第123話 鬼が島のダンジョン、上層

 私達は鬼の口に見えるダンジョンの入口の中へと入っていく。う~ん、どこをどうみても洞窟にしかみえないけど、この奥に海のモンスターもいるんだよね。地底湖みたいな感じな場所があるのかな?


 そんなことを考えつつも洞窟を歩いて行くと、目の前に不思議なものが現れる。なんて言ったらいいんだろう。ふよふよした膜?


 しかも、ふよふよしてて分かりにくいけど、膜の奥には草原? 森? そんな感じのものがあるような感じがする。でも、洞窟内になんで緑があるんだろう?


「ゼニアさん、あのふよふよした膜? みたいなものは何ですか?」

「あそこが上層へと通じる場所よ。詳しくは行ってみてのお楽しみね!」


 むう、ゼニアさんが意地悪だ。


「嬢ちゃん、俺らも初めてだけどよ、こんなに近くにあるんだ。聞くより行ってみたほうが楽しそうじゃねえか! ってなわけで、斥候である俺が一番に行くぜ!」

「いや、ここは俺が一番に行くべきだろう・・・・・・。俺ならあの膜の向こうに何があっても耐えて戻ってくることが出来る・・・・・・」

「いやいや、ここはリーダーである俺がだな」


 ジェームズさん達は好奇心旺盛だね。ぱっと見凄く不気味なものに見えるのに・・・・・・。でも、私もちょっとわくわくしちゃってるかな? とはいえ、積極的に1番に行きたいとは思わないけどね!


「ふふふ、上層への入口には流石に危険はないわ。みんなで行きましょう」

「「「「「はい!」」」」」


 さらに洞窟を進んでいくと、ふよふよした膜がどんどん近づいてくる。私達以外にもかなりの数のハンターさん達がいるけど、そのほとんどは特に気にした様子も無くふよふよした膜のようなものへと近づいていき、そしてそのまま膜を抜けてその先へと進んでいく。


 私達みたいにふよふよした膜みたいなものに興味津々なハンターさんや、ちょっと腰が引けているハンターさん達もいるけど、きっとあの人達は私達同様、他の場所から来たハンターさん達なんだろうね。


 そんな風に周囲の様子を伺っていた私だったけど、ついに私達は、手を伸ばせばふよふよした膜に触れるところにまでやってきた。


「よし、お前ら、準備はいいか!? って、ゼニアさん?」


 ふよふよした膜の直前で、ジェームズさんが気合を入れようとしたみたいなんだけど、ゼニアさんはさも当然のようにあっさりとふよふよした膜の向こうへと行ってしまう。そしてゼニアさんに置いていかれた私達の周りでは、こんなところで気合を入れてるの? って感じで、微笑ましい視線で私達を見てくる地元のハンターさん達がいっぱいいた。


「ゼニアさん待って~」


 私は恥ずかしくなって速攻でゼニアさんの後を追う。当然ふよふよした膜に突撃することになるんだけど、ふよふよした膜に当たっても、不思議と何も無かった。でも、ふよふよした膜を抜けた私の目に飛び込んできたのは、洞窟の景色ではなく、晴れ渡る空と大草原だった。


「す、凄いです! なんで洞窟に草原があるんですか?」

「おお~、これは最初はびっくりするな」

「は~、話にゃ聞いていたが、こいつはびっくりだ」

「うむ・・・・・・」

「本当に草原になってるな」

「凄いです!」


 ジェームズさん達も私のすぐ後にふよふよした膜を突破したみたいで、今は私の横にいるんだけど、私達はみんなで目の前の光景に驚いていた。


「ダンジョンが、地中で高まった自然魔力が、地上に向けて噴出して出来ることは知っているかしら?」

「はい」


 どこで聞いたのか忘れちゃったけど、地中の自然魔力が地上に噴き出すっていうあたりが、火山の噴火理由と似たような感じだなって思ってたから、印象に残ってるんだよね。


「ただ、地上に向かって地中の自然魔力の通り道が出来ても、どうしても魔力が滞留しやすい場所というのが出来てしまうのよ。そうすると、ここみたいに滞留した自然魔力によって、異次元が出来てしまうことがあるそうなの」

「ということは、さっきのふよふよした膜みたいなものは、次元の境目ってことですか?」

「ええ、そういうことになるわ。ちなみにさくらさんの言うふよふよした膜のことを、この街のハンター達は次元の扉と呼んでいるわ」

「次元の扉、かっこいいですね!」

「ふふ、そうね。それからこの上層はね。鬼の体のような形をした島になっているの。はい、これが上層の地図よ」


 ゼニアさんに見せてもらった地図には、まさに鬼の体の形をした島が描かれていた。今私達がいる場所は、首に当たる位置かな。そして私の見ている胴体側は手前が草原、奥が森になっている。反対側、本来なら頭のある位置は、おお~、海だ。海が広がってる! そして海といったらやっぱり海産物だよね!


「ゼニアさん、もしかしてこの海でも釣りって出来るんですか?」

「ええ、できるわ。海中のどこかで、ダンジョンの外の海とつながっているらしいから。ただ、上層での釣りはあまりお勧めしないわ。上層で釣れる魚は外と同じだから、わざわざ運びにくい上層で釣るよりも、外で船を借りて釣ったほうが間違いなく釣れるからね」

「わかりました!」


 ダンジョンの外での船釣りより釣れないとなると、私の釣りスキルじゃきっとなにも釣れないもんね。ここでの釣りは諦めよう。それにそもそも私は大物狙いだからね! もっとダンジョンの奥の獲物を狙わないとだよね!


「な、なあゼニアさん。ふと疑問に思ったんだけどよ。この海をずっと向こうに進んでいったら、どうなるんだ?」

「その答えは簡単よ。首の上の方向にまっすぐ進んでいけば、足の方に出れるわ」

「ってことは、この空間はループしてるってことか?」

「ええ、そうなるわね。ただ、この島に対して海は広いから、足の方に行くにしても、島を進んだ方が近いわよ」

「なるほど。ただそうなると、この異次元から出るには、ここからじゃないといけないってことだよな?」

「ええ、鬼が島に戻るにはこの次元の扉を使うしかないわ。ただ、このダンジョンの地上への出入り口が、一箇所とは思われていないの。まだ探索されていない未知の領域からなら、大陸へ抜けるルートがあるのではと考えられているわ。ちなみに中層への次元の扉は、この島の左右の足にあたる位置にあるわ」

「それはまた、スケールのデカい話だな」

「そうね。とはいえ、あくまでも学者の仮説だけどね」

「いや、勉強になった! ありがとう!」

「よし、それじゃあ俺達も本来の目的のために始動するとしようか。お試しとはいえ、しっかり1泊2日、俺達の実力がどこまで通じるのか確かめるぞ!」

「「「「「お~!」」」」」



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