第18話 エデンの奴隷制度
「ど、奴隷?! いや、俺は奴隷なんて必要無いぞ!」
日本で育ったリンにとって奴隷制度は聞いた事はあっても馴染みの無い文化だった。
当然、報酬に奴隷を貰えると言われても必要無いし貰っても困るだけだった。
「やはり奴隷に馴染みがございませんか、リンさんの世界の話を聞いた時にひょっとしたらと思っていましたが、しかし奴隷自体はご存知のようですね」
「あ、ああ、俺の世界でも国によっては奴隷もいるかもしれないし、少なくとも昔はそういう制度があった。 けど俺のいた国には奴隷はいなかったよ」
「そうでしたか、ですがリンさんの世界とこちらでは異なるものかもしれませんので、奴隷を持つ持たないに関わらず、奴隷がどういったものなのかきちんと理解しておいた方がいいでしょう」
そう言ってキースは奴隷について色々教えてくれた。
奴隷には通常奴隷と犯罪奴隷に分けられる。
犯罪奴隷は文字通り犯罪を犯したものが奴隷に落とされる。
犯罪奴隷は奴隷ギルドで管理しており、通常個人で持つ事は無いらしい、犯罪奴隷は鉱山や辺境の開拓など労働力として使われる。
そして今回亡くなった奴隷商人の様に、個人で扱う奴隷を通常奴隷と呼ぶらしい。
この通常奴隷は税金が払えなかったり、生活に困った家族が売りに出す事がほとんどだそうだ。
ただ一度奴隷に落とされれば一般人に戻る事はほとんど不可能な為、余程困窮しない限り身内を売りに出す事は無いそうだ。
今回は戦争が原因で生活に困った家庭が奴隷として家族を売りに出したのだろう、とキースは言っていた。
そしてこの通常奴隷はリンのイメージする奴隷とは若干異なっていた。
奴隷として買われた者は原則、主人の命令に逆らう事は出来ない。
だがだからといってなんでも命令出来る訳では無いそうだ。
具体的には、奴隷の命を弄ぶ命令や、他者の命を奪う命令が禁止されている。
違反した場合、罰金が課せられたり、悪質なものの場合は奴隷に落とされるそうだ。
キースが絶対に覚えておくべきだと教えてくれたのは三つ
一つ、冒険者が連れて歩くなど命の危険はあるが弄ぶのとは異なる場合は認められている。
二つ、主人が自身の命を守る為に奴隷に自分を守らせ、その結果奴隷が死んだとしても罪に問われる事は無い
三つ、主人や自身、他者の命を守る為の命令は認められる場合がある、いわば正当防衛に当たるものだ。
この二つは罪に問われる事は無い、そう教えてくれた。
その他にも、
主人は毎年その年の奴隷税を支払う義務があり、これを怠れば奴隷を没収される。
主人は奴隷に必要最低限の食事と寝床を用意する義務が発生する。
など奴隷を守る制度が思っていたよりも多かった。
だがキース曰く、
「それでも奴隷はあくまで物として扱われます。その為、奴隷は侮蔑の対象となるのも事実です」
との事だ。
「以上が奴隷の基本的な事となります。 リンさんも今後この世界で生きる以上、奴隷は身近な存在ですから覚えておいて下さい」
「分かった、でもやっぱり俺に奴隷は必要無いな、その残された奴隷はどうすればいいんだ?」
リンはキースの説明で奴隷のイメージが少し変わった。
だがそれでも特に必要だとも思わなかった。
「そうですね、実はそこが問題なのです。 リンさんにとっては迷惑な話かもしれませんが、既に奴隷達の所有者はリンさんなのです。 奴隷商が亡くなり、野盗を捕まえたリンさんにその所有権が移っているという事ですね」
その言葉にリンは驚いた。
いきなり奴隷の所有者と言われてどうすればいいかわからない、といった様子のリンにキースは話を続けた、
「安心して下さい、まだ主人になった訳ではありません、あくまで所有者です。 売却する事も出来ます。 ただ所有者であっても奴隷の保護責任は発生するので、そこが問題なのです」
キースが言うには奴隷はすぐに買い手がつくものでは無い、同じ奴隷商であればすぐに買い取ってくれる場合もあるが絶対では無い。
しかし奴隷には食事も寝床も必要になる、所有者であるリンにはそれらを用意する義務があり、怠れば罪に問われると言うのだ。
奴隷の維持に費用がかかるのであれば、やはりきちんと売却する方が良い、という事だった。
「なるほど、話はわかりました。しかし参ったな、俺にはそういった知識もツテもありません、なにかいい方法は無いものですかね?」
リンはわざと困った様にキースに水を向けた。
その言葉にキースの瞳が一瞬光ったのをリンは見逃さなかった。
実はキースの話はどこか芝居がかっていた。
腹に含むところがある様子だったのだ、しかしリンにはそれが悪意や下心のようには見えなかった。
なのであえてキースに乗っかる事にしたのだ、
「リンさん、いい方法があります。 奴隷の売却を私に任せてみませんか? 護衛の報酬はきちんとお支払いしますので、なのであくまで対等な取引という事になりますが、いかがですか?」
やはりそういう事かと、リンは苦笑いを隠す事はしなかった。
キースも自身の企みなどリンに筒抜けな事は分かっているのだろう、お互いになんとも言えない笑みが溢れた。
「そう言ってくれて助かるよ、儲けは山分けでいいかな?」
お互い対等な立場なら、多少口調が砕けても構わないかと思いリンは少しだけ素の言葉で話す。
今までは年長者であるという事に配慮していたが、それを止めた。
キースもその言葉に笑顔で答えてくれた。
「そうですね、奴隷の世話はこちらでやりましょう、なので多少の手間賃は頂きたいところですね」
まったく商人と言うのは強かなものだ、とリンは内心苦笑する。
だが今まで見てきた大人とは違い、そこに悪意は無い、あくまで商人として利にシビアなのだろう、そう思えばむしろ好感すら持てた。
「そこは任せるよ、俺としては厄介ごとを引き受けてくれるだけでも助かるよ」
「ありがとうございます、正式な契約は後ほど街に着いたらという事で」
そういってキースが手を差し出してきた、これはきっとアレだな、と思ったリンは、
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
そう言って差し出された手を握り返した。
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その後、街に着くまでにキースからエデンの常識などを教えてもらった。
その中でも貨幣の価値はきちんと教えてもらった。
エデンでは通貨に特に名称は無いらしい、その理由は世界中で利用出来るので、必要ないそうだ。
通貨は全て硬貨で、最小単位が銅貨で次が銀貨、その上に金貨があり白金貨が最も価値が高い、それぞれ100枚で一つ上の硬貨になるが、使用頻度が高い銅貨は10枚で大銅貨、銀貨も同じように10枚で大銀貨になるらしい。
この世界には銀行というものが無く、全てギルドで管理してくれるそうだ、その為、ルフィアに到着したらまずギルドで登録するよう勧められた。
ギルドに登録すれば、世界中のギルドで引き出す事も預ける事も出来、信頼度も最も高いそうだ。
他にも色々な事をキースは教えてくれた。
そうして遂に、リンがこのエデンに飛ばされて初めて訪れた、人々が暮らす街
ルフィアの街に到着した。
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