第122話 鬼が島のダンジョンの入口

 楽しくダンジョンに向かうためのお買い物をした翌日。今日はついにダンジョンに足を踏み入れる日です!


 武器、ハロルドスレイヤーよし! 防具、いつものキジトラ柄の迷彩服よし! イーヅルーの街で買ったローブもよし! 装備品、ダンジョン内に持ち込む保存食や調味料、お菓子、ついでにポーションを入れた魔法のカバンよし! うん、準備は完璧、まさに準備万端って感じだね!


「さくらさん、準備はいいかしら?」

「ばっちりです!」


 ゼニアさんもいつものドレス姿じゃなくて、今日は全身から強者のオーラが見えるような本気装備だ。ゼニアさんの本気装備は、インナーにモンスターの糸で編んだ防御力の高い全身タイツのようなものを装備し、その上にこれまたモンスターの素材で出来た防御力の高い布を巻きつけるという装備だ。ゼニアさんが言うには、体にぴったり服が密着していないと、衣擦れの音が気になるんだって。


 流石は高ランクハンターさんだよね。私は衣擦れの音なんて、気にしたことないよ。


「それじゃあ、ジェームズさん達も待っているでしょうし、行きましょうか」

「わかりました」


 私とゼニアさんは部屋を出て、前室にいるジェームズさん達と合流する。ジェームズさん達も既に準備が出来ていたようだ。5人揃って出迎えてくれる。そして、全員揃うと、今回のパーティーのリーダーであるジェームズさんが、みんなに確認をする。


「総員、準備はいいか?」

「「「「「はい!」」」」」

「今回は初のダンジョンと言う事で本格的にアタックするわけじゃなく、1泊2日のお試し的なものだ。だが、決して油断のないように!」

「「「「「はい!」」」」」

「では、総員出発!」


 私達は宿屋さんのお部屋を出て、宿屋さんにお願いして出してもらった馬車に乗ってダンジョンへと向かう。


 今回ダンジョン内部でのリーダーはジェームズさんが担当する。リーダーが私やゼニアさんじゃない理由は凄く簡単です。まず、ゼニアさんは基本的にはソロで狩りをするソロハンターさんだから、パーティーを率いて戦うことは苦手なんだって。


 もちろん私もリーダーなんて不可能です。狩りの時は基本一人だったし、イーヅルーの街で起きたミノタウロス達との戦いでは、ガーベラさんやボヌールさんと一緒にいたけど、リーダーはガーベラさんかボヌールさんで、私は指示に従って動いていたって感じだったもんね。


 というわけで、もともとジェームズさんが率いていた部隊に私という護衛対象と、ゼニアさんという遊撃戦力が加わるという形になりました。


 馬車に揺られること数分。私達はあっさりとダンジョンへと通じるこの島の一番内側の門へと到着する。この門がダンジョンからモンスターが溢れだした時、街を守る最初の防衛ラインになんだって。門の上にはダンジョンの入口に向けて大砲とかが置いてあるし、凄くものものしい。


「さ、皆さん進みましょう。門の先で受付があるわ」

「「「「「はい!」」」」」


 私とジェームズさん達がものものしい警備にぽかんとしていると、ゼニアさんが先に進むように促してくれる。


 気を取り直して受付に進んでいくと、受付には既にたくさんのハンターさん達かな? 武装した人達が並んでいる。


「はふう~、緊張してきました」

「「「俺もだ」」」

「うむ・・・・・・」

「僕もです」


 どうやらダンジョンを前に緊張しているのは私だけじゃなく、ジェームズさん達も同様のようだ。


「ふふふ。でも緊張のし過ぎは良くないわ。もっとリラックスしていきましょう。それに今日行くところはダンジョンの中でも上層よ、強いモンスターはほとんどいないわ」

「それは軍からも言われているから分かっているつもりだ。だけど、実際行ってみないことにはな」

「あら、意外と慎重なのね。でも、本当に大したモンスターは出てこないわよ。モンスターの種類はウサギ系や猪系を始めとした草食系のモンスターが主体ですし、その強さもイーヅルーの街の周辺のモンスターよりも弱いわ」

「ゼニアさんがそう言うなら、安心、なのか?」

「さ、おしゃべりはいったん中止よ。私達の受付の順番になるわ」


 受付のチェックはものすごく早いみたいで、私達の番にあっという間になる。


「ギルドタグを確認します。パーティーメンバーの方の分を全て確認させてください」

「私達は軍人なのですが、軍のタグで構いませんか?」

「もちろんです」


 私とゼニアさんがギルドタグ、ジェームズさん達が軍のタグを渡すと、受付の人はさらさらっと手続きを開始する。


「では次に、ダンジョン内の行き先と、ダンジョンにもぐる予定の日数を教えていただけますか?」

「今回はパーティーの連携を軽く確かめるだけですので、行先は上層、明日には戻ってくる予定です」

「かしこまりました。と言う事は、上層の中でも比較的近場になると言う事でしょうか?」

「そうなるかと思います。ゼニアさん、それでいいんだよな?」

「ええ、問題ないわ」

「ありがとうございます。手続きはこれで終了になります。お気を付けて」

「ああ、ありがとう」


 別にやましいところがあったわけじゃないんだけど、私達は無事にダンジョンの受付を突破した!


 受付からちょっと歩くと、山に空いた大きな洞窟が私達を出迎えてくれる。


「これがダンジョンの入口なんですね」

「ええ、そうよ。なかなか面白いデザインでしょう?」

「はい。何と言うか、凄い迫力です!」


 ダンジョンの入口は、ゼニアさんの言う面白いデザインというより、威圧感抜群のデザインをしている。何せ大きく開いた、牙の生えた人の口のように見えるからね。たぶんだけど、遠くの見晴らしのいいところから見ると、鬼が島の山の角も含めて、巨大な鬼が大きな口を開けているようなデザインになっていると思うんだよね。


「ふふふ、緊張する必要はないわよ。だって、このダンジョンの入口に生えている牙。これも人工物なんですもの」

「えええ? そうなんですか?」

「そうよ。一応資料によると、山の角と同じく、大昔は自然にこの形になっていたらしいから、人の考えたデザインというわけではないらしいのだけど、少なくとも今付いている牙は、人の手によって付けられたものよ」


 うう~ん、何だろう。山の山頂にある角に見える岩の件もだけど、いまいち締まらない島だよね。鬼が島って。



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