第124話 1日の移動距離
「それじゃあゼニアさん、一泊二日で行ける範囲でおすすめの場所を教えてくれ」
「ええ、構わないわ。それじゃあ地図を見てくれるかしら」
「わかったぜ」
私はゼニアさんの地図をのぞき込む。今ここにいるのは全部で7人。みんなで1枚の地図を見るのはちょっと窮屈かな? って思っていたんだけど、いつまでたってもジェームズさん達は地図を覗きに来なかった。
私は不思議に思ってみんなの方を見ると、ジェームズさん達はそれぞれ地図を持っていた。
「あれ? ジェームズさん達地図を持っているんですか?」
「そりゃあ持ってるだろ。地図が無いんならともかく、あるのに用意しないって選択肢は無いだろう?」
あうあう。言われてみればその通りなんだけど、それなら教えてくれても良かったのに・・・・・・。
私が一人地図を持っていないことにショックを受けていると、ゼニアさんがフォローしてくれる。
「ふふ、さくらさんは持っていなくても大丈夫よ。さくらさんは猫の姿でなら地図なんて不要でしょう?」
流石はゼニアさん、私以上に私のことを分かってるよね! 私は地図も無く、野営道具も無しでサバイバル生活をしていた、生まれながらの野生の生き物! 最近忘れがちだけど、野生のプロであるこの私に、文明の利器など不要だったね!
「はい! その通りです!」
ジェームズさん達にはちょっと呆れたって感じの視線を向けられたけど、そんな視線は気にしない。
「ふふふ、それじゃあ地図を見ながら説明するわね。まず、一泊二日で行ける範囲となると、かなり限られるわ。猫のさくらさんの移動速度でなら余裕で下層まで行けるでしょうけど、今回は人の姿で行くのよね? となると、良くてムナの森に軽く入ったあたりかしら?」
そう言いながらゼニアさんは、地図にあるムナの森を指さす。ムナの森は、鬼の体の形をしたこの上層の島の、丁度胸のあたりに広がる森だ。
「胸毛の森って、この地図を見る限りかなり近場だと思うんだが、そんなに進めないものなのか?」
ジェームズさんはムナの森のことをいきなり胸毛の森と言い出した。そりゃあ地図を見ると丁度、鬼の体の胸のあたりに広がる森だから、そう言いたくなる気持ちも分からなくもないけど、そこにはデリカシーというものがあると思うのですよ。
「違うわジェームズさん、ムナの森よ」
「いや、どう見てもこれは・・・・・・」
「ムナの森よ」
「わ、わかった」
ジェームズさんはゼニアさんに圧をかけられると、あっさりと引き下がった。ふう、あとちょっとで私からも威圧が飛んじゃうところだったよ。
「それで、どうしてムナの森止まりなんだ? ちょっと近いと思うんだが」
「この地図、正確な大きさが分からないからって縮尺が書いていないのだけど、上層の島は結構広いのよ。ムナの森までだいたい20キロほどあるわ」
20キロ!? え、ちょっと待ってほしいです。1日で20キロも歩いたら、絶対に足が棒になっちゃう。私だけじゃなく、ジェームズさん達も嫌そうな顔をしている。それはそうだよね、ジェームズさん達の方が私より絶対に装備重いと思うし。
「20キロ、ですか・・・・・・」
「さくらさんは辛くなったら猫の姿になりましょうね。そうすれば私が肩に乗せてあげられるわ」
「なら大丈夫です!」
ふ~、良かった良かった。私の猫ボディは、猫としてはちょっとわがままボディだけど、それでも猫のサイズだからね! こういう時は便利だよね! 小動物万歳!
「20キロか・・・・・・」
私が一安心していた横で、反対にこの中で一番絶望的な顔をしているのはアレックさんだ。でも、無理もない。なにせアレックさんの役割はジェームズさんパーティーの盾役だ。全身を覆う金属鎧に、大きな盾、どう考えてもアレックさんの装備での移動は辛い。
ただ、そんなアレックさんをよそに、他の人達はどんどん話を進めていく。
「となると、このムナの森まで一直線に向かっている背骨街道っていう街道を使ってムナの森を目指すのがいいのか?」
「いえ、背骨街道を使うのはお勧めしないわ」
「理由を聞いても?」
「もちろんよ。この背骨街道なのだけど、中層へ行くベテランハンター達が多い影響もあって、その名の通り街道のようになっているわ。ただ、この手の街道があるのは中層の入口までで、下層にはないのよ」
「なるほど、下層に行くことを目的にしている俺達にとっては、イージーすぎるってことだな」
「ええ。それに、この街道沿いは新人ハンターの狩場になっているから、獲物も少ないのよ」
私達の横を通っていくハンターさん達を見ても、多くのパーティーが荷車みたいなものと一緒に行動をしている。確かに荷車と動くことを考えると、街道沿いを中心に動いた方が良さそうだよね。
「だが、街道じゃ無い場所を移動するとなると・・・・・・」
「そうね。移動時の負担は、街道を移動するのと比べて明らかに増すわね」
「諦めろアレック、今回はそういったことを含めての、お試しのダンジョンアタックなんだからな」
「ああ、戻ったら俺の装備も見直した方がいいのかもしれないな」
アレックさんは覚悟を決めたようだね。でも、私だってうかうかしてられない。猫ボディになってゼニアさんの肩に乗れば解決するとはいえ、それは最終手段だ。その前に、自力で20キロを移動する方法を考えないとだね。
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