第6話 マイにゃんこフレンド、アオイ
さ~て、早速街の中の探索だ。お塩と胡椒は是が非でも手に入れたい。今は無一文だけど、幸い売れそうなものに心当たりがある。そう、私お手製のポーションがある! 胡椒は高いかもしれないけど、流石にポーションのほうが高いよね!
そんな風にショッピングを楽しみたかったんだけど、私が今いるのは街から少し離れた森の中だ。
なんでって? 崖の上で街を発見した時はテンションが上がったし、意気揚々とここまでやってきたんだけど、城壁と城門を見たら、ちょっと腰が引けちゃったというか、冷静になったというか。とにかく、今はどうやったら穏便に街に入れるのか、調査中だ。
今いるのは、正確には街の手前300mくらいのところだ。なぜ300mも手前かといえば、この地点で森が切れているからだ。ここから先は草原になっていて、身を隠せるところがない。
街は崖の上から見た通りの城塞都市で、20mくらいの高さの城壁に囲まれている。城壁の上と門には兵隊さんまでいるし、城壁の上には備え付けの武器なのか、でっかい大砲みたいなものまである。すぐ横はモンスターのいる森だし、このくらいの備えがないと安心できないのかな。
とにかく、この世界での猫のポジションがわからない限り、迂闊に近づくのは危険だ。門番さんは人間っぽいので、人間ボディになれば問題ないのかもしれないけど、私は身分証明書なんて持ってないし、無一文だからね。
モンスターのいっぱいいる森から、武器もお金も身分証明書も持っていない、キジトラ柄の迷彩服を着た弱そうな女が一人。・・・・・・怪しすぎる。私が門番なら絶対警戒する。となれば、やっぱり門の観察をして、門に出入りする人たちが、どうやって街に出入りしているのかを知る必要がありそうだ。というわけで、私は門の観察によさげな木の上に登って、観察を開始する。
「はい、次の人」
門番が一人一人チェックをしながら、街へ入る人の列を処理している。街に入る人たちは、例外なくなにかを門番に見せている。あれが身分証明書なのかな。ダメだ、ここからじゃ上手く見えない。目がダメなら耳だね。私は猫イヤーをピコピコ動かして、門番さんと街へ入る人の会話を盗み聞きする。
「よう」
「おう、今回は大物じゃねえか」
「まあな。ただ、運ぶのにちょっと苦戦したぜ。本来は昨日の夕方には戻る予定だったんだが、こんな時間になっちまった。はあ、腹減ったぜ」
「はは、そいつは災難だったな。ま、無事で何よりだ」
その後も、会話を盗み聞きしていたけど、どうやら門番さんの知り合いも多いみたいだ。これだと、なおさら私は警戒されてしまいそうだ。しかも、さっきから門を出入りしているのは、剣や槍を手に持ち、皮鎧を着ている人か、杖を持ったローブを着た人ばかりだ。これだと私の恰好はすんごい浮いちゃいそうだ。
うう~ん、本当にどうやって街に入ろう。空を歩けるわけだから、門を突破するだけなら楽勝だ。でも、流石に空中を歩いて街に入るのは目立つ。地上から見えないほど上空にまで上がるっていう手もあるけど、下降中に見られる可能性は排除できない。ここは、夜を待つべきなのかな。
そんな風に私が考えていると、突如声をかけられた。
『おい、お前、何してるんだ?』
「にゃ!?」
『下だよ、下』
下? あ、下に黒猫がいる。それよりこれ、キジトラさんがしゃべってた時みたいに頭の中に直接声が聞こえてくる。
『あれ? お前動物の猫だよな? 念話くらいつかえるだろ?』
『えっと、これでいい?』
流石はイージーにゃんこライフだ。やろうとしただけであっさりと成功した。
『なんだ、知ってるじゃねえか。んで、お前はこんなところで何してるんだ?』
う~ん、何となく悪い猫だとは思えない。というか、猫好きの私からすれば、そもそもにゃんこは全部いい子だ。悪い子なんて存在しない! それに、なんか友達になれそうな気がするし、ここは素直に相談しちゃおう。
『うん、街に入りたかったんだけど、どうすればいいのかなって観察してた』
『なんだ、そんなことか。俺達猫は別にチェックなんて受けねえから、どうどうと門から入って行けばいいんだぜ』
『そうなんだ』
『ああ。全部が全部ってわけじゃないんだが、そこの街が所属してる人間の国は、俺達の国と仲いいんだよ。だから、基本的には出入り自由だぜ。不安なら一緒にいってやろうか?』
『うん、お願いします』
『そうだ、お前名前は? 俺の名前はアオイってんだ』
名前か~、どうしようかな。日本人としての名前はあるけど、猫の名前として使うのは、なんか違う気がする。あ、もしかして、キジトラさんが私のことを君って言ってたのも、その関係なのかな? だとしたら、ここは猫としての名前を決めるべきかな。
『ん? どうした? なんか変なこと言ったか?』
『ううん。私さくらっていうの、よろしくね』
とっさにさくらって名乗っちゃったけど、いいよね。この世界で目覚めたのは、桜の木の下だったんだし。
『へえ、お前も植物の名前なんだな。俺も植物の名前なんだぜ』
『そうなんだ!』
アオイか~、ちょっとかっこいいね! 印籠を作って、お付きの人に、目に入らぬか~! ってやってもらいたいね。
『うし、じゃあ行くか』
『うん』
私は木の上から飛び降りる。とはいっても、ダイレクトはまだ怖いので空中歩行をつかってぴょんぴょん降りる。
『ほう、お前空中歩行を使えるのか、この程度の高さでわざわざそれを使う必要はない気もするが、やるじゃねえか』
『一気に飛び降りるには、ちょっと高くないかな?』
『そうか?』
私は改めてアオイを正面から見る。アオイはグリーン系の色の目を持つ黒猫だ。話し方からしてきっと男の子だね。体も私より一回りくらい大きいんじゃないかな。私の頭が、アオイの顎くらいの高さになりそうだ。
『ま、行くか、付いてこい!』
『うん』
アオイはどうどうと門に向かって歩き出す。そんなアオイの後ろを私はついて行く。
『そういや、街への入り方がわかんないって、さくらは猫の国から来たわけじゃないのか?』
『私は猫の国から来たよ?』
キジトラさんのいたところは猫の天国って言ってたし、間違いではないよね。
『でも、猫の国から来たのに街への入り方がわかんないって、なんかトラブったのか?』
『うん、気付いたら一人だったんだ』
『そうか、苦労したんだな・・・・・・。わかんないことがあったら何でも聞きな。俺が協力できることは協力してやるよ』
あれ? アオイがなんか優しい目で私のことを見てくるけど、選択肢間違った? 嘘は言ってないんだけどな。桜の木の下で気が付いた時は一人だったし。でも、協力してくれるならこれほどありがたいこともないよね。
『ありがとう!』
『いいってことよ』
歩きながら話をしていると、あっさり門まで到着する。アオイは人の列を無視して横を堂々とスルーして行く。私ももちろん付いて行くんだけど、日本人的なメンタルのせいか、ちょっと罪悪感を感じちゃうね。
あとちょっとで門っていうところで、門番さんがアオイに話しかけてきた。猫のアオイとすら知り合いとは。この門番さん、凄まじいコミュニケーション能力だ。
「お、アオイじゃねーか、おかえり。って、なんだ? 今日はガールフレンドと一緒なのか?」
『ちがうっつーの』
どうやらアオイも人の言葉がわかるようだけど、人のほうは念話を理解できないようだ。っていうか、私はなんでさも当然のように人の言葉も猫の言葉もわかってるんだろ? う~ん、たぶんこれも、考えてもダメな奴だね。
「じゃあ、今日は干し肉を2個やらないとだな。ほらよ」
おお~、すごい。門番さんのコミュニケーション能力もすごいと思ったけど、まさか通りかかっただけで干し肉をもらえるなんて、アオイってもしかして、有名猫なのかな?
アオイはサイコキネシスで門番さんから干し肉を2個受け取ると、私に1個くれた。
『ほらよ。中に入ったら落ち着いた場所で食おうぜ』
『うん』
『そうそう、俺達みたいな念話を使える人間はあんまり多くないんだ。まあ、その内機会があったら合わせてやるよ』
『うん、ありがとう』
「にゃ~」
私は干し肉のお礼に門番さんにひと鳴きしてから、街の中へと入っていく。
門を抜けた先は広場になっており、結構多くの人が行き交っている。
『こっちだ、付いてこい』
アオイは門前広場を壁沿いに少し進み、城壁に付いている石の階段を登っていく。私もそれに付いて登っていくと、城壁の上に出た。
『おっし、付いたぜ。ここが城壁の上だ。ここで日向ぼっこしながら干し肉食おうぜ』
『うん!』
もぐもぐもぐもぐ。
私はアオイと仲良く干し肉をかじる。なにこれ、すっごく美味しい。私の中の剣と魔法の世界の干し肉のイメージって、保存食だからって塩いっぱいのしょっぱいものを想像していたんだけど、この干し肉は全然違う! 塩だけじゃなくて、胡椒なんかの香辛料まで使って作られている。
お塩、香辛料、ううう、美味しい、懐かしさもあって感動して泣きそうだ。というか、人間ボディだったら絶対泣いてた。
『どうよ? 美味いだろ? あの門番は実家が肉屋でな、いつも美味い干し肉をくれるんだよ』
『うん、すっごく美味しい。最近生肉しか食べてなかったから』
『そうなのか? そうだ。火魔法は使えるか? こうして軽くあぶっても、美味いんだぜ?』
そういうとアオイは、火魔法で出した火で、干し肉をあぶり始めた。こ、これは、美味しそう! 私も早速真似しよっと。
『凄い! 美味しい干し肉が、更に美味しくなった!』
『ははは、だろ? さってと、人間の街が初めてってんなら、まずは、街での買い物の仕方を教えてやるよ』
『いいの?』
『協力してやるって言っただろ? それに俺としても同胞が増えるのはうれしいしな』
『ありがとう!』
『買い物をするには、先立つものがないとだよな。さくらはもう朝飯は食ったのか?』
『うん、ここに来る前に食べたよ』
『じゃあ、夕方一緒に狩りに行くか。ちょっと多めに獲物を仕留めて、それを売って金にしようぜ!』
『うん!』
『じゃ、俺は適当なところで夕方まで寝てるから、夕方にここ集合な!』
『うん、私も適当に街を見学をしながら、この辺でお昼寝してるね』
『おう、わかったぜ。じゃな!』
『またね~』
こうして私は、無事に街に入れ、更に、猫の友達も出来た! あ、でも、アオイは友達っていうよりも、兄貴分って感じかもね。
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