第104話 出航式
私達が船に乗ってしばらくすると、港でお姫様を始めとしたこの船に乗るみんなのための出航式が始まる。式の主役はもちろんお姫様なんだけど、参加者は凄く多い。なにせこの船に乗船しているロジャー将軍の兵隊さんや、ハンターさんの中には、この街の人も多いからね! そういうわけで、私やジェームズさん達も甲板に出て、港にいる人達に手を振る。
私が港に向けて手を振っていると、ガーベラさん達を始めとした妖精の国のギルドのみんなが着てくれているのを発見した。まさかみんなで来てくれるなんて、ちょっと涙腺が緩んじゃうね。ジェームズさん達もそれぞれ家族や知り合いを見つけたみたいで、手を振りながら大声でなにか叫んでいる。
私も紙テープ投げとかしてみたいなって思ってたんだけど、ところ変われば文化も変わるみたいで、こっちでは紙テープは投げないみたいなんだよね。かわりにこっちでは、出港後に花火とか爆発系の魔法とか、とにかく派手なものを空に打ち上げるのが一般的みたい。
みんなで別れを惜しんでいると、ついに船が汽笛を鳴らして出港しはじめる。すると、船に乗っているみんなが、思い思いに空へと花火や爆発魔法を打ち上げる。昼間だから花火もそんなに見えないけど、うん、なんかいい雰囲気だよね。
ど~ん、ど~ん、ど~ん。ちゅど~ん!
「さくら様も発射しますか?」
「これはなんですか?」
「魔力を込めるとこの筒から打ち上げ花火が出るおもちゃです」
「やりたいです!」
「では、2本どうぞ!」
「2本もいいんですか?」
「ええ、もちろんです。私達はもっと打ち上げますし!」
ジェームズさん達の方を見ると、みんなして片手の指の間に花火を4本、もう片手の指の間にも花火を4本セットして、こっちを見てにやりと笑っていた。な、なるほど、ジェームズさん達やる気だね! まさか花火を八刀流で打ち上げるだなんて!
どどどどどどどどどどどど~ん!
流石ジェームズさん達だ、音が派手だね! それじゃあ私も花火を2発打ち上げよっと。
ど~ん、ど~ん。
うん、ジェームズさん達のような派手さはないけど、このシンプルな感じがいいね!
ちゅっど~ん!
「ん~、なんかちょっと地味か?」
「だな~」
「うむ・・・・・・」
ただ、ジェームズさん達は満足してないみたいだ。5人かける8発イコール40発同時発射っていうのは、結構派手な花火だったと思うんだけどな。
「やっぱ手持ちの花火じゃダメだったんだよ。爆発魔法使ってるやつや、地面に置く花火使ってるやつに完全に負けてる! だからデラックス何とかにしようぜって、俺は言ったのに」
「あの、でも、あまり派手過ぎるのも悪目立ちするといいますか、大人げないといいますか」
なるほど、みんなもっと派手にしたいんだね。確かに爆発魔法を撃っている人や、地面に設置するタイプの大型の打ち上げ花火と比べると、ジェームズさん達の手持ち式の打ち上げ花火は一発の重さが足りない気がする。
ここは私が一肌ぬごうかな。花火の威力が足りないのなら、猫魔法で花火を強化してあげればいいよね。せっかくの旅の始まり、残念なものには出来ないよね!
「ジェームズさん、私が猫の姿に戻って、皆さんの花火の威力を上げるように魔法をかけましょうか?」
「さくら様? いいんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。まったく疲れませんので」
「ぜひお願いします!」
「頼む・・・・・・」
「ド派手にお願いします!」
「え、あの、でも」
魔法使いのロビーさんだけちょっと遠慮がちだけど、問題ないみたいだね。私はローブのフードを被ると、猫ボディに戻る。
ぽふん!
今日の私の服装は、人間ボディの変身時の服装であるキジトラ柄の迷彩服の上に、ローブを纏っただけっていうお手軽ファッションなのです。だから、ローブのフードを被っちゃいさえすれば、猫ボディに戻っても周りから怪しまれないのです。変身した時の大きさが違うから、すぐにローブが落ちてばれちゃわないのって? ふっふっふ、猫ボディに戻った瞬間に、サイコキネシスでローブをそれっぽく操れば、何の問題もないのです! 私はローブのフード部分から顔を出すと、ジェームズさん達の持つ花火に猫魔法をかける。
「う~にゃ!」
私はジェームズさん達の花火に、爆発力や光、爆発音なんかを強化する魔法をかける。あ、花火の飛んでいく距離も伸ばさないと危険かもだから、それも強化しないとだね。私が魔法を使うと、花火にふわわわんって淡い光が纏わりつき、そして消える。うん、強化魔法は無事に成功したみたいだね。
「さくら様、強化魔法はかかったのでしょうか?」
「にゃ!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
ジェームズさん達が念話を使えてくれるとありがたいんだけど、残念ながら念話は使えないんだよね。だから、猫ボディだとコミュニケーションが難しい。ゼニアさんなら念話を使えるから、ゼニアさんがいれば通訳してもらえるんだけどね。
「よし、んじゃあ最後にみんなで2本づつ打ち上げるぞ!」
「「「「おお~!」」」」
ジェームズさん達が空に向けて10本の花火を同時に打ち上げる。すると、さっきまでとは全然強さの違う火の玉が10個、空に上がっていく。あ、あれ? さっきまでは上空に向かう途中の花火の光なんて、昼間の明るさのせいで全然目立たなかったのに、この花火の上空へと向かう光は、昼間なのにはっきり見えるというか、まぶしくさえ感じる。
「な、なあさくら様? なんか、俺の知ってる花火とはだいぶ違う気がするんだが」
「うむ、嫌な予感がする・・・・・・」
「確かに派手な方がいいとはいったけどさ」
「出港した後でよかったかも?」
「あの、あれ、何か対処しなくても大丈夫なんでしょうか?」
え? なに? 私が悪いの? 強化魔法を使うよって言ったのは私だけど、それを受け入れたのも打ち上げたのもジェームズさん達だよ? 強化しすぎなら、途中で言ってくれればそこで止めたのに!
どっぐおおお~ん!
そんなことを考えていると、上空ですさまじい爆発が同時に10個発生する。うわ~、凄い光と音と爆風だ。こんなに大きな船が、爆風のせいで思いっきり揺れてる気がする。
「さくら~!!! ジェ~ムズ!!!」
なんか遠くからあの短期な男が、私とジェームズさんの名前を凄い怒った声で叫んだ気がしたけど、きっと気のせいだ。うん、気のせいだ。こんなに大きな船が揺れたのも、きっと気のせいだよね。うん、全部気のせいだ。
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