第126話 猫の乗り物?
私の目の前で乗り物へと変化を始めた金属たちにみんなの注目が集まる。そして少し待つと、淡い光と共に最初の1両が完成した。
「ほほう、こいつは魔法自動車か!? さくらの嬢ちゃん、中々良いもん作れるじゃねえかよ!」
真っ先に反応したのは槍使いのジャックさんだ。もしかしてジャックさん、乗り物好きなのかな?
『ふっふっふ~、どうだ参ったか!』
「さくらさん、この中で念話が通じるのは私だけよ」
あ、そうでした。念話の使える人は少ないんだった。他の2両はまだ完成していないけど、もう猫ボディでいる必要は無さそうなので、人間ボディに戻ろうかな。
ぽふん!
「んでさくらの嬢ちゃん、こいつはどうやって動かすんだ?」
「え~っと、どうやって動かすんでしょう?」
ちょっと待ってほしいの。私だって車の動かしかたくらい知ってるけど、そもそもこの車が日本のそれと同じ操作で動くかなんてわからない。ハロルドスレイヤーみたいに勝手に動く可能性だって十分にある。
「おいおい、使い方わかんねえのかよ」
「と、取り合えず、いろいろ調べましょう!」
「ああ、そうするか」
ジャックさんだけじゃなく、ジェームズさん達がみんなで車に乗り込んで、いろいろと調べ始める。
私はまず外見を見る。うん、可愛いというよりもカッコいい車だ。車の種類としてはスポーツカーだね! しかもこの見た目、国産車じゃない。このタイプの車、本物を見た記憶はあまりないけど、映画とかゲームでなら見たことあるから知ってる。アメリカン、マッスルカーっていうやつだよね。
具体的な車名? それはわかんない!
うん、でもかっこいいね! 私がそんなことを考えていると、運転席のあたりをがさごそしていたジャックさんが何かを発見したようだ。
「よっしゃ、説明書を見つけたぜ! 何々? なんとかかんとかヘルキャット? これがこの乗り物の名前か?」
このパターン、もしかしてこの車って、名前にキャットが付いてるから出来ちゃったの? でも、凄く速そうだし、これでいいかな? ううん、待ってほしい、あんまり速い車は私じゃ運転できるかが不安だ。それに、スポーツカーってマニュアル車のイメージがあるんだよね・・・・・・。
説明書を手にしたジャックさんの話を聞き続けていると、どうやら地球にある車と操縦方法は一緒みたい。それなら大丈夫かな? マニュアルだと上手く乗れるかわかんないけど、歩くよりは絶対にいいよね! って思っていると、ジャックさんが少し残念そうに話し始める。
「うう~ん、さくらの嬢ちゃん、悪いんだがこれはダメだな。こいつは最低地上高が低すぎる。道になっている部分や、この辺りの草原程度ならまだ走れるかもしれないが、この先のことを考えると、ちょっとな」
なるほど、それはそうだよね。道なき道を進んで行くには、いわゆるSUVみたいな車高のある車じゃないとだよね。残念だけど、この子は諦めるしかないかな?
「それじゃあこの車は後で分解して土に戻すとして、2台目に期待しましょう」
「いやいやいや、魔法自動車は高価な乗り物なんだぞ? 土に戻すくらいなら俺にくれ!」
「おいジャック、お前が魔法自動車好きなのは知っているが、いくら何でもそれはダメだ!」
すると、ジャックさんがこの子が欲しいと言い出す。でも、ジェームズさん的にはそれはダメみたいだ。でも、私としてもせっかく作った子だから、貰い手がいるなら貰ってほしい。
「えっと、せっかく作った子なので、貰ってもらえるなら貰ってほしいです」
「お、流石はさくらの嬢ちゃん、分かってるじゃねえか!」
「うう~む、わかった、さくらさんがそう言うなら、取り合えず受け取ることは許可しよう。ただし、地上に戻ったら上に相談するからな」
「く、まあそれは当然か。わかったぜ」
「それじゃあ帰りに取りに来れるように、後で保管用の倉庫でも建てますね」
「おう、わりいな!」
そんな会話をしていると、丁度2台目が完成したようで、もぞもぞしていた金属の塊が動きを止め、柔らかい光を放つ。
そしてその中から現れたのは・・・・・・、これ、どこからどう見ても戦車、だよね?
「ほう、こいつは履帯か! まさか履帯式の魔法自動車を作るとはな、さくらの嬢ちゃん、なかなかマニアックじゃねえか! だが、これなら走破性は問題ないな。しかも大砲に機関銃までついてるってことは、武装馬車みたいな感じか? くう~、すげえ、すげえぜさくらの嬢ちゃん! よし、早速さっきみたいな説明書を探すぞ!」
ジャックさんを先頭に、ジェームズさん達は嬉々として戦車に乗り込み始める。えっと、これどうしよう。もし運転しろって言われても、戦車の動かし方なんてまったく知らないよ? というか、そもそも乗り方すらわかんないんだけど、ジャックさん達、上の方から内部に入っていったみたいだけど、どうやって中に入ったんだろう?
私が一人戸惑っていると、ゼニアさんが上から声を掛けてくれる。
「さくらさん、この乗り物屋根がないみたいだけど、これで完成なの?」
「え? 本当ですか?」
屋根が無いって、戦車だって普通屋根付いてるよね? 疑問に思いながらも私も戦車によじ登る。すると、ゼニアさんの言うように本当に屋根がない。まさか戦車にもオープンカータイプがあるなんて、ちょっとびっくりだ。
「え~っと、このタイプの乗り物は戦車と言われていて、普通屋根が付いているものだと思うのですが、何故かついていないですね」
「さくらの嬢ちゃん、説明書を見つけたんだが、そこに書いてあるぜ。まずこいつは戦車って乗り物じゃなくて、対戦車自走砲って乗り物だとよ。んで、屋根の無い理由は索敵のためだそうだ。みんなで周辺を見れるように屋根がないらしい。それでこの車両の名前は、さっきの車と一緒でヘルキャットだってさ」
なるほど、予想はしていたけど、この子も猫ちゃんなんだね。
「んで、さくらの嬢ちゃん、運転は出来るのか?」
「無理です! 最初の車はまだしも、この子みたいな乗り物は乗ったことありません!」
「おし、それじゃあ運転は俺がしていいよな?」
「はい!」
「ジェームズ達もいいか?」
「ああ、もちろんだ。ただ、一つ問題があるな」
「問題?」
「この乗り物、5人乗りっぽいぞ? ほら、ここに、コマンダー、ガンナー、ドライバー、ラジオオペレーター、ローダーの5人乗りって書いてあるだろ?」
「む、本当だな。となると二人乗れないのか」
「待ってください。確かに内部に乗れるのは5人のようですが、タンクデサントといって、車外に乗ることも可能なようですよ」
「へえ、それじゃあこの1両で全員の移動が可能ってわけか。となると誰がどこに乗るかを決めないとだな」
う~ん、どうしようかな。とりあえずコマンダーシートっていうのはジェームズさん用のシートっぽいから無しでしょ。それから、運転出来る気もしないからドライバーシートも無しでしょ。大砲を撃つガンナーシート? うう~ん、当てられる気がしないから無しだね。となるとラジオオペレーターとかっていう役割のシート? うう~ん、ラジオをオペレートするってなにするんだろう? よくわかんないからこれも無しで。残るはローダーシートっていうところだけど、ローダーって大砲に砲弾を入れる役割か~、完全に力仕事っぽいし、これも無理だね。あ、あれ? 私の座る場所、もしかしてない?
「さくらさんは座りたい場所あるかしら?」
「今考えていたのですが、座れそうなシートがないです」
「それなら私と二人外にしましょうか。さくらさんの魔法で車外に椅子を取り付けることは出来るかしら?」
「はい! それくらいならきっと出来ます!」
うんうん、何もしない専用の外部シート、まさしくベストポジションだね!
「ジェームズさん、私とさくらさんは外部に椅子を増設してそこに座るから、車内は任せてもいいかしら?」
「いいのか?」
「気にしないで、パーティーメンバーで動かしたほうが、きっとスムーズに動かせると思うからね」
「すまないな、譲ってもらっちゃって」
そしてジェームズさん達はあっさりと乗る場所を決める。
コマンダーシートはみんなの隊長、ジェームズさん!
ガンナーシートは斥候で弓使いのジョーさん!
ドライバーシートは槍使いにして魔法自動車大好き、絶対この椅子は譲らないと宣言したジャックさん!
ラジオオペレーターの席にはヒーラーのコビーさん!
ローダーシートは副隊長にして重歩兵のジャックさん!
ちなみにコビーさんによるとラジオオペレーターって言うのは通信担当のことみたいで、通信相手がいないから実は何もすることがないポジションなんだって。まさか車内シートに役割のないシートがあったなんて知らなかった。私がごめんなさいと謝ると。
「気にしないでください。そもそも役割がある席は運転席だけですよ。戦闘は基本的に降りて行うので、運転席以外では索敵以外の仕事は無いですから」
そうでした。たまたま戦車が出来ちゃったけど、この子はあくまでも移動手段だもんね。それに、乗り物が欲しいって念じてただけだから、大砲とかがちゃんと動く保証もないもんね!
ちなみに3両目はキャンセルしました! だって、途中でどんなのが出来るかわかっちゃったんだもん。あれは絶対あれだよ。アメリカの超有名な戦闘機乗りの映画に出てくる、トムって名前の猫型ジェット戦闘機さん。
飛行機も確かに乗り物だけど、猫魔法、何考えてるの? って思ったよ! あの戦闘機は二人乗り! 映画見たから知ってるよ!
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます