第118話 浄化の魔法

「みじぇる、みじぇるうう!」

「がいぶくをおお!」


 トムさんとサイモンさんは、ゼニアさんとミシェルさんの手によって毒の煙幕の中に突き飛ばされたけど、自力で飛び出してきた。


 流石はランク6のハンターさん達だね。涙とかのせいでお顔が凄いことになっちゃってるけど、毒の煙幕の中から凄まじいスピードで脱出して来た。このスピードはもしかすると、私の投擲技術とどんぐりサイズの毒煙玉の効果範囲の広さだと、正面から戦ったら捉えられないかもしれない。


「こら、じっとしてなさい! 回復魔法をかけられないでしょう?」

「「ヴぁがった」」


 ミシェルさんの回復魔法によってあっさりと二人は回復する。毒煙玉の毒成分は玉ねぎの目にしみる成分や唐辛子の辛み成分だからね。回復魔法でそれらを皮膚や粘膜から除去するのはそれほど難しいことじゃないみたい。私のポーションでもあっさり治るし、そこはしょうがないね。


「それで二人ともどうだったかしら?」

「正直これはきついな。全身を襲った痛みで一瞬正気を失いかけたぜ」

「うむ。全身に痛みが走った瞬間に全力で横に飛んだから脱出できたものの、そうでなかったらまずかったかもしれんな」

「ああ。今回はいろいろと知ってたから良かったが、予備知識なしで突然これを食らったらと思うと、ちいっと背筋が凍るぜ」

「それじゃあもう満足よね? この毒の煙幕、私の魔法で除去するわよ?」

「ああ、俺は満足したからいいぜ」

「うむ。我輩もだ」

「わかったわ。それじゃあやるわね。ピュリフィケーション」


 ミシェルさんが杖をかざして魔法を使うと、ミシェルさんの杖から淡い光が現れる。ミシェルさんが杖を振るうと、その光が毒の煙幕の方へと向かってゆっくりと動き出し、そして光が毒の煙幕と当たると、光の当たった部分から煙幕がどんどん消えていく。


 ピュリフィケーションの魔法は学校で教わったから私も知っている。効果はその名の通り浄化。汚れをはじめ術者が浄化したいものをなんでも浄化できるっていう便利な魔法だ。といっても、汚れを消滅させるような物騒なことが起きているわけじゃないの。きらきらと淡く発光する光は、魔法で作り出した吸着作用のある粒子らしくって、その粒子を汚れに向かって飛ばすと、粒子が汚れに吸着しつつ汚れをぐるりと取り囲むみたいなんだよね。つまり作用としては、汚れを浮かして囲んで洗い流す、洗剤の界面活性剤のようなものみたいなの。


 この魔法、使える人は結構多いみたいで、日常生活の中でもお洗濯からお皿洗い、あるいは体を洗ったりと、とっても便利な魔法なんだって。だから、人によっては生活魔法なんて呼ぶ人もいるみたい。


 かくいう私もこの魔法はサクッと使えました。しかも凄いことに、学校の他の子よりも上手だったのですよ! きっと日本人だった時の記憶で洗剤の作用の仕方を知っていたから、イメージしやすかったのかもしれないね。


 じゃあこの毒の煙幕も消せたんじゃないの? って思われるかもしれないけど、それは無理というものです。だって私の場合、魔力量が絶望的に少ないからね・・・・・・。


「ふう、無事に除去できたようね」


 ミシェルさんがピュリフィケーションを使った毒の煙幕があった場所には、大量の白い灰のようなものが降り積もっていた。この白い灰みたいなものはピュリフィケーションの魔法で除去された毒の煙幕の成れの果てなんだけど、その内自然の魔力へと還るみたいなので放置で大丈夫だそうです。


 うう~ん、私の毒煙玉がこうもあっさり無力化されちゃうなんて、侮れないね。


「それじゃあ次は回復魔法をお願いね」


 そう言ってゼニアさんは白い灰の積もった地面の、不自然な膨らみを見る。うん、5つの膨らみがあるから、きっとあの下にジェームズさん達がいるね。


「ゼニアも人使いが荒いわね」

「あら、ミシェルにとっては大した魔力消費ではないでしょう?」

「そうでも無いわ。あの毒の煙幕、拡散するのを防ぐためか、その場にとどまり続けようとする魔法がかかっていたわ。そのせいで通常の毒の煙幕よりも浄化するのに魔力を持っていかれたわ」

「それは流石さくらさんの毒の煙幕といったところね」


 こうやってほめてもらえると素直に嬉しくなっちゃうね。でもそっか、ランク6のハンターさんでも除去にそれなりの魔力が必要なんだね。


「よし、それじゃあ俺達が運んで来てやるよ」

「あら、ありがとう」


 トムさんとサイモンさんによって、ジェームズさん達がピュリフィケーションの灰の中から運ばれてくる。ジェームズさん達はうめき声を上げていることから、どうやら完全に意識が無くなったわけじゃないみたいだ。


「顔の表情は酷いですけど、ぱっと見はそんなひどい感じでも無いですね」


 トムさんとサイモンさんが毒の煙幕から出てきたときは、涙とか色々出ててお顔がひどいことになっていたけど、ジェームズさん達は涙すら出していない。これは正直ちょっと意外だ。私が一度間違って自滅仕掛けた時も、涙と鼻水がやばかった気がするのに、ジェームズさん達は毒に耐性があるのかな? 流石は軍人さんだね!


「さくらさん、それは違うわ。ほら、ズボンの裾からもピュリフィケーションの灰が出ているでしょう?」


 そういってゼニアさんがズボンの裾を指してくれる。確かにズボンの裾から大量の灰が出ているようだ。でも、ズボンの中に煙幕がそんな大量に入るのかな?


「そういえばそうですね。何故か大量の灰が出てますね。どうしてでしょうか?」

「それは簡単な理由よ。私がピュリフィケーションの対象に、汚物関係も含めたからなの」


 そしてミシェルさんがズボンの灰の原因を教えてくれる。汚物もピュリフィケーションの対象? って言う事はこのズボンの裾から出ている灰の正体って・・・・・・。


「え、もしかしてこれ」

「最後まで言ったほうがいいかしら?」

「いえ、結構です!」

「ふふふ、彼らの名誉のためにもあえて触れないでおきましょうね。恐らく覚えていないでしょうから」

「了解です!」


 うん、これは墓場まで持って行くレベルの秘密だね。私ならこんな大恥耐えられないもん。



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