがたくさんついてる。唯一の違いといえば、あの伸び縮みする機能がないところくらいかな。あれ、ちょっとかっこいいのに。


 でも、これだけ似てるなら私でも十分使えそうだ。釣りをした回数は決して多くないけど、アジくらいなら釣ったことあるんだからね!


 そして釣り竿を受け取った私は、次にエサを受け取る。良かった、エサは魚の切り身みたい。生きた昆虫を針につけるとかだったら、ここで挫折していたかもしれない。


「ふんふ~ん」

「あら、さくらさんご機嫌ね」


 するとゼニアさんが現れ、私の横に座る。ゼニアさんはもう針にエサもセットしてて、準備万端みたいだ。


「はい! 見ててください、美味しい魚を釣り上げますから!」

「ふふふ、楽しみにしているわ」

「さくらさん、頑張ってくださいね」


 ゼニアさんだけでなく、お姫様の応援をも受けた私は、釣りを開始する。


 さあこい川の女王よ! 私が釣り上げてやる!




 1時間後・・・・・・。


「あら? また川の女王が釣れたわ」

「見事な腕です、王女様・・・・・・」




 2時間後・・・・・・。


「ふふふ、たくさん釣れると楽しいわね」

「この辺りは普段漁をしないエリアだから、魚も豊富なのだろう・・・・・・」

「あら? そうなのですか?」

「ああ、この辺りは時々河に住むモンスターが飛び出してくる危険地帯・・・・・・。この船のような大型船なら安全でも、漁船のような小さい船では危険が多い・・・・・・」

「まあ、アレックさんは物知りなのですね」

「いや、ただ釣りが好きなだけだ・・・・・・」




 3時間後・・・・・・。


「ふふふ、いっぱい釣れたわ。アレックさんもありがとうございます。アレックさんのフォローがなければ、ここまで釣れませんでした」

「いや、王女様の実力だ・・・・・・」


 釣りが始まって3時間、お昼の後のんびりしてて2時から参戦したから、もう釣りは終わりの時間だ。


「ゼニアさんもたくさん釣れましたね」

「はい、こちらの席に招待して頂けたおかげです」

「いえいえ、私も楽しかったですから。それでええと、さくらさん?」


 なんですかお姫様? お姫様とゼニアさん、それにジェームズさん達が大量に釣り上げる中、1匹も釣れなかった私に、いったいなんのようでしょうか? 今の私は、不機嫌オーラを隠せるような精神状態じゃありませんよ?


「あの、私ではこんなに食べられませんし、川の女王、1匹食べますか?」

「え? いいんですか?」

「はい、さくらさんの護衛のアレックさんにフォローしていただいたおかげで、たくさん釣れましたので」

「やった~! ありがとうございます!」


 お姫様、なんて良い人なんだ。その釣りの腕前、鬼が島での海産物の捕獲に付き合ってほしいくらいだよ。


「なあジェームズ、薬師の嬢ちゃんって、現金なんだな」

「いや、俺には何とも」


 ジェームズさん達が何か言ってるけど、失礼しちゃうよね! 私の目的は美味しい川魚を食べる事であって、釣りそのものではないのですよ。そう、私は目的と手段を履き違えない、立派な大人なのです!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る