第2話 イージーにゃんこライフ

 ん、ここは・・・・・・。


 私が目覚めた時に真っ先に目に入ってきたのは桜の木だ。どうやら私は仰向けで寝ていたみたいだ。桜の木には、見事な花が咲いている。


 そっか、私、異世界に転生したんだった。まずはここがどこか確認しないとだね。


 私はんん~っと伸びをしながら起き上がって、周囲を確認する。桜の木以外だと、そばには小さい池がある。それから、日当たりの良さそうな所には、大きな岩もある。あったかそうで、お昼寝するのに良さそうな岩だね。それ以外は、こういう森に詳しくない私には、森の中ということくらいしかわからない。でも、鳥のさえずりをはじめ、生き物がたくさんいそうな音がする。


 さて、あんまりのほほんとしてるわけにもいかないよね。まずはサバイバルの基本、水の確保だ。私自身はサバイバルの経験なんてないんだけど、TVとかだと、まずは水って言ってよく言うよね? 一番身近な水は、この池だ。この池の水が飲めるか、確認しないとね。私は右手、左足、左手、右足の4本の足を使って池へと歩いていく。水はすごい奇麗だ。池の底からははこぽこぽと水が湧いているようだから、この池は湧き水によって出来ている池のようだ。うん、このきれいな水なら飲めるね。 


 そしてふと、水面に移る自分の姿に目がいった。水面に移る私の姿は、どこからどう見ても、猫そのものだ。半分どころか、100%猫だ!


「にゃ~!?」


 あれ? 声が。


「にゃうなうなあ」


 声も猫の声しか出ない!?


 おかしい。そういえば、さっきも日当たりのいい岩がお昼寝に良さそうって思ったり、自然に4足歩行をしてた。でも待って、私は岩の上でお昼寝なんてしないし、4足歩行もしたことなんてない。なにこれ、まさか私って、内面まで猫になっちゃったってこと?


 私は自分の右手を見つめる。間違いなく、猫の手だ。しかもこの毛色、キジトラ? 待って、これで目の色がヘーゼルなら、思いっきりあのキジトラさんだよ!?


 嘘? 魂の半分以上が猫になってるとは言われたけど、まだ人間の部分もあったはず。猫が嫌ってわけじゃないけど、私は、人間なんだよ!


 ぽふん!


 すると、突然ぽふんっという効果音とともに、私の体が人間のそれになった。


「よかった~。このまま猫として一生を過ごすことになるのかと思った」


 あ~、あせった。ちょっと涙出てきちゃった。でもしょうがないよね。いくら私が猫好きだからって、猫として一生を過ごしたいのかと言われれば、それはちょっと違う。


「そだ、これって、猫になりたいって念じれば猫に戻れるのかな?」


 ぽふん!


「にゃ~!」


 おお~、これはすごい。私はいつでも猫と人間の二つの姿を変えられるってことか。そうだ、猫の姿があのキジトラさんっぽいのはいいんだけど、人間の姿はどうなってるのかな? 元の私の姿なのかな? もう一度戻ってチェックしないと。


 ぼふん!


 どれどれ、髪の色は・・・・・・、茶色? まさか、猫の姿の時の毛色に引っ張られているの? 目の色は黒よね? ダメだ。水面だと細かい造形や色彩は確認できない。服装は、キジトラ柄の迷彩服もどきって。まあ、猫の姿の時服着てないからって、裸だったわけじゃないだけいいのかな?


 改めて、冷静に状況を分析しよう。まず、この世界は剣と魔法の世界って言ってたし、私の記憶を覗いて私の好きそうな世界だってキジトラさんが言ってた。つまり、ほぼ間違いなく人間はいると考えていいだろう。となると街を目指したいところだけど、街がどこにあるのかわからない。ここには水場もあることだし、ここを拠点に少しづつ縄張りを広げて、街、あるいは街に通じるであろう人工の道を探したほうがいいね。


 となると、本格的にここを中心にサバイバルをする必要があるわけだけど、その場合、必要なのは衣食住だね。まずは服だけど、幸い猫の姿なら服はいらないし、人間の姿でもキジトラ柄の迷彩服があるから大丈夫かな。続いては住処だけど、このさくらの木は、ぱっと見は日本にあった桜の木と同じっぽいけど、なんか大きいんだよね。たぶん猫の姿でだったら、この上で過ごすことも出来るかな。となると問題は食事か~。水はこの池があるからいいとして、ご飯をどうするかだ。自然豊かな森みたいだし、桜が咲いてるってことは春だから、なにか果物でもあればいいんだけど。


 取り敢えず、池の水が飲めるか確認しないとだね。


 私は池に近づいて手で水をすくう。くんくん。匂いはしないね。うう~ん、この水が安全なのか、いまいち判断が出来ない。そういえば、さっき猫の姿でこの池に近づいたときは、この池の水が飲めるって思ったんだよね。なんでだろう? もう一度猫の姿になればわかるかな?


 ぽふん!


 これは・・・・・・。不思議なことに、猫の姿になったとたん、この池の水が安全な水だと本能的に理解できた。


 ぺろぺろぺろぺろ。


 うん、この池の水は美味しい。まさに天然水だね。私がぺろぺろと池の水を飲んでいると、ちょっと離れた場所に変わった鳥が降りてきた。なんだろ? 全身がバチバチいってる。電気を纏った鳥? おお~、すごい、まさにファンタジーって感じだね。


 あれ? なんでだろう。あの鳥が凄く美味しそうに感じる。私は本能の赴くままに身を低くしてゆっくり忍び足で鳥との距離をつめる。


 じりじり。


 大丈夫、まだ鳥はこっちに気付いてない、のんきに水を飲んでいる。なぜかは良くわかんないけど、まだまだ接近できることだけはわかる。


 じりじり。


 鳥はまだ水を飲んでいる。私の猫としての本能が、まだ行けると言っている。


 じりじり。


 ここだ! 私は一気に走り出し、その鋭い爪で鳥に襲いかかる。私は鳥に何の抵抗もさせずに、あっさりと仕留めることに成功した。何これ、すごくない? もしかして、これが、あのキジトラさんが言っていた、猫として生きるにはイージーな私の力ってこと? でも、初心者の初狩りでこれなら、確かに猫としてはイージーライフをおくれるのかもしれない。まさしくイージーにゃんこライフだ!


 死してなお鳥の羽はバチバチいってるけど、イージーにゃんこライフな私の猫ボディはそんなのものともせず、鳥の羽をむしる。羽をむしり終わったお肉は、生肉なのに凄くおいしそうに見えた。私は本能の赴くままに、その肉にかぶりつく。うん、美味しい。猫の味覚だと生肉でも十分すぎるほど美味しい。これは、ちょっと楽しくなってきたかもしれない!


 このバチバチ鳥、よくよく考えると、私の猫ボディよりも大きい鳥だったんだけど、ぺろりと一匹たいらげることが出来た。は~、満腹満腹。


 これならご飯の心配はいらないね。でも、塩コショウがあれば、この鳥だってきっともっと美味しくなるし、早く街に行きたいな。


 太陽の位置的には、お昼前どころか、朝っぽかったんだけど、お腹一杯食べた私は眠くなり、桜の木の上で眠りに付いた。



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