第105話 妖精の国ハンターギルドの秘密会議その5
私の名前はガーベラ、妖精の国のギルドの職員よ。
今日も恒例の秘密会議の日、出席者はいつもと一緒で、私、ギルドマスターのユッカ、解体係兼倉庫番のボヌール、料理人のゼボン、それから所属ハンターのアオイとペルちゃんよ。
「今日の出航式は楽しかったよね!」
「がっはっは、まさか最後の最後であんな大爆発を起こしていくなんてな! 前代未聞だったな!」
ユッカとボヌールは笑いながらそう言うけど、なかなか大変だったのよ? 私やアオイ、ペルちゃん、それに他の猫ハンター達や軍人さん達で協力して結界を張ったからよかったものの、そうじゃなかったら街にとんでもない被害が出ていたわ。少なくともガラスは全滅していたわね。
「特にあの警備部隊のバーナードの顔ったらなかったよね!」
「さくら~!! ジェ~ムズ!! だもんな!」
「そうそう! 血管の切れそうな顔って、まさにあんな感じの顔のことをいうのかなっていう感じだったよね!」
そういえば、さくらちゃんだけじゃなくて、ユッカも警備部隊のバーナード隊長のことは嫌っていたわね。まあ、さくらちゃんが来るまでは、このギルドで問題を起こしてバーナード隊長に怒られる存在といったら、ユッカだったから仕方ないわね。
『でもよ、確かロジャーの話だと、お目付け役にジェームズ達を付けたって話だったよな? さくらが花火の風習を知ってたとも思えないし、あの花火打ち上げたのがジェームズ達なら、持ち込んだのもジェームズ達だよな?』
「そう言われればそうね。まったく、バーナード隊長もとんだ問題児をさくらちゃんの護衛につけたものね」
『え~っと、そうなのでしょうか?』
『なんだペル?』
『あの門番達のことは私も知っていますが、真面目な方たちですよね? 純粋にさくらさんの魔法の威力を知らなかっただけではないでしょうか?』
確かに、普段の彼等はいたって真面目な門番っていう感じよね。なら、ペルちゃんの推理は大当たりかしら? 私だって花火に強化魔法をかけた程度で、あんな大爆発が起きるなんて想像できないものね。
「皆さん、夜食をお持ちしましたよ」
私達が出航式について話し合っていると、ゼボンが夜食を持ってきた。
ゼボンったら、少し席を外していたかと思ったら、夜食を用意していたのね。まあ、メインの話はもう終わっているから、いいにしましょうか。
「お、ゼボン気がきいてるね! 甘いものはあるよね?」
「もちろんです」
相変わらずユッカは甘いもの好きね。
「おいおい、甘い物だけとかいうなよ。酒とつまみもあるんだろうな?」
「ええ、もちろんありますよ」
そしてボヌールはお酒ね。まったく・・・・・・。でも、今日くらいはいいにしてあげましょうか、なんだかんださくらちゃんが行っちゃって、みんな寂しがっているものね。アオイとペルちゃんは普段通りに干し肉を食べている気がするけど、どう思っているのかしら?
まあ、今は私もユッカと一緒に甘いものでも食べましょうか。
「ユッカ、私もいただくわ」
「おう、ガーベラも食え食え~」
私はフルーツタルトをいただく。今日もゼボンのデザートは美味しいわね。そしてなんだか、この甘さが身に染みるわ。
「ガーベラ、さくらさんがいなくなって、落ち込んでるの?」
あら、ユッカにさとられちゃうだなんて、私もまだまだね。
「そうね、少しだけ落ち込んでいるかもしれないわ。でも、あくまでも少しだけよ。ハンターがあちこち行くのは当たり前のことなんだから。それに、さくらちゃんは美味しい海のモンスターを満喫したら帰ってくる予定だから、そこまで悲しいことじゃないわ」
「だよね。良かったよ、ガーベラが落ち込んでいるように見えたからね」
「ふふふ、心配させちゃったようね」
「いいのいいの。僕もなんだかんだ言ってさくらさんとの別れは寂しいからね」
「あら、ユッカがそんなこと言うなんて珍しいじゃない?」
「ん~、僕もハンターギルドの職員だから、ハンターとの別れには慣れてるつもりなんだけどさ。こっちに来てからはハンターとの距離も近かったし、何より最近は別れることなんてなかったでしょ? せいぜい僕が仕事で王都に行くことがあるくらい? だから、久しぶりに感傷的になっちゃった」
そうね、ユッカの言う通りね。確かにこっちに来てからは、ハンターのみんなとの仲が、普通のギルドの職員とハンターの関係よりもだいぶ近かったわね。
「はあ、俺もついてきゃよかったかな」
「珍しいですね。ボヌールさんがそんなことを言うなんて」
ボヌールとゼボンがそんな会話をしているけど、まさかボヌールまで寂しいと思っているなんて、ちょっと意外だったわ。
「さくらは面白いやつだったからな。作るものも面白きゃ、狩ってくる獲物も面白かった。それはゼボンだってそう思うだろ? っていうか、ゼボンの方が恩恵を受けてただろ。あれが美味しいこれが美味しい言って、さくらに採ってきてもらってたじゃねえか」
「そうですね。私もまさかドラゴンや、ドラゴンの生息地に生息する食材の数々を料理できる日が来るとは思いませんでしたよ。ですが、恩恵という意味ではボヌールさんの方が受けていたでしょう? 知ってるんですよ。仕事が忙しい時にこっそり強化魔法をかけてもらっていたことは」
「ちょ、おま、それは内緒だっての」
ゼボンはまあ、さくらちゃん自身、食べたいものだったと思うからいいけど、ボヌール、あなたは何をさせてたのよ。これは後でお話が必要ね。そういえば、結局さくらちゃんに、北の崖の上のモンスターがいかに強いのかを、説明し忘れていたわね。
『どうしたお前ら、なんかしめっぽくねえか?』
そう言って話しかけてきたのはアオイだ。アオイはぱっと見ぜんぜん平気そうなんだけど、寂しくないのかしら?
「どうしたって、さくらちゃんが行っちゃったのよ? アオイは寂しくないの?」
『いや、寂しくないのって言われても、なあペル』
『そうですね、寂しがる必要なんて無いと思いますよ』
「確かにいつかは帰ってくるでしょうけど、さくらちゃんとは当分の間会えないのよ?」
『ん~、たぶん2、3日もすりゃあ帰ってくるんじゃね?』
『それは早すぎますよ。向こうでの生活の拠点を手に入れて、ある程度の準備をしてから漁に出ると思いますので、4、5日はかかるのではないでしょうか?』
『あ~、そうだな。ペルの予想の方が正しそうだな』
何を言ってるのかしらこの二人は? 鬼が島って結構遠いのよ?
「アオイ、ペルちゃん。鬼が島まで何日かかると思っているの? あの島はかなり遠いのよ?」
『遠いったって、川を下る行きで1日、河を登る帰りで2日ってところだろ? 足の遅い船でその程度の距離だぞ? さくらの足でなら空を走って1時間もありゃあ帰ってこれるだろ。1時間なんてちょっとそこまで遊びに行くような距離じゃねえかよ』
『さくらさんも魚を入手したら都度戻ってくるといっていましたし、再会はすぐだと思いますよ』
『だな。っていうか、向こうでの生活がリズムに乗って来たら、いつものように二日に1度はここに顔出すんじゃねえか?』
「そ、そうなのね」
そう言えば、さくらちゃんは強いだけじゃなくて移動速度も信じられない程速いって、以前アオイとペルちゃんから報告があった気がするわね。さくらちゃんが凄いのはわかっているつもりだったんだけど、やっぱり直にその強さを見ていないとダメね。今度一緒に狩りに行ってみようかしら?
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