第108話 ゼニアさん行きつけの宿屋さん
「ご利用ありがとうございました」
馬車に揺られること数十分、ついに目的地であるゼニアさん行きつけの宿屋さんに到着したみたいだ。馬車から降りた私の目の前には、豪華ででっかい建物が建っている。うん、外観を見ただけでわかるね。ここ、絶対お高い宿屋さんだ。
私とジェームズさん達が宿屋さんの外観に見とれていると、入口の前にいた従業員っぽい人が、ゼニアさんを見るなりすぐにこちらに駆け寄ってきて、ゼニアさんに話しかける。
「お久しぶりですゼニア様、本日はご宿泊ですか?」
「あら、覚えていてくれたの? 嬉しいわ。全部で7人になるのだけど、空いているかしら?」
おお~、なんかこのやり取り凄いね。そりゃあゼニアさんほどの美人さんなら、そう簡単に忘れないだろうけど、完全に覚えてましたよって感じで話しかけてきたもんね。これはもしかすると、一度でも宿泊したお客さんの顔と名前は、全部覚えてるてきなやつかな? だとしたらかっこいいね!
「もちろんでございます。シングルを7部屋でよろしいでしょうか?」
シングル7部屋か~、それが一番無難なのかな? でも、ジェームズさん達とはともかく、ゼニアさんとなら一緒のお部屋でもいいかな。別のお部屋にしても、きっとゼニアさんのお部屋に入り浸ることになりそうだし。
「いや待ってくれ、俺達は護衛なんだ。そういうタイプの部屋はないか?」
するとジェームズさんがゼニアさんと従業員さんの話に入り込む。護衛としては完全に別の部屋はまずいってことなのかな?
「それでしたら従者様の控室付きのお部屋をご用意できます。お部屋はシングル、ツイン共に空きがございますが、どちらのお部屋に致しましょうか?」
「そうね、さくらさんどうする? ツインでもいいし、シングルを二部屋でもいいわよ」
確かツインって、シングルベッドが2個あるお部屋のことだよね。なら決定だね。
「じゃあ、ツインがいいです」
「わかったわ。そう言う事なので、ツインでお願いね」
「かしこまりました。従者様用のスペースも十分にございますので、ご安心ください」
「ああ、助かるぜ」
「では、ご宿泊の手続きをさせていただいてよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いするわ」
その後、建物の中に入って宿泊の手続きをすると、すぐにお部屋へと案内される。料金は後払いみたいだから、凄くスムーズにチェックインが終わる。ふう、良かった。宿泊料に関する説明もちょっとされたけど、ひと月分前払いとかだと、手持ちが足りないところだった。
でも、お部屋へと入った私達には、決めておかなければならない大問題が発生していた。そう、お金の問題です。今この場にいる人数は全部で7人、だからといって7等分はダメなんです。だって、メインのお部屋を使うことになる私とゼニアさんと、護衛だからといって従者さんのお部屋を使うジェームズさん達だと、お部屋の質が違うからね。
「支払いは後払いということでしたが、どうしましょう?」
「あら、私が紹介した宿ですもの、私が払うわ」
ゼニアさんが凄く優しいことを言ってくれるけど、それはダメだ。ここは折半を持ちかけよう。
イーヅルーの街では人のお金で高級宿に泊まっていた私だけど、あの時とは事情が違う。だってあの時は、ポーションの代金の支払いに少し時間がかかるから、宿屋さんで待っててねってことだったからね。
「いえ、2人のお部屋なんですから、私も半額支払います!」
「待て待て待て、俺達はさくらさんの護衛ってていでここにいるが、さくらさんに雇われてるわけじゃないんだ、俺達も宿代はだす。7人居るんだから7等分でいいだろ?」
「良くないですよ。私とゼニアさんのお部屋と、ジェームズさん達のお部屋とじゃあ完全にグレードが違うじゃ無いですか」
「そうね、ここは私とさくらさんの折半ってことにしましょうか」
「そうですね、そうしましょう!」
私とゼニアさんの間で結論が出た気がするんだけど、ジェームズさんはなおも食い下がる。
「そうじゃ無いんだ。俺達な、バーナード隊長から2人からは絶対に恩を受けるなって言われてるんだよ」
え? 何それ?
「はあ、あの男の考えそうなことね」
私はよくわかんなかったけど、ゼニアさんは納得しているみたいだった。
「すでにさくらさんから船の中でポーションを貰っちまってるし、宿代までってなったら流石にまずい。それに、俺達の宿代は経費で落ちるんだ、むしろ全額こっち負担でも構わないくらいなんだ」
その経費の出どころがあの男ことバーナード隊長の個人的なお財布なら、遠慮なく全額負担してもらうところだけど、きっとロジャー将軍が管理している軍事費とか、イーヅルーの街の予算とか、そういうところから予算は出るよね。ならその選択肢はなしだよね。ロジャー将軍は良い人だからあんまり迷惑かけたくないし。
「すみません、宿代を部隊に申請するという話はもう通ってしまっているので、宿代を支払わないわけにはいかないのです。どうかここは譲っていただけないでしょうか?」
ジェームズさんだけじゃなくて、ジェームズさん達の中で一番おとなしいヒーラーのロビーさんも、ここは絶対に引けないって顔をしている。
うう~ん、これは悩ましい。
結局ちょっともめた後で、各々の支払い割合が決まった。流石に7等分には出来なかったので、私とゼニアさんがジェームズさん達よりもちょっと多く支払うことで決定した。
それじゃあ宿屋さんも決まったし、後はこの街のハンターギルドと、この街にある妖精の国のハンターギルド出張所に、しばらくこの街を拠点にしますって申請しに行かないとだね!
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