第62話 新たなる相棒
「いつでもどっからでもかかってきな!」
「じゃあ、行きます!」
私は正面から走って近づく。
午前中の授業で教わったんだよね。ランクの低いモンスター相手なら駆け引きなんていらないけど、知能の高いモンスター相手や、人間相手の時は、フェイントとかを混ぜるといいんだって。
私が剣で一番しっくりくる攻撃は上から下へ思いっきり振り下ろす攻撃だ。だから、横なぎをすると見せかけて、頭を叩く!
私はこれ見よがしに剣を横に振りかぶって、横から攻撃すると見せかけて、食らえ! 必殺の振り下ろし!
か~ん!
この感触、クリーンヒットだね! ちょっと手が痛かったし、思わぬ衝撃に剣を手放しちゃったけど、それは次回修正すればいいね。初めてのフェイント攻撃のせいで、テニスで言うところの手打ちみたいな感じになっちゃった気がするんだよね。こう何て言うんだろう、力を乗せ切れてない感じ?
「お~い、なんかまるで一本取った風な顔してるけど、お前、剣を手放して負けだからな?」
「あれ? 今の攻撃、頭に当たりましたよね?」
「いやいや、お前が振り下ろした攻撃を俺が剣で防いだら、お前があっさり剣を手放しただけだろ? ってか、俺、お前の剣を弾き飛ばそうとか、そういうことはしようとしてなかったぜ? ただ単に受けただけだからな?」
あれ? おかしいな。そもそもフェイントを入れたんだから防げるはずがないのに。さては、やせ我慢だな。
「お~い、なに変な顔してるんだよ。もしかして、お前の今の変な振り下ろし攻撃、あれ、フェイントのつもりだったのか?」
「フェイントのつもりというか、フェイントですよ」
「あのさ、確かに俺は午前中の授業で、対人戦においてフェイントは効果的だって言ったけどよ、そもそも攻撃が遅すぎて、見てから余裕で反応できるぞ。それと、攻撃の途中で目をつぶるな。そんなことだから自分の剣が当たったかの確認もできないんだ」
「むう」
目をつぶったことに関しては、必殺剣が当たった時に頭から血が出たりするのを見たくなかったからなんだけど。まあいっか、次はしっかりと見て、その上でがっつりその頭に剣が当たるところを観察してやる!
本当はこのまま2回戦って言いたいところだけど、次はアルバート君の順番だよね。そう思い下がろうとしたんだけど、先生が呼び止める。
「あ~、さくら、ちいっと戦闘時間が短すぎて参考にならなかった。剣拾ってもう一度打ち込んで来い。今度は目くらい開けとけよ」
「わかりました」
私は猛攻を仕掛ける。横に切ると見せかけての振り下ろし!
でも、先生は剣を横にして上に掲げてこれを防ぐ。
か~ん!
いたた。さっきと同じような衝撃が手を襲い、思わず剣を手放しちゃった。あれ? 今の衝撃、さっきと一緒の衝撃だよね? ってことはもしかして、さっきの攻撃も当たってなかった?
そんなばかな!
私がショックを受けていると、アルバート君が剣を拾ってきてくれて、私に渡してくれる。
「ほら、剣。まあ、がんばりな」
「ありがとう!」
アルバート君から激励と共に剣を受け取る。よし、応援されたら答えないわけにはいかないよね! やってやる!
「まだまだ戦闘時間が短すぎて参考にならん、どんどん打ち込んで来い」
「むうう!」
私はむきになって次々と攻撃を繰り出す。最初のと今回は油断しちゃったけど、もう剣を手放さない。私は既に見せた横と見せかけて上を封印し、上に見せかけての横とか。横に見せかけての突きとかを繰り出す。
でも、その攻撃はハロルド先生にはぜんぜん当たらない。
「なんで? なんであたんないの!?」
「ま、年期の違いだな。お前さんだってポーション作りに関しちゃあ、超1流なんだからわかるだろ? ド素人が熟練者に勝てるかよ」
そんなこと言われたって知らないよ。そもそも私の薬師としてのキャリアはまだ1月くらいしかないし!
「私は!」
突きで襲い掛かる。が、避けられる。
「最初から!」
今度は横なぎだ! でも、これも避けられる。
「上級ポーション作れました!」
そして、全力の振り下ろし~!
か~ん!
私の振り下ろしはハロルド先生に軽く防がれ、またもや剣は私の手から離れる。
くう!
「さくらさん、最初から上級ポーション作れたとかマジ?」
「ええ、何となく作り方がわかったので、試したら出来ましたよ」
イージーにゃんこライフな猫ボディでだけど。
「ほ~、師の真似をしたのか知らんが、いきなり上級ポーションを作れるとはすげえ、いたっ」
ハロルド先生が私をほめてくれたけど、そんなことがどうでもいい奇跡が起きた。さっき弾き飛ばされた私の剣が、ハロルド先生の頭に落ちてきたのだ。
「もしかして、一本取った?」
「いや、今のは」
おおおおお!
「やった~!」
「お~い、聞いてるのか? お前、今のまぐれ勝ちで自分が強くなったなんて思うなよ? そのうち痛い目見るぜ?」
「わかってます。先生と戦って、私の論理的シミュレーションに欠点があることに気が付きましたから」
「ほう、どんな欠点に気付いたんだ?」
「私の論理的脳内シミュレーションに出てきた人物の運動能力と、実際の私の運動能力の差です」
「なるほど。想像よりもはるかにお前が動けなかったってことか。まあ、ありがちだな。んで、参考までに誰の運動能力を参考にしたんだ?」
「ボヌールさんです」
「いやいや、ボヌールさんの運動能力が前提って、そんなんバーナード隊長が相手でも正面から切りかかるだけで勝てるぞ?」
「そこは流石に私のほうがパワーがないってわかってますから、フェイントだったんです。でも、そもそも全部足りてなかったみたいです」
脳内シミュレーションにボヌールさんが出てきたのはしょうがないよね。だって、誰かが本気で戦っているところを見たのって、あの時のボヌールさんの戦闘が、最初で最後だったんだもん。
「ま、欠点がわかったんならいいか」
「あの、先生。この剣貰ってもいいですか?」
「こんな練習用の木剣、どうすんだ?」
「この前相棒の剣が裏切ったので、その代わりです。きっとこの子は、今後も私に勝利をもたらしてくれると思うんです。今みたいに」
「相棒の剣? ああ、最近バーナード隊長がもってる剣か。う~ん。こんな木剣じゃ代わりになるとは思わないが、いいぞ、もってけ」
「ありがとうございます!」
やった!
こうして私は新たなる相棒、その名も、魔剣ハロルドスレイヤーを入手した!
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