第121話 楽しいお買い物

「それじゃあ、あんた達の実力が分かったところで、本題のあたしの依頼をって言いたいところなんだけど、やっぱり止めておくよ」

「止めとくって、いいのかよ婆さん。前に言っていた下層の偵察をゼニアに頼もうとしてたんじゃないのか?」

「最初はその予定だったんだけどね。その強化魔法を前提に動くってなると、話が違ってくるのさ。そういうわけでゼニア、小娘、直接の依頼は止めるよ。ただ、あんた達がどこで釣りをするにしても、後で報告くらいはしてくれると助かるんだけどねえ」

「それはもちろんですギルマス」

「それじゃあ話は終わりだね。呼びつけて悪かったね」

「いえ、私も久しぶりにギルマスとお会いできてうれしかったので」

「はん、その割には直接訪ねてはこないんだね」

「それは、お忙しいと思ったからで・・・・・・」


 その後、ちょっと雑談をしたのちに私とゼニアさんはお婆さんギルマスのお部屋を後にした。


「ふう~、緊張しちゃいました」

「ふふふ、そうね。私も若い頃にお世話になったのだけど、今もあの人の前だと緊張してしまうわ」


 ゼニアさんの気持ちはすごくよくわかる。苦手とか嫌いっていうわけじゃなくって、なんかこう、対面すると背筋が伸びちゃう感じだ。


「この後はどうしましょうか?」

「そうね、ミシェルの回復魔法ならジェームズさん達が回復していてもおかしくないから、医務室に行きましょうか。それでその後お買い物をしましょう。ダンジョンにもぐるためのね」

「はい、了解です!」


 ゼニアさんはギルドの構造を熟知しているようで、私達はあっさりとジェームズさん達のいる医務室に到着する。


 コンコンコン。


「ゼニアよ。入るわね」

「どうぞ~」


 ノックをするとミシェルさんが答えてくれる。ドアを開けて医務室へと入ると、ジェームズさん達は既に元気になっているようだ。ベッドに腰かけ、サイモンさんも交えてなにやら真面目に話をしている。


「あら、すっかり良くなったみたいね。もう平気かしら?」


 そんなジェームズさん達を見ながら、ゼニアさんがミシェルさんに声を掛ける。


「ええ、もう大丈夫よ。しばらく観察していたけど、後遺症も無いみたいだから」

「看病を任せてしまって、申し訳なかったわ」

「気にしないで、そもそも私がギルドの訓練場にいたのは、トムとサイモンの看病のためのようなものですもの」

「ふふふ、そう言えばそうね」

「ところで、ギルマスの話はどうでしたか? 何か依頼をされました?」

「いいえ、最初は偵察の依頼を出す予定だったと聞いたのだけど、最終的には依頼の話は無しになったわ」

「そうなの? てっきりゼニアには下層の偵察を頼むのかと思っていたのに」

「少し事情があってね、ギルマスもそこを汲んでくれたみたいなの」

「あのギルマスにしては珍しいわね」

「ふふ、本当ね。それで、もしかするとそれに関することなのかもしれないけど、ギルマスが二人のことを呼んでいるわ」

「わかったわ。行かないわけにはいかないものね。サイモン、話し込んでいるところ悪いけど、ギルマスからの呼び出しよ」

「う~む、あまり気が乗らないが仕方ない。大人しく行くとするか!」


 ギルマスに呼ばれているミシェルさんとサイモンさんは医務室を後にする。そこで私は、サイモンさんを交えてジェームズさん達が何を話し込んでいたのかを聞いてみる。何かすっごく真面目に話し合いをしていたから、気になっちゃうんだよね。


「サイモンさんを交えて何を話していたんですか?」

「いや、大したことじゃないんだ。サイモンさんにアドバイスをもらいながら、あの毒の煙幕の対処法を話し合っていただけだ」


 むむむ、私対策の話し合いですと!?


「も、もしかして、もう毒の煙幕通用しませんか?」

「その通りだ。って言いたいところだったんだが、なかなかいい案が思いつかなくてな。残念だが当分の間俺達には毒煙玉が効くと思っていてくれ」

「そうだったんですね」


 ふ~、よかった。一回の対戦で対処されちゃったら、ちょっと悲しいもんね。


「そだ、私とゼニアさんはこれからダンジョンにもぐるための物資を買いに行こうとしているんですが、ジェームズさん達はどうしますか? もう動けますか?」

「ああ、俺達は大丈夫だ。みんな動けることは確認済みだ。本来ならゼニアさんとも模擬戦をって思っていたんだが、ゼニアさんはさくらさんよりは強いんだよな?」

「そうね、猫の姿のさくらさんならともかく、人の姿のさくらさんには負けないわね」

「そうか、それじゃあ模擬戦はまた今度にさせてもらおうかな。ダンジョンで経験を積んで、強くなったら勝負してくれ」

「ええ、もちろん構わないわ」

「うし、それじゃあ買い物に行くか!」

「はい! ゼニアさん、案内お願いします」

「ええ、任せて頂戴」


 私達は医務室を後にして、ギルドの中を歩いていく、そしてゼニアさんの案内のもと到着したのは、まるでスーパーマーケットやホームセンターのような広さを持つ、巨大な売店だった。


「えっと、ここはギルドの売店・・・・・・、ですよね? 凄く広くないですか?」

「ふふふ、本当に広いわよね。このギルドは所属するハンターの数が多いから、このくらいは無いと対応できないって言う事らしいわ」

「おまけにぱっと見品ぞろえもいいな。食料品に武器に防具、野営道具まであるのか」

「ええ、ダンジョン内で必要な物が一通り揃うようになっているのよ。ただ、武器防具をはじめ、置いてあるものは汎用品がメインになるから、ある程度以上の性能のものを求めるのなら、専門のお店に行く必要があるわ」

「そうなのか? 俺達にとっては十分な品質のものに見えるぜ」

「ああ、同感だな・・・・・・。それじゃあ、まずは何から買う・・・・・・?」

「やっぱここは保存食じゃねえか? 最初は1泊2日って話だったが、食い物はぜってえ必要だろ?」

「そうですね。軍から支給されている保存食は持っていますが、多めに持って行った方がいいでしょうし」

「それじゃ、食い物はお前らに任せるぜ。俺は矢を見てくる」

「はい、分かりました」


 ふんふ~ん。おっ買い物~、おっ買い物~。まず必要なのはご飯でしょ。それからお菓子に~、飲み物に~、あ、ここでも香辛料セットが売ってるね! これは是非とも購入せねば! うう~ん、お出かけ前の準備って、どうしてこうも楽しいんだろうね!



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