第120話 お婆さんギルマスとの話し合い
あの後ギルドの職員さんが持ってきてくれたお茶とお菓子をもりもり食べながら待っていると、お婆さんギルマスが資料と共にやってきた。資料が空中に浮かんでいるところを見ると、きっとサイコキネシスの魔法だね。
「さて、待たせたね」
「お、もう来たのか婆さん。別に待っちゃいねえぜ、茶も菓子も美味いしな」
「ええ」
「お茶とお菓子ありがとうございます」
「そうかい、それは良かったよ。ふむ、トムとゼニアが遠慮しない性格なのは知っていたが、小娘もかなり食ったようだね」
ふっふっふ~、今は人間ボディだからこの程度しか食べてないけど、猫ボディで食べていいんなら私の胃袋はブラックホールですよ!
「さて、本題に入る前に自己紹介をしていなかったね。あたしの名前はハンナ、もうわかっていると思うけど、この街のハンターギルドのマスターをしている」
「私はさくら、薬師です。ハンターランクは4になります」
「ああ、知ってるよ。あちこちから連絡が来ているからね。妖精の国のハンターとしてもランク4、最近この国に出回っている高ランクポーションの作り手にして、イーヅルーの街でのミノタウロス戦では妖精の国のギルドのハンターとして野戦病院で大活躍したヒーラーだね」
「大活躍って程ではないですけど、野戦病院ではヒーラーをやらせてもらっていました」
「そうかい。本来ならこの街でも同じことをしてほしいところではあるんだが、この国の軍とハンターにも役割ってものがあるからね、出来る限りお前さんの手は借りないようにするつもりだよ。だから基本的には自由にしてくれていて構わないんだが、いざという時は頼りたいからね、動向の把握くらいはさせてもらうよ」
「はい、わかりました」
「それで、まず聞きたいことは小娘、あんた何が目的でこの街に来たんだい? こっちに来ている情報だと、海産物と海のモンスターを自らの手で狩りに来たって書いてあったんだが、まさかそれだけが目的じゃあないんだろう? 正直に言いな」
えっと、正直に言うも何も、100パーセントそれが目的なんだよね。でも、食い意地だけでこの街に来たって、今思うとちょっと恥ずかしいな。でも、先日受付の人にも話しちゃったし、いまさら取り繕ってもしょうがないよね。
「ええと、先日受付の方にも話したのですが、その二つが目的で間違いありません。もう少し付け加えるなら、この街にはお醤油とお味噌も出回っているそうなので、そちらも購入出来たらとは思っていますが」
お醤油とお味噌に関してはドワーフの国からの輸入品のため、ここ鬼が島よりも、もっと商業的な港湾都市の方が流通量が多いらしいんだけど、この街でも十分手に入るらしいから、是非とも買いたい。
「本当にそれだけかい? それじゃあまるで食い意地だけでこの街に来たように聞こえるよ?」
分かってはいたことだけど、自分で思うのと人に指摘されるのだと、恥ずかしさが全然違うね。改めて他人に指摘されると、すっごく恥ずかしい・・・・・・。でも、答えないわけにはいかない気がするので、素直に答える。
「はい、その通りです・・・・・・」
あうあう、やっぱり恥ずかしい。この街に来るのはアオイとの会話の流れで、だったと思うけど、どうにも猫ボディの時って、食欲がすっごく旺盛になっちゃうんだよね。出来れば人間ボディの時の私と、猫ボディの時の私のことは切り離して考えてほしいんだけど、そんなの無理だよね。
私が恥ずかしくてうつむいていると、ゼニアさんが追加の説明をしてくれる。
「それに関しては間違いないです。私がイーヅルーの街の妖精の国のギルドで聞いた話では、アオイさんという猫さんから、普通の海産物よりも海のモンスターの方が美味しいという話を聞いたために、この街に行きたいという流れになったと聞いていますので」
ううううう、これは本気で恥ずかしい。その通りなんだけど、間違いなくその通りなんだけど~!
「なんださくら、食い意地だけで今この国の中でも特に危険と言われるこの街に来たってのかよ。はっはっは! なかなか愉快な性格じゃねえか! 気に入ったぜ!」
ううう、トムさんまで~。
「その様子だと本気で海産物だの海のモンスターだののためだけに来たみたいだね。呆れた・・・・・・。といいたいところだが、そのおかげでいざという時のハイレベルなヒーラーの確保が出来たんだから、あたしから言う事は特にないよ。それじゃあ次の質問だ。ダンジョンに行くのは小娘とゼニア、それに訓練場でのびていた軍人共5人の計7人で間違いないかい?」
何でだろう、お婆さんギルマスの圧が結構上がった気がする。ゼニアさんやジェームズさん達と組むことが気に入らないのかな? でもその通りだし、ここは素直に答えるしかないよね。
「はい、その通りです」
「本気かい?」
ええ!? 本当に何かまずいことがあるのかな? お婆さんギルマスからのプレッシャーが更に上がっちゃった。でも、本気だしそれ以外に答えようがないよね。
「はい、7人で行く予定だったのですが、まずかったでしょうか?」
「受付には中層はおろか下層にまで行くといったらしいじゃないか。小娘、言ってることの意味が分かるのかい?」
もうプレッシャーというより、お婆さんギルマスの機嫌がどんどん悪くなっていく。ううう、何かおかしなこと言ったかな?
「え、えっと・・・・・・」
ダメだ、何で怒ってるのかよくわかんない。
「ギルマス、ご懸念は分かりますが、私は問題無いと思っております」
すると、ゼニアさんが私とギルマスの会話に割って入ってくれる。流石ゼニアさん!
「本気かい? ゼニア」
「はい、ギルマスの懸念は私達のパーティーの強さに関してですよね?」
パーティーの強さ? そんなこと考えたことも無かったかも。
「ああ、その通りだ。あんた達のパーティーが、ランク6の7人組なら下層まで行って魚を釣ると言われても文句ひとつ言う気はしないよ。ゼニアがかなり力をつけたことは一目見ただけでもわかったからね。だが、そこの小娘は薬師やヒーラーとしては優秀でも、本来の猫の姿でもハンターとしての腕前はランク4なんだろう? そして訓練場で倒れていた軍人共は大負けに負けてもランク3相当の実力にしか見えなかった。そんなパーティーでどうやって下層まで行くつもりだい? 中層で死人が出るのがオチだよ」
ここのダンジョンって、そんなに危険だったんだね。危ない危ない、私はてっきりゼニアさんとジェームズさん達がいれば怖いものなしって思ってた。
「ギルマスのご指摘はごもっともです。事実軍人の彼らはイーヅルーの街では門番をしており、外でモンスターと戦うには戦闘力不足と判断されている方々です。このパーティーに彼らがいる理由自体、ダンジョンでの戦闘力というよりは、街中でのトラブル防止のためですので」
「それじゃあ何か? あんたは6人の子守をしながらダンジョンの下層を目指すっていうのかい? ふざけるんじゃないよ!」
ついにお婆さんギルマスは激昂したと言っていいほどの大声を上げる。その姿と声に私と、この話に直接関係無いはずのトムさんがびくっとする横で、ゼニアさんは涼しい顔をしている。
ゼニアさん、何か秘策があるのかな? ダンジョンの敵の強さとか、ゼニアさんの本気がどの程度なのかはわかんないけど、私とジェームズさん達の6人の実力は、自慢じゃないけどすっごく低いよ。何せ6人がかりでもあの男ことバーナード隊長や、ハロルド先生にボロ負けする自信があるからね。もちろんゼニアさんにだって勝てる気がしない。
「さくらさん。猫の姿に戻って、私に強化魔法をかけてくれないかしら?」
すると、ゼニアさんが冷静に私に猫ボディに戻って強化魔法をかけるように言ってくる。なるほど! その手があったね! そしてこの手なら何の心配もいらないね!
「はい! わかりました!」
ぽふん!
「にゃ~!」
私は猫ボディに戻ってゼニアさんに強化魔法をかける。私とゼニアさんは相性抜群だからね! 強化魔法のかかりが素晴らしくいいんだよね! 私の強化魔法のかかったゼニアさんは、それはそれはそれはそれは強いのです!
実際に戦っているところは見たことないけど、私の強化魔法のかかったゼニアさんを見て、あのアオイが驚いていたくらいだからね!
「ギルマス、分かりますか?」
そう言いながらゼニアさんは右手の人差し指に魔力を込める。すると、お婆さんギルマスとトムさんの顔色が変わる。
「この力は・・・・・・」
「おいおいゼニア、マジかよ・・・・・・」
どうやらお婆さんギルマスもトムさんも、ゼニアさんプラス私の強化魔法の効果にびっくりしているみたいだね! それどころかよく見るとお婆さんギルマスもトムさんも、凄い汗をかき始めている。むっふっふ~、これぞ私とゼニアさんのタッグパワーなのですよ!
「すみません、少し圧が強かったようですね」
そう言いながらゼニアさんは人差し指に集めた魔力を霧散させる。
「一度さくらさんに強化魔法をかけてもらえば効果は1日持つので、下層以降の攻略にはこの力を頼るつもりです」
「なるほど、それほどの力があれば、6人を守りながらでも下層まで難なく行けるだろうね」
「はい。それから、さくらさんは妖精の国のハンターとしてもランク4ですが、妖精の国のハンターギルドから、好きなランクにしていいと言われてランク4になっております。ですので、本来のランク4ハンターとでは、少し意味合いが違います」
「好きなランク、かい?」
「はい。好きなランク、です」
「なるほど、あたしの心配は杞憂だったようだね」
ゼニアさんの説得にお婆さんギルマスも納得してくれたみたいだね。流石はゼニアさん!
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