第14話 門番さんはジェームズさん
「さあ、街へ行こう! って言っても、人間ボディで森を歩くのは不可能に近いから、猫の姿で近くまで行くんだけどね」
ぽふん!
私は猫の姿になり、来ていた服を畳んでバッグに入れる。剣は、入れれないね。ガーベラさんから借りてる魔法のバッグも無理だね、中に入ってる1リットルのすり鉢ポーション10個は、持ち歩ける重量じゃない。これも寝床の桜の木の上においておこう。
自作のウサギ皮のバッグと、剣をサイコキネシスで浮かせて、私は走る。
走ること小一時間、街の傍の道路が見える位置に到着した。さて、人間ボディになって着替えないとなんだけど、こんな森の中で着替えるのは、正直ちょっと怖い。ここは、迷彩服の上から着ちゃおう。うん、そうしよう。
ぽふん!
私は人間ボディになると、キジトラ柄の迷彩服の上から自作の服を着ることにした。そしてバッグを肩にかけ、剣も肩にかける。そして、一刻も早く森から飛び出す。
「う~ん、やっと異世界で人間としての生活が始まるのね」
私は足取り軽く街を目指す。図書室の本の情報によると、今私の歩いている道路は、街の3個あるうちの西側の門から伸びる道路で、西にある別の街へと続いているんだそうだ。イーヅルーの街は、北と東はモンスター溢れる崖と山なんだけど、南に河を下るか、西へ陸路を進めば、この国の他の街があるんだって。だから、この道路は他の街への交易のための道路なんだそうだ。
今も商人さんなのかな? 布のかかった荷馬車が横を通っていった。強面の人達も乗っていたけど、たぶんあの人は悪党じゃなくて、ハンターなんだと思う。
歩き続けること30分、私はようやく街へと到着した。猫の時とは違って、私はしっかり列に並ぶ。
なんかちょっと肌寒いね。これは、重ね着をして正解だったのかもしれない。そういえば、日本の春だって、今でこそすっごい暑いけど昔は今ほど暑くなかったっていうもんね。
そして、待つこと数分、ついに私の番が来た。
大丈夫、落ち着け私。図書室でシミュレーションはばっちりだ。何一つ疑われることなく、この街に入れるはずだ。
「こんにちは。身分証明書をお持ちでしたら、提示をお願いします」
私に話しかけてきたのは、干し肉をくれたあの優しい門番さんだ。幸先いいなって思ったけど、今日は猫ボディじゃないし、流石に干し肉はくれないかな?
「こんにちは。申し訳ないのですが、特定の団体への所属をしておりません。本日は薬を売りにまいりました」
そう言いながら私はバッグの中を開けて見せる。日本人の感覚だと、身分証明書なしでいいの? って思うかもしれないけど、図書室知識では、無い場合は無いっていうことで問題ないんだって。ちなみに私の特定の団体うんぬんっていうのは、身分証明書がないことを言う時の、言い回しの一種なんだって。本に書いてあった文章を一字一句間違えずに覚えたから問題ないはずだ。
「別室にてポーションの確認をさせていただいても構わないでしょうか?」
「はい」
そう言って私は門番さんと一緒に、門についている小部屋へと入っていく。小部屋は、うん、特に装飾もないシンプルな小部屋だ。そこには2脚の椅子と、一つのテーブルが置いてある。
「こちらにお座りください」
「はい」
私は促されるまま椅子に座ろうとしたけど、背中に背負ってた剣がちょっと邪魔だった。改めて剣を肩から外して、椅子に座ると、ポーションをどんどん取りだす。
「1本で結構です。では、確認のため少しお時間いただきます」
「はい」
そういって門番さんは小部屋を出ていく。
ふふふ、完璧ね! いまのところ完璧じゃないかしら! ポーションの品質も問題ないはずだし、怪しまれる点も、不審な点も一切ないはずよ!
コンコンコンッ。
そんなことを考えていたら、部屋がノックされる。
「はい」
「お待たせして申し訳ありません」
そう言って門番さんと、もう一人、ちょっと豪華な服の人が現れた。
「警備部隊の隊長をしております、バーナードと申します。薬師様、このようなお部屋にお通ししてしまい大変申し訳ございません。部屋を変えて、いくつかご質問をさせていただいてよろしいでしょうか?」
おお~、ダンディーな雰囲気の人だ。それより、薬師様だって! 薬師様だって! 私の話術、絶好調ね!
「はい、何でもお聞きください。私は薬師のさくらと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。では、早速移動させていただきます」
そう言ってバーナードさんは歩き出す。私も荷物と剣を持ってその後に続こうとすると、門番さんが荷物を持とうとしてくれる。
「お持ちいたします」
「ありがとうございます」
本にはこの世界のマナーというか、この国のマナーとして、目上の人からの褒美は断らずに素直に受けるのがいいっていうのがあった。私は日本人的な、いえいえ悪いですとか、そう言うやり取りは封印して、素直に門番さんに荷物と剣を渡す。そして、てくてくとバーナードさんの後に続いて歩いていく。
階段を登ったりして、ちょっと豪華な扉の部屋に案内された。扉の上には司令官室と書かれていた。ここは、バーナードさんの執務室なのかな? 中に入ると、中もなかなか豪華だった。そして、促されるままに応接セットに腰を掛ける。
「この部屋は、街をかけた防衛戦になった際に、西門を守る司令官が滞在することになっている部屋になります。薬師様を招くにあたり、これ以上の部屋が西門にないため、ご容赦ください」
「いえ、私には十分すぎる部屋です。ありがとうございます」
コンコンコンッ。
「お茶をお持ちしました」
「入れ」
すると、これまた門番さんより豪華な、でも、バーナードさんほど豪華じゃない服の人が現れ、お茶とお菓子を出してくれる。
な、なんだろう。この国では薬師は重宝されるっていう話だけど、ちょっとVIP待遇すぎて怖くなってきた。
「どうぞ、大したものではございませんが、旅のお疲れもおありでしょうしお寛ぎください」
「ありがとうございます」
うん、お茶もお菓子も美味しいね。これ、ギルドの食堂でいろいろ食べてなかったら、お茶とお菓子で感動で泣いてたね。
その後も当たり障りないような話を、バーナードさんとする。そして、会話も温まってきたころに、バーナードさんの顔が真剣なものになる。
「さくら様。こちらのポーションが貴重なものだとは重々承知しております。その上で大変厚かましいお願いになるのですが、こちらのポーション、何本か我々軍にお売りいただくことは出来ないでしょうか?」
「はい、今持っているのは10本になるのですが、1本でも10本でも、バーナードさんの必要な本数お売り致しますよ」
「あ、ありがとうございます! では、10本すべて買わせていただけないでしょうか?
「はい、構いません」
私はカバンから10本のポーションを全部出して、机に並べる。
「ありがとうございます! それで、お代になるのですが、おいくらほどになるのでしょうか?」
「私は物価に疎いですので、相場でお願い出来たらありがたいです」
これも本に乗っていた、かっこいい薬師の言い回しだ。今日の私、完璧すぎるね!
「ありがとうございます。ただ、大変申し上げにくいのですが、今すぐ全額支払えるような蓄えが我が隊にはございません。出せる限りの前金を今支払いますので、残りはさくら様が街に滞在中のご宿泊先にお持ちするということでよろしいでしょうか?」
「はい、構いません」
「では、前金としてこちらをお受け取りください。残りは近日中にお支払いいたしますので、滞在先を伺ってもよろしいでしょうか?」
「すみません。この街は初めてですので、まだ宿が決まっていないのです。もしよろしければ、おすすめの宿屋さんを紹介してもらえないでしょうか?」
「もちろんご紹介させていただきます。ジェームズ!」
「は!」
「さくら様を湖の貴婦人にご案内しろ」
「かしこまりました! 隊長の名前を使っても?」
「当然だ。なんならもっと上の名前を出しても構わん、責任は俺が取る!」
「は!」
バーナードさんに言われて、ジェームズさんが私を案内してくれるみたいだ。それから門番さん、ジェームズって名前だったんだね。これは絶対に覚えておかないとだね。
「では、こちらのジェームズが宿屋にご案内いたしますので、何かございましたら、ジェームズに何でもお申し付けください。また、この街に滞在中に何かございましたら、我々警備部隊にいつでもご連絡ください」
「はい。いろいろと便宜をはかってくださり、ありがとうございます。では、失礼いたします」
私はバーナードさんと挨拶をして部屋を出る。ポーションも売れたし、宿屋まで案内してもらえるなんて、ラッキーだね! 今日の私、絶好調!
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